第31話 再戦!
休憩は終わった。月が微笑み、星がさえずるだけの静かな夜だった。
そのまま包囲網を下へ下へと押し広げ、ついに地下49階に到達した。
「既知の範囲はここまでだね」
「ああ、湧く魔物も強くなってきてる。まあ、5人いればどうということはないけどな」
「油断大敵ネ。と言いたいけど、私ここまで活躍してないヨ。食いっぱぐれるネ」
「いや、茉莉は居るだけで十分仕事している。チームが取れるリスクが全然違うからな。それに奴の気配を追えるんだろ。医者が暇なのはいいことだ」
「あれ、茉莉、この階にも奴はいないの?」
「あれ、そういえばいる気配無いネ。取り逃がしタ?」
「茉莉の感知から隠れられるようになったとは考えづらいよね」
「多分、地下50階ができたんじゃないかしら? そこから先は全くの未知ね」
「皆、気を引き締めていこう!」
そしてその地下50階への下り階段を降りたときのことだった。
「【
「【
構築はほぼ同時。しかし、敵の戦域がなんか違う。
「本当にしつこいストーカーさんだね。でも、ここで終わりよ。あなたも埋葬されなさい!」
「さっきよりも押し合いが強いわ。というか、私の戦域が包囲されてる?」
押し合いより包囲を優先して構築したようだ。じわじわと敵の戦域が迫ってくる。
「ふふふふ、さっきは油断しただけよ。もう逃がさない! あんたたちはここで私が葬る。そうしたら魔王様にもほめてもらえるわ。さあ死になさい! 私の栄誉のために!」
「やはり魔王の配下か。口が軽くて助かるよ。ついでに命も軽いといいんだがな」
「死人に口なし、冥土の土産だよ。そんなことも知らないの、お・ば・さ・ん?」
「その煽り、切れ味がない。やり直し! 【明石】!」
「くぅあ、またそれか。さっきから痛いけど、対策があるのよ。この子たちには効き目が薄いわよ。やりなさい、ゴーレムたち!」
ゴーレムと奴は言ったが、日本人の私には動く兵馬俑に見える。モデルとなった動物と同じくらいのスペックがありそうな土人形か? いや、でも鉄製っぽい。
「アイアンゴーレムだ。クバラ、焼き払えるか?」
肉薄した騎馬の兵馬俑が肉薄してくる。【明石】でなら切れるし、内側に光が入れば、ヤレるっぽい。前衛のみんなも転ばせたり、足をもいだりしてるな。
「戦域の維持でいっぱいいっぱいよ。とても魔術を使う余裕はないわ」
「一か八かやるしかないネ。【
「え? 私の戦域に細工?」
「そうネ。私も戦域合戦に参加するヨ! そして昼夜の推移を早めたネ。見るヨ」
【
灼熱2秒、極寒2秒の繰り返し。砂漠の一日を4秒に圧縮する。
単純計算で21,600倍の風化作用。安全なのはオアシスだけだ。そして温度差は砂漠の比ではない。
この領域に呑まれた鉄の兵馬俑は悲惨だ。瞬く間に金属疲労を起こし、細かい機構から死んでいく。
ルナが操っていたゴーレムとは操作機序が違うようだ。彼女は鉄塊を操る。人間の関節や構造を無視したところから鉄塊が飛んでくる。
しかしこれらの兵馬俑にとってモデルのように見えることが重要みたいだ。顔が判別不能になると、途端に動かなくなってしまった。操り人形の糸が切れたように、降霊術が切れた感じ。人型であるから人のように動くのだろう。面白い魔術だ。
そして、煉獄と氷獄の競演は、兵馬俑を破壊するだけではない。
「この、ぐぬぬ。ふわ⁉ ふええ⁉ うそお、なんで⁉ 戦域が、ぐらつく⁉ 揺れてる⁉ なんでよお⁉」
奴の戦域を見やると、激震が走っていた。
「思ったとおりネ。建築型の戦域は、押し合い時の振動に弱いネ。敵の召喚もポップもない、奴は今、戦域ごと動揺してるヨ」
「え? でも戦域合戦の肩透かしとか難しくない? なんでできるの」
「私は揺さぶってないネ。しかし、自然とそうなるヨ」
【
このとき、戦域の外郭が動かせないから、戦域の収縮の振動を術者の力量で相殺する必要がある。
でもそれは戦域の肩透かし以上に難しい。
「これが無為自然ネ!
奴の戦域は崩れた。
「くううううう、お前らなんか戦域が無くたって、踏みつぶしてやるんだから! 【
鉄くずとなった兵馬俑が吸い上げられ、5mほどの西洋甲冑を組み上げる。奴は中に搭乗しているようだ。
「この不滅のアナスタシアを怒らせたこと、後悔させてあげるんだから」
「時間稼ぎご苦労! 妾も参戦するぞ」
ん、新手か。この声、なんか聞き覚えあるような……
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