第28話 探索開始。

「痛たたたたタ、ちょっと痛いネ、ビリビリするネ。」


「このツボ痛いでしょ。で、ここを押すと、」


「あー、すごくほぐれるネ。心地いいネ。同じ人間の所業とは思えないヨ。」


「二人とも、何してるの?」


 初日の探索を終えた後、茉莉と技術交流をしていた。このツボ知ってる?というものだが、色々押し方やらお灸の方がいいなど、教え合いっこしているのだ。


「技術交流とデトックスを兼ねてツボ押しだよ。」


「そうネ。クバラもやってみるネ。ツボ押しすっごい気持ちいいヨ。無料でやってあげるヨ。」


「あらあら、じゃあお願いしようかしら。」


「寝る格好を勧めるネ。多分そのまま寝ると思うヨ。」


「ええ、いいなあ、アタイも受けてみたいねえ。」


「えーじゃあ私がやってあげるよ。パジャマパーティーしよう。」


「痛くするなよ。」


「勿論、ヴァルハラではないほうの極楽浄土を見せてあげるよ。さて、ツボを探しますか。」


 夜は更ける。






「ああ、よく寝たネ。死んだようにぐっすりだったヨ。でも要らない緊張はなくなったヨ。」


「ええ、夢見心地だったわ。またして頂戴ね。」


「うう、絶対にヴァルハラに行こう。極楽浄土に振り回されてはいけない。私は戦士なのだから。」


「葵、口外したら殺す。」


 今、私たちは冒険者ギルドの食堂で朝ご飯中。

 私は昨日丹精込めてマッサージしてたから寝不足なんだけどなあ。どっかで昼寝しよう。茉莉にもせがまれたからしてあげたんだったな。次はしてもらおう。


「あ・お・い!聞いているのか?」


「ハイ。キイテマス。私、クチカタイデス。」


 あの後、帰ってきたフローラにも施術を行ったんだよなあ。セリーヌさん直伝の秘術で寝かせてあげたらこのとおりである。どことは言わないがビューティフルなだけでなく、実はファビュラスだったことは墓場まで持っていこう。


 なんでもほかの騎士に舐められるので、小さくしておきたいらしい。

 はあ、でっかいことはいいことだって時代は終焉してしまったのか。

 いや、そもそも始まっていないのか?これも時代、栄枯盛衰だ。良き時代とは思わないけど。


「お、お嬢さん方、迷宮に行くのかい。元気そうで何よりだ。お、そこの嬢ちゃんは寝不足か?あまり迷宮を舐めちゃいけねえよ。最近は帰りが確認できてねえ奴もいるんだ。じゃあ、俺は行ってくるあ。もっと強くなれよ。」


 ナンパかと思ったが、違うらしい。いかんな。「月花美人」と一緒にいたときはけっこう声かけられてたから過敏になっている。ま、私以外のメンバーはやけにツヤツヤしているので、警戒はしておくべきか。

 私の花園は渡さないぞ!





 さて、迷宮の探索を開始しよう。

 といってもあまりやることがない。私の物理攻撃とクバラの魔法攻撃を非常時に温存し、茉莉を全力で守る方針で進む。

 地下10階までは罠がないらしいので、騎士のフローラを先頭に進んでいく。

 やはり昨日のアシュラーボーンは例外だったのか。オーガより強い魔物とも出会わない。

 オークは地下6階以降の魔物だったといわれているから、E級の冒険者は入れなくなってしまったのだけど。


「さて、次から地下11階だからエリカだね。」


「ああ、まあ、罠は少ないからそこまで心配いらないんだ。」


「そもそも迷宮って49階建てなんだっけ?」


「えーと1月前まではそうですわ。ただ、1月前から49階に降りて行った者が戻らなくて、1週間前から魔物が強くなり始めたのよ。今も15人が戻ってないわ。」


「それは大変だ。ちなみに、このメンバーで正面から倒すのが脅威になるのは何階層くらいからなの。」


「40階層からかしらね。私達二人も49階層まで行ってみたことがあるんだけど、倒してるとコスパが悪いなって思って戦闘を避けてたのよね。」


「まあ、アタイ達がここに来るのは狩りのためだからな。ほら、ここに来る前に私たちに声かけてきたおじさんがいただろ?あいつもほかの冒険者がビビって入らないようにああやって声かけてるのさ。」


「そうネ。冒険者はライバルでもあるヨ。あのおじさんもほかのハンターが減って自分の取り分が増えることを期待しているのネ。まあ、今の状況を考えると逆に親切とも言えなくはないネ。」


「でもあのおじさん大丈夫かな。皮算用に夢中で、獲物も増えるが戦闘も増えることが頭から抜け落ちてたような。」


「まあ、それで死ぬならそれまでよ。だからそれを期待して無謀を煽る奴もいるとかいないとか。」

「なるほど、互いに守り合う騎士とはそこが違うのだな。」


「ううん、どうかしらねえ。騎士様にも出世競争とか、軍功を挙げたいとかはあるでしょうけど、フローラはあまり意識してないのね。」


「さっぱりだな。」


「フローラはぶっちぎりで強いから気にしたことないんじゃない?足を引っ張る方がダサい、と思われてる。なんならとっとと出世させて殿堂入りさせとこうと思われてるに一票。」


「葵、お前がそれを言うか?」


「まあね、私が模擬戦で殺気漏らすのなんて初めてだったからさ。普通はそんなことないからね。誇っていいよ。フローラは強い。」


「ああ、なんとなく理解した。私はお前のミニチュアということなんだな。」


「早く追いついてね。フローラちゃん。」


「はっ、すぐに追い抜かしてやるさ。」





 そんなこんなで地下30階。


「ここからは先は伏魔殿もありうるから、警戒してくれ。特に大部屋に入るときはな。」


「「伏魔殿?」」フローラと私にはなじみがない。


「ああ、力なき者の墓場、力あるものの狩場だ。部屋に入った瞬間大量の魔物が出現して襲ってくる。」


「なぜそれを今言うのよ。もっと早くてもいいじゃん。」


「ああ、すまん。忘れてたわけじゃなくてな。「伏魔殿」には迷宮の床やら壁やらに迷宮の戦域が付与される。一種の戦域構築だ。この下からそれが広がってる。」


「ええ、伏魔殿は迷宮が作った戦域なんだけど、魂が無いの。建物でいえば基礎工事は完璧なんだけど、建てるべき建物がない状態。その基礎を借りて戦域構築するから外よりずっと戦域構築が楽なのよ。」


「なるほど、二人は戦域で巻き返してるんだね?」


「私は、ね。エリカはまだ戦域構築を覚えてないから、私の戦域でまとめて焼き払ってたの。ただ、同士討ちがこわいからみんな側によってね。戻り石アリアドネイトで逃げる場合も同じ手はずよ。」


「質問いいか?他人がそのトラップを踏んだ場合はどうなる。」


「いい質問ねえ。散発的な戦闘が何度も続くことになるから、そっちの方が地獄よ。一網打尽が一番楽ね。」

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