激突!退魔戦争

第34話 情報伝達、情報解析。 

 敵は辺りにいないが、とりあえず戻り石アリアドネイトを使う。

 一瞬にして光に包まれ、光が止むと迷宮支部の目前に居た。そのままギルドの応接室に行く。


虹の宝珠プリンキパールはどうなった?」


「取り逃がしました。」


「なんだと、あれがどれほどの価値を持つと思っておるのだ!!!」

 怒号が響く。


「ギルドマスター。お気持ちはお察ししますが、今は事情を把握することが重要かと。」


 あ、近衛騎士団長。たしかドレーク=ガーネットさん。暗い顔をしながらも冷静さを失わない。


「彼女ら以外には生還すら不可能と判断したのは我々なのですぞ。」


 ギルドマスターは黙りこくっているが、喉まで出かかっている怒りを抑え込んでいるのがよくわかる。ここで抑えられる当たり、やはり彼も強い人間だ。


「では、結果の説明を。フローラ、君にお願いしよう。」


 かいつまんでの説明は大変分かりやすい。騎士には必要な能力なのだろう。

 虹の宝珠プリンキパールは奪われた。

 魔王軍将ナオミと魔王軍将アナスタシアを確認した。

 敵は虹の宝珠プリンキパールいじり、湧く敵の強さを調整していた。

 虹の宝珠プリンキパールは敵を強化した。魔王軍将アナスタシアは精巧な死体を遠隔操作していた可能性がある。魔王軍将ナオミが空間魔法のようなものを使い逃亡した。


「なるほど。」


 そして未来の話。


 魔王軍将アナスタシアは近いうちに大規模侵攻があることを仄めかした。

 また、ネクロマンサーゆえ大規模侵攻の際には必ず前線に来ると思われる。

 魔王軍将ナオミは、葵とよく似た剣技を使うので、技を見ておくことは重要。

 今まで会敵した魔王軍将、ほか配下の魔物、あるいは野良の魔物までも強化される可能性がある。


 以上がフローラの要約だ。うーん、的確。

 そして、報告するまでもなく明らかなのは、虹の宝珠プリンキパールが戻らない限り、迷宮の魔物を生むことはないということだ。


「分かった。ここからは我々で対処するレベルの話だ。5人はよくやってくれた。3日間この王都で休んでくれ。フローラにも休息命令を下命する。冒険者諸君らには別途日当を出そう。ああ、ギルドマスターこれは国費ですから、お気になさらず。この休暇は葵さんにもあるから安心してください。休むのも仕事ですから。」


 恭しくお辞儀をして終わった。さて、暇になった。

 場所は変わってギルド3階。この後は戦士たちの感想戦だ。


「ごめんね、フローラ。立場悪くなったりしないの?」


「いや、多分、それはない。近衛騎士団長を見れば分かるだろう。500年以上前の退魔大戦以上の激戦が予想される。私という戦力をむざむざ使い捨てたりしないさ。」


「退魔大戦・・・。私の故郷を襲ったのだって、かなりの規模のオークだったそうよ。それがもっと強くなってくるなんて。考えただけで恐ろしいわ。」


「まあ、奴らはどうせ来るんだろ、やるしかないさ。」


「あなたはもっと幅広い視点を持ちなさい。エリカ。私達5人なら魔王だって倒せるでしょうけど、私たちは5人しかいないのよ。」


「そうだな、ん?葵、もしかして分身の術使えたりしないよな?」


「うーん?もしかしたらできるかも?【朧月夜おぼろづきよ】・・・。無理そう。」


「お前、いつもポンポン思いついたように使うよな。なんでだ?」


「ああ、それ私も気になってたの。突然、炎の戦技使ったりするし、なんでだろうと思って。」


「それに、ナオミというやつの剣と似ているのも気になるんだ?なにか関係あるのか?」


「うわ。いっぺんに聞かないでよ。まず剣技だけど私のは紫苑一刀流という流派で創始されたのは今から800年くらい前なの。とある文学作品にのめりこんだ酔狂な女剣士が源流なんだ。だから、技の名前が【蛍】とか【帚木ははきぎ】みたいに各章のタイトルから取られてるんだけどね、」


「ああ、章のタイトルが技の名前なんだな。」


「うん。で、例えば【蛍】は身を焦がすほどの恋をしているのに静かにしているという秘めたる恋の表現なんだけどね。これはてっきり比喩だと思ってたのよ。けれど、魔術の継承がどこかで廃れたから単なる比喩表現なのかなって思ってたのよ。」


「ああ。それなら納得ネ。私たちの武術。水の比喩、火の比喩、風の比喩多いヨ。自然の事物を参考にして、身体を自然に合わせていくね。これも無為自然ネ。人為を排すれば即ち自然。つまりエネルギー消費が最小限ネ。」


「なるほど。失伝していた奥義を復活させながら技を使っていたのか。納得だな。」


「再現?まあそうだと思う。実際どうだったかは知る由もないけどね。」


「それで、ナオミの剣技と近いのは偶然なのか?」


「うーん。詳しいことは分からないけど、偶然ではないと思う。というのも奴の剣にはうちで完全に廃れて、巻名すら残ってない技があるんだけど、【戦域構築:匂宮スカーレットローズガーデン】覚えてる。」


「ああ、私が戦域効果をかき消した、奴の戦域だな。」


「あれ多分、【匂宮】ってやつだと思うんだよなあ。」


「待て、葵。なんでお前は失伝したはずの巻名を知っているんだ?」


「ああ、ごめんごめん。うちの家伝の武術書だと失伝しているんだけど、巻名を取った物語の方は伝わってるんだよね。国中にね。だから、【匂宮】以降の巻がないなあというのはわかるのよ。」


 【匂宮】もそうだが、一番気になっているのがある。


「じゃあ、【戦域脱構築:夢浮橋】もか?」


「うん。鋭いね。源氏物語の最終巻。夢浮橋だと思うよ。本来ならうちの流派の最終奥義になるはずだったのかなあ。」


「分からないのか?」


「うん。特に最後の宇治十帖に関しては、作者が違うかも?って言われてたりするくらいだし。当時の先祖が組み込んだかどうかは分からないな。」


「うーん。どうにも判然としないな、葵。」


「なぜナオミが紫苑一刀流を使えるかの答えになっていないぞ。」


 証拠の挙がっていないことはあまり話したくは無いのだが、話さなかったで問題になりそうだ。


「これは推測なんだけどね、私の先祖もかつてここら一帯に飛ばされてきたんじゃないかと思うんだ。」


「そんなに遠いのか?というか出身はどこだったか?」


「多分、茉莉の国のさらに東。海を渡ったところだと思う。なにぶん空間魔法の事故みたいなので飛ばされちゃったから、よくわからないんだよね。」


「私は聞いたことないネ。東の海の向こうにさらに国があるのカ?しかも、前に出た方が安全ジャン!とか言いながら切りかかっていくような蛮族は知らないネ。」


「ずっと向こうの小さな国だからね・・・。知らない人がいるのも頷けるよ。」


 蛮族か、たしかに、反論できねえ。笑うしかない。

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