第36話 王宮の応急処置
「ばかもーん! わしの磨いた「桔梗」をなんて使い方をするんじゃ!」
フローラの言う技官の元へ来た。刀を見るなりこれである。
「いや、武器だし」
「貴様、この優美さが分からんのか?」
「分かりますけど」
「いや、分かっとらん。いいか」
「あの大将、私達急いでるので、「桔梗」の魅力を語ってると7日は費やしますよね。そんな時間は無いのです。それに主を守って壊れるならば刀の本懐でしょう」
「はああ⁉ 馬鹿か? その刀を壊すだああ?」
「危ないなあ。その腕振り回さないでくださいよ。それも国宝なんでしょ」
「ぐええぇ⁉」
軽く喉を小突く。腕は職人の魂だからな。もちろん攻撃しない。
「今の動きで明らかですよね? 私はそもそも攻撃受けません。全部避けます。受けるのは後ろの味方を守るときです。それに私よりうまく剣使える奴はいないんですよ。早くやってください! 時間がないんです。残念ながら、あなた以上の腕の持ち主はいないんでしょ? やれよ。国難だぞ! 一本でも多く研げ、作れ!」
殺気。
「ひっ!」
「分かりました? この私があなたに命預けるって言ってるんですよ。あなたこそ覚悟あるんですか? 人類の存亡がその腕に乗ってるんですよ。下らねえ美学に拘って人類滅ぼすってか⁉ ああん!」
「葵! やめろ。お前の殺気はもはや毒だ。常人が耐えられるもんじゃねえ。アタイだって無事じゃ済まねえよ。しかも、なんか前より殺気濃くなってねえか?」
「ダメ! こいつは刀の何たるかを分かってない! 美しいから美しいんじゃねえ、敵の
「おい、やめろ! 死ぬぞ!」
「そもそも「桔梗」だって迷宮でドロップした刀なんだろ! これを超える刀は俺には作れねえって、心が折れちまったんだろ⁉ ふっざけんなよ腰抜け! 私の国じゃ、これ見たってなお刀作り続けてきてんだよ。私がこの剣折る前に、これを超える剣作ってみろや! ここがてめえの戦場だろうが! 逃げんな!」
いかん、少々熱くなってしまった。
「帰る。3日待つからとりあえず「桔梗」仕上げといて。金なら3倍は払うよ」
「あ、葵、待てよ。ぐう、すまんなじいさん、アタイの斧も頼むぜ」
「はあ、やれやれ。私の身にもなってくれ」
とため息をつきながらフローラは続けた。
「あと、爺さん、技官の副業は禁止だ。給金の支払いは通常通りだが、戦勝の際には臨時賞与が出るくらいかな。私からも口添えはしておくが、これは王命だ。必ずやり遂げてくれ。ま、違反した場合、王命に基づく処刑よりも先に葵の鉄槌が飛んでくるだろうから、頼むぞ。あんなの誰も止められん」
「はっはっは。葵殿も手厳しいですな」
先ほどの一悶着の跡、近衛騎士団長ドレークさんに呼ばれた。一緒に居るのはフローラはじめ、迷宮探索をした5人組メンバーである。
「いえ、思わずかっとなりました。ハンセイシテマス」
「いえいえ、あの老骨も腕はいいのに頑固でいけない。いい薬ですよ」
私もあの頑固さには手を焼いてましてね、とはにかんでいるが目はばっちりフローラを見ていた。
さて、と本題にを切り出されたのは、退魔戦争計画についてである。
「葵殿と茉莉殿はわが国とは文化的に距離があると思われます。そこで来るべき退魔戦争について何が必要かお考えをと思いまして。もちろん、気になるところがあればエリカ殿とクバラ殿も忌憚のないご意見を賜りたい」
うーん。ドレークさん有能おおおおおお!
近衛騎士団の学習意欲の旺盛さはこの人が築いた空気なんじゃないか? 模擬戦やられたときは辟易したけど。なんで外様の私に聞くんだよと思っけど、多分これ外様だから聞いてるんじゃない?
「エ? 難しいことは分からんネ。でも、強いて言うなら、今回敵の挙動は見えないヨ。空間転移で、どこに来るか分からないネ。だから機動防御と連携力を強化することが必要ネ。教会はどうせ情報通信ネットワークを持ってるヨ。私達にもあるネ。そいつらを活用して、部隊の位置と交戦状況をリアルタイムで把握するネ」
なるほど。あらかじめ先読みして防衛部隊を置いておくのではなく、機動部隊を複数用意して有機的に防御に動くらしい。
三国志において魏が蜀に対して取った防衛戦略だな。剛田が言っていたから多分あってるはずだ。
「なるほど。非常に良い案ですね。葵殿はどう思いますか?」
「いい案だと思います。王都の西門に浮動要塞を建築中の友人がいますので、彼女に新しい運送ギルドを作らせましょう。馬車より早く大量に物資と人員を運ぶ空の箱船を大量運用し、国内であれば即応できる体制を作らせましょう。そのために土魔術の使い手を大量に集めてください。それに食料だけなら投石器で飛ばせばいいですしね。私がギルディアに飛んだように」
「ほほう。物資も人も情報も加速させると。なるほどなるほど。実現できれば実質的な戦力を2倍にも3倍にもできますな」
あれ、この人もしかしてナポレオン戦争知ってる? ってくらいに理解が早いって剛田なら驚きそうだ。
「私からも一ついいかしら? 平場であれば死なない傷で死なないようにするのが大事ですわ。わたしの故郷では、それで人的資源が枯渇して戦えなくなったの。一番替えの効かない戦力は人間ということを忘れないでほしいわ。勇敢に突撃して死んでいくのはカッコいいかもしれないけれど、それで負けると苦労するのは残された方ですからね」
「なるほど。すでに消耗戦を経験されている方の助言はありがたいですな。騎士というものは突撃したがるものですから。なるほど、命の賭け時は慎重に慎重を期すことを方針としましょう」
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