第37話 激突!魔王軍。

 先日、髪を切った。さすがに長くなってきた。しかし髪型は変えない。動きに支障が出る。

 あれから半年が過ぎた。不気味な平穏だった。魔王軍はもう来ないなどとぬかし始める民草も出始めた。

 それもそうだろう。目に見えぬ脅威というものは目に見える恐怖より耐え難いのだから。

 しかし、個人の半年は長いが、国家の半年は短い。国防においてはなおのことである。


 私の場合、紫苑一刀流の動きを全国の騎士たちに教え込むのに苦労した。フローラが言語化してくれるからいいけど、ナオミは多分全力を出してないから、私の動きに最適化されても困るのでほどほどにした。

「いや、お前の動きについていけるのはもはやもう一人のお前だ。」

 フローラは呆れながらそう言った。嬉しくもあり寂しくもある。


「やばいよルナぁ、いろいろ足りてないよぉ。」


「なにへばってるんですのリリー。でも私も参りましたわ。資材の高騰による整備難、人件費の高騰でドライバーが確保できませんの。」


「あ、ルナ、リリー、お疲れー。急ピッチで仕事進めてもらって悪かったね。」


「「ああ、葵!!ここであったが100年目だぞ。」ですわ。」


「いや、怒らないでよ。おかげで対処できるんだから。私たちはこれからギルディアに行く。ついに魔王軍が確認されたって。」


「・・・ついにか。」


「うん。二人はとりあえずここにいて。どうやら空間魔法じゃない。森を抜けてきたみたい。」


「敵の戦力はいかほどですの?」


「確認できたのは魔王軍将級5体。ほぼ魔王軍全軍だと思う。こっちの斥候が全員生還したところを見るに、示威行動だね。明らかに囮だ。奴らこっちの戦力の集中を待ってると思う。」


「でもその決戦に乗るんだろ。行ってこい。待ってるからな。」


 例の迷宮探索5人組でギルディアに向かう。王都には各拠点に向かうための輸送「砲台」が用意されている。応援騎士団とともに向かうのだ。今度の「飛んでギルディア」たちは100人規模になるのだ。





 ギルディアに着いたとき、街はまだ無事だった。敵軍が布陣中なのは東に30㎞先。オーガの拠点があったエリアだ。この大森林地帯の先は前人未踏。森がどこまで続くのか誰も知らなかった。魔物巣窟。実質的魔王領だったのだ。

 そこを通り抜けて彼らと相対している。アレクサンドロス大王を迎え撃ったダレイオス3世もこんな気持ちだったのだろうか。


「久しぶりだね、ギルドマスター。敵の構成ってどのくらい分かる?」


 ギルドマスターに会いに行く。戦力の集結を待ち、防衛戦の構えのようだ。まあ、大軍相手に小勢で打って出るなど、愚の骨頂だな。と思ったけど、元寇のときの鎌倉武士を思うとそうでもないかもしれない・・・。


「よう、ギルディアの守護者さん。確認できているのは、魔王軍将ナオミ、ドン=ギュウ、アナスタシアと象の頭をした魔人。そして姿を変える者の中におそらく魔王軍将級が一体いる。魔力の密度が別格らしい。雑兵としては見えているだけでオーガ5万、オーク7万、ゴブリン12万。だが、影狼もいるだろうな。」


「数多いね。敵の兵糧はどうなってるの?」


「分からん。正直なぜ軍団が留まってられるのかが分からない。普通食欲だけで自壊するだろう。まあ、もしかすると空腹により凶暴化させる手はずかもしれん。」


「分かった。とりあえず、」


「伝令!敵の進軍を確認!」


 直ちに出動する。城壁へ。


「あれ、ジョン君。君もいるの?」


「ああ、葵さん。ええ、僕の故郷はここらへんなんです。追い出されたとはいえ、唯一のふるさとなんです。」


 覚悟の決まった顔をしている。言うことはない。身のこなしも隙が無くなっている。そうそう死なないか。


「分かった。じゃあ、みんなお待たせ。茉莉、アナスタシアを探して。」


「はいネ!」


 今回、戦局のカギを握るのは不滅のアナスタシアだ。倒した敵を復活させられては、元も子もないばかりか、突然包囲されることになる。真っ先に潰す。


「突撃せよ!魔王様に栄光をお届けするのだ!」


 早い。報告を受けてからおよそ10分で駆け抜けてきた。時速180㎞は出てる。

 報告にあった象の魔人か。象頭の体人間といえば、インドの神ガネーシャを思い浮かべるが、こいつは肩まで象の頭がある。両肩の頭の鼻に当たる部分が腕だ。長い牙が邪魔にならないのだろうかとは思うが、近づきがたい。けっこう厄介だ。


「王国魔法隊、放て!」


 宮廷魔導士の若手筆頭株の青年将校が火ぶたを切って落とす。12人の魔術師が順繰り魔術を使う。

 属性配分は火5風5地2か?などと考えていたら。


「嬢ちゃん。口開けて耳守れ!」


「あい!」


 そういうことね。

 1㎞遠方で大爆発が起きる。ここにいてもうるさいくらいだ。あらかじめ仕掛けておいた石炭粉塵を一斉に広げ、粉塵爆発を引き起こす。爆風と爆熱が森を焼く。


「やったか?」


 アホ。初撃でやれるか?


「敵は策を用意している油断せず、煙幕越しに魔法射撃してくれますか!」


「おう!まかせろ。」


 土煙のカーテンに向かって、魔法攻撃を仕掛ける。意味はあった。


「おおっと、油断ならない魔術師どもだなあ!このフェルディナント様が挽きつぶしてくれよう!」


 象の魔人だ。フェルディナントというらしい。


「突撃せよ!フレイムトレントよ!」


 奴らの一番槍は木製だった。オーガではなく樹人トレントであった。燃えながら火力を増しつつ街を呑み込もうとする炎の森だった。


「ぬおう!それが狙いか、が我ら精鋭、風の刃で切り刻んでくれるわ!【砂嵐塵サラディン】!」


「葵殿、助太刀願います!隊長はああ見えて接近戦が苦手です。」


「分かった!」と言いかけた時だった。


「久しいな、ご両人。賀新正旦がしんしょうたん一日閃終いちじつせんしゅうの心持だったぞ。」

 そのとき、聞きなじみのある声が後ろから聞こえた。

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