第35話 戦争準備

 さて、どこまで話したんだったか、私の先祖おそらく開祖もこちらに来たのだろうというあたりか。

 そして魔術や特に戦域を知って【匂宮】以降も作った可能性がある。

 いや、致命的に順番が逆だ。鎌倉期から【花散里】が風の刃をまき散らす技だったことになる。


 逆かもしれねぇ。鎌倉武士は魔術戦技を使えたってこと?

 なるほど、これならば為朝ビームも八艘跳びも与一伝説もすべて説明が着く?

 であるならば、なおのことナオミに会わねばなるまい。そして、その技のすべてを「教えて」もらうとしよう。胸の膨らませ方もね・・・。


「おい、葵、眠いのは分かるが、なんでニヤニヤすしてるんだ。帰ってこい。」


「はっ!?ごめんて。でも、私たちが今やるべきことってほかにあるの?」


虹の宝珠プリンキパールの能力増強幅の試算でしょ。冒険者ランクでE級相当の魔物がD級相当になるのかC級相当になるのかは、大問題よ。そもそもA級の戦力だって、王国に100人しかいないのよ。」


「私のように冒険者登録を受けていない者もいるだろうが、我々と一緒に戦って足手まといにならないのは50人いるかいないかだな。」


「あれ、フローラはA級冒険者じゃなかったの?」


「ん?ああA級冒険者相当ってやつだ。私は騎士勤めだから、そもそもギルドに登録されてない。」


「ほほう。A級とA級相当って別モノなんだね。」


「葵さん、実際はもう少し細かいですわ。人間がA級冒険者相当ならA級の戦力としてカウントできますが、魔物がA級相当ということは、A級一人で片が付くという意味ですわ。今回のようにA級が5人も駆り出されるような依頼は特級なのよ。」


「あ、ありがとう。分かった。」


 プロの用語はなんで細かいんだと思うが、必要だから細かいのだろう。あー、業界人になっていくなあ。


「それで、ナオミの強化具合なんだが、どんなもんだった?」


「うん、分かんない。なんかあいつ魔術使ってこなかったし。なんで使わないのかも分かんないけど。」


「ああ、たぶんそれは使えないんだろう。魔術回路が手ひどく切断されていたからな。だから終始私が優勢だったぞ。」


「【須磨】が効いてたのかな?でも吸血鬼の回復力って高くないの?」


「やっぱりお前の仕業か。あれを直すのは骨が折れるだろう。」


「吸血鬼なら満月の光で完全回復しそうなものだけど、あの伝承は眉唾なのかしら。」


「いや、一回満月を挟んでいたはずだ。ガセじゃないのか?」


「あれ?みんなも知ってるの?」


「有名だったぞ。ギルディアの守護者が広まる前まではな。」


「ええ、彗星のごとく現れた超大型新人て触れ込みだったわ。」


「ははは、耳が早いんだね。それで、強化幅だけどフローラはどう思ったの?」


「正直私にも分からん。殿を名乗ったのはフェイクで、本命はアナスタシアを殺させることだったんだから。とんだ名脇役だ。助演女優賞を差し上げたいくらいだよ。」


「たしかに、アナスタシアも本気で死にたくなさそうな挙動してたからなあ。名演技だ。」


「ちょっとちょっと、本題に戻るとどうなの?」


「「分からないから、手近な魔物を狩って強さを計るしかない。」よね。」


「分かったわ。それでギルドへの報告書は書いておくから。」


「分かった、じゃあ今日のところは風呂入って寝よ!」


「葵、今日は私がマッサージしてあげるネ。」


「うん!お願い!」







「ふふふふふふフ。葵もあんなかわいい声で啼くのネ。」


「ああ、正直意外だったな。いいものが見れた。騎士団への秘密の件、忘れるなよ。」


「思わずいじめちまったな。きれいな体だったぜ。」


「もう、みんなしていじめるんじゃありません。」


「葵、騙されるなよ。こんなこといって一番えげつなかったのは、クバラだからな。」


「・・・いや、全員同罪だよ。次は私依存症にさせてあげるね。」


 ああ、声がガラガラする。変に力入ってしまったな。後で、茉莉に改善点を伝えておこう。

 戦争が近いので、今日は物資を買い貯め。

 耳が早い商人は既に買いだめを開始してるな。まだ間に合ったかな。値上がりは困るのだ。


「フローラ、「桔梗」を研げるだけの技量がある鍛冶屋知らない?手入れは完璧にされてたから、誰かしらいるんでしょう?」


「ああ、そうだな。王宮お抱えの職人だよ。じゃあ研ぎに行くか。そこは私の依頼ということで安くしておくぞ。焦らなくてよい。需要が増えて値上げなんてことはしないさ。技官だからな。」


「へえ、フローラ、アタイも頼めるか?」


「ああ、大丈夫だ。が、エリカの斧だと怒られるかもしれん?」


「ええ、職権乱用ってことか?」


「いや、切れ味のことだ。鈍角で研ぐのをよしとしないんだ。」


 刃は鋭角ほど切れ味鋭く、鈍角ほど頑丈さが増していく。


「いや、でも欠けちまうだろ。鋭角だとよう。」


「いや、欠けない。鉄さえしれっと切ってしまうから、切れ味が悪化しない。」


「ええ!?凄腕にもほどがない?」


「ああ。あと葵。お前も怒られるから覚悟しておけよ。」


「え?私、刃に負担欠けてないよ?」


「馬鹿言え、鎧を溶かすほどの熱を放つ馬鹿があるか。なんで刃が溶けてないのか不思議でしょうがないが、ダメージは確実に入ってるよな。」


「ええ!武器は使うもんじゃん。」


 かくしてその偏屈な鍛冶屋に向かうのであった。

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