第30話 戦域再構築

「いやあ、ごめんなさい。戦域合戦は初めてだったから、どっと疲れちゃったわ」


「全然良いネ! また頼むヨ! 灼熱の砂漠心強かったネ!」


「それが次は【戦域構築:熱砂灼陽宮サニーデザート=アフタヌーン】は使えないのよ」


「どういうこと?」


 思わず聞いてしまった。私が【行幸みゆき】を使って戦域構築しても別段疲れたり、再発動に時間がかかる気がしない。


「あら、葵は戦域疲れしないの? すごいわね。でも普通は、一定時間再発動できなかったりするものよ」


「へー、そうなのか。ということはもっと強い戦域にできるかもしれないね」


 松の廊下を構築して階段転げ落とすとか、「殿中でござる! 殿中でござる! 殿、ご乱心! 殿、ご乱心!」とか言って敵の拘束に特化することとか、できるのだろうか?

 いや、落ち着いて考えると、雪が降ってないとダメだな。行幸=美雪の掛詞かけことばなんだから。あと最近の同世代には通じないのだろうなあ、松の廊下。


「葵、話聞いてる?」


「ああ、ごめん。ちょっと変な戦域作れないかなって考えてた」


「まあ、いけない子ね。とにかく私はこの戦域疲れの時間を軽減するべく、戦域に細工をしたのよ。こんなふうにね。【戦域構築:凍土氷輪宮コールドデザート=ブルームーン】!」


「今夜は月が綺麗ですね」


「言ってる場合ネ? 敵襲カ?」


 戦域の砂漠の空は星月夜。日中の殺人的な太陽光とは打って変わって、夜は極寒の地。特に戦域は寒暖差が激化している。マイナス20度くらい?

 そして相変わらず空気中の水分がない。


「茉莉、大丈夫よ。敵襲じゃないわ。さっきの子の戦域は昼の方が拮抗できる時間が長いと思うから、こっちは休憩がてら空打ちしようかなって思ったのよ。なんとなくだけどあの子夜行性っぽいし」


「なるほど。それがクバラの細工というわけか」


「ン? どういうことネ?」


「ふふ、察しがいいわねフローラ。連続で同じ戦域を使えなくなる代わりに、再構築までの時間を短縮したの。クールタイムはだいたい30秒よ。昼も夜も交互に来て連続はしないからね」


「へえ、やっぱり戦域ってバリエーションというかいろんな形があるんだね。」

「おおおお、なんか私も戦域できる気がしてきたネ。タオではなく、陰陽片方からやってみるネ!」


「あら、茉莉も戦域で悩んでたの? そうね。自分の力量が一定な中で何を尖らせるか、あるいは満遍なく構築するか。状況に応じての使い分けが大事よね。全てを望むと何も得られないのよ。弱くてもいいから戦域を使ってみるのも大事よ」


 ふふふと笑いながら続ける。


「エリカは戦域で作るのはヴァルハラがいいんだって言って、未だに習得しないのよ。もうとっくに戦域構築できるだけの力量があるのにね。この見かけなのに意外とロマンチストなのよ」


「む、こだわりは大事だ。アタイは斧で戦うが、相手に斧を強いるのは違う。【戦域構築:斧の時代スケッギョルド】なんざ使わねえよ」


「はいはい。だから私がクールタイムを短縮したのよね」


「ヒューヒュー、二人はラブラ、痛い。グーは痛い」


「んなわけあるか! まあ、いいパーティーだと思ってるけどよ」


「そうね。エリカはいい伴侶だわ」


「おい、誤解を招くだろうが!」


 うーん。バカップルにしか見えなくなってきたが、クバラが遊んでるんだな。


「しかし、美しいな」


「ありがとう。これはね、今は無き故郷の景色なの。まあ、戦域ほど苛烈な環境ではなかったけど、本物はもっときれいだったわ」


 クバラの故郷は魔物の侵攻により滅ぼされてしまったそうだ。世知辛い。


「うん、じゃあちょっと私は仮眠をとるわ。私から離れないでね。昼夜両方の戦域とも私の近くは安全よ。まあ、砂漠のオアシスね。だから逃げるときは私を移動させながら逃げてちょうだい」


 そういうと本当にクバラは寝た。


「嘘? 一瞬で寝たヨ?」


「ああ、クバラはいつもこうなんだ。いつでもどこでも寝るし、戦域を維持し続けたまま寝る。終いにはアタイに担がれて運ばれてても寝るからな。こうなると梃子でも起きん。だから担いで運ぶわけだが」


「……やっぱりあなたたちデキてるネ、ひゃ⁉」


「次は揉みしだくからな」


「わ、悪かっタ。冗談きつかったヨ。ごめんネ」


 剽軽ひょうきんに謝る茉莉。

 茉莉の二の舞を避けるべく、小声でやり取りする。


「なんかちょっとエリカの機嫌悪くない? 2番目に胸が薄かったこと気にしてんのかな?」


「それはないだろ。お前じゃあるまいし。クバラとカップルって話が怒りのツボだったような?」


「いやあ、実は戦域がコンプレックスとか?」


「そうか? 普通にエリカとの関係な気もするが、夫婦関係は分からん」


 あ、まずい、ばれていたようだ。


「おい、二人とも聞こえてるからな。フローラ、帰ったら揉みしだくから覚悟しとけよ」


「うぇ、それは勘弁」


「葵は、……葵は」


「な、なによ……」


「どうしよう、アタイに教養がないもんでな。無形文化財って掴めないなって」


「ぐはあ!」


「うん、やっぱりこれが一番効くな」

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