第26話 虹の宝珠《プリンキパール》

「葵殿、この王都アウグストゥには冒険者ギルドが2つあるのはご存じですかな?」


 表彰式の翌朝のことである。フローラに王城に呼び出されて、地下迷宮探索計画の説明を受ける羽目になった。


 優美な打刀「桔梗ききょう」を見せられてから、興奮のあまりちゃんと話を聞いてなかったのでありがたい。


「え?ここ以外にもう一個あるんですか?」


「ええ。もう一つは南西にあるその他の地区。その名も迷宮前線支部です。」


「前線?そんな物騒な支部があるんですね。」


「はい。昨日お話しした通り、虹の宝珠プリンキパールは、その管理が大変難しいのです。土くれから魔物を吐き出す第一級の呪具でもありますから。」


「え?」


「え?聞いてませんでした?」


「あ、はい。桔梗が手に入ったので、上の空でした。」


 ふーん、ということは、迷宮前線支部は、その迷宮に入って魔物を狩る冒険者を送り出す拠点のみならず、魔物を都市に入れないように防備する要塞の二つの側面があるのか。


「はあ、まあ、陛下もこの隙に頼んじゃおう、みたいな雰囲気で切り出しましたからね。さすがの慧眼ですな。」


「まあ、貰ってしまった以上はやりますよ。その迷宮に行って、最深部に異常がないか見に行くんでしょ?」


「急に賢くならないでください。びっくりします。ええ、その通りです。」


 虹の宝珠プリンキパールは魔物を生成しながら、地下を掘り進んでいく秘宝らしい。地盤沈下とか大丈夫なのか?と心配になるが、迷宮の壁は壊すのが極めて難しい素材だ。

 ゆえに迷宮の拡大により、空洞が増えれば増えるほど地盤が頑強になるという神秘が起きる。

 これにより城壁を増やしても地盤沈下しないと確信し、現在3層目の城壁をどうするか考えているらしい。

 これがっ、経済成長か。う、頭が、ぐすん。


「で、異常って何?」


「地下の深度が増すほど、魔物は強くなっていくので、逆に浅い階層で湧く魔物は弱いものになります。それが今回、浅い階層でも強い魔物が出るようになってきているのです。」


虹の宝珠プリンキパールが初めてのお出かけしようとしていると、」


「悪い冗談ですよ。そんなこと記録で確認されている限り一度もなかった話です。そして今魔王軍の活動が活発化しています。なにか関係があると見るべきでしょう。」


「分かった。じゃあ、その迷宮前線支部に行くんだね?」


「いいえ、パーティーを集めますから、ここで選抜ですよ。既にギルドを通じて、実力者をリストアップしてもらってあります。」


「へえ、え?フローラさんも一緒?」


「勿論です。やっぱり、ほとんど聞いてなかったんですね?」


「ハンセイシテマス。」


 「月花美人」の二人は参加しないらしい。まあ、ギルディア防衛戦の協力パーティーだったのだから当然といえば当然だ。まあ、西側で浮動要塞を建築中だったみたいだから、またどこかに行くのだろう。挨拶は折を見てでいい。





「ええ、次の方。ワン・モーリーさん。僧侶の方。あれ、中国っぽい名前?」


「中国?ミズガルズか?葵さんは博識ですね。ですが、そんな名前ありましたか?」


「はーイ、私の番ネ。「水が流厨?」知らない国ネ。南の海を経て来た娘ヨ。21歳。仕事は回復、タオって唱えれば一発回復ネ。早いヨ早いヨ。あとは、太極拳が使えるから多少戦えるネ。」


 おっぱいが大きい。あと、チャイナ服着てるけどスリット入りすぎてない?おっぱいが大きいし、下は履いてる?いろいろ突っ込みどころはあるけど、一番重要なのは、この子拳法使えるじゃん。

 私も回避能力の高い回復役は必須だと思ってたヨ。


「おおう、熱い視線感じちゃうネ。そこの黒髪の貴女、同郷ですか?私も染める前は真っ黒だったヨ。」


 訛ってるってことはこの子は転移してきたとかじゃなさそう。自力でここの言葉を覚えたんだ。すごい。


「えーと、まあ、実質?同郷みたいなものですネ。」


 いけね、つられちまった。しかし、これは引き入れたい。


「決めた。仲間にしよう。」


「おう、本当カ?私役に立つヨ。私はお金がっぽりネ。これはウィンウィン!」


「え?フローラ?お金なんかあるの?」


 偉かろうが何だろうがパーティーメンバーは呼び捨てにすると決めている。


「私には無いですよ。これも騎士の仕事ですから。そして冒険者にはギルドが臨時で金額を弾む約束です。非常時ですからね。」


「あー、それもあって私を呼んだのか。あれ、じゃあ私も何か貰える?」


「でも、本当に模擬戦闘は段取りになかったんですよ。そしてあなたには桔梗ききょうがありますよね。話聞いてました?」


「ああ、そっかあ、へへっへっへへ。お金じゃ買えない価値があるもんねえ。」


「この黒髪大丈夫なのカ?」


「大丈夫です。腕は確かなので。じきに剣にも慣れると思います。あと、フローラです。王宮の近衛騎士をしているが、パーティーでは一冒険者なので、気にしないでください。」


「分かったヨ。茉莉って呼ぶといいネ。」


「私は葵。よろしくね。あとで、技術交流しようね。絶対びっくりするよ。へへへへへ」


「・・・なんとなく分かるネ。身のこなしが近いヨ。だから同郷っぽさがあるネ。」


「じゃあ、次は前衛か、魔法使いかな?」


「そうネ。いまいる3人ともに物理も魔法も両方いける口ネ。魔法特化の人が欲しいヨ。」


「異議なしです。」


「じゃあ次は魔法使いの方にしようか。」


 パーティー選抜は続く。

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