第24話 王宮にて

 二人に連れられて行ったのは場末の洋食屋(こっちでは郷土料理なのだろうか)だった。

 煮込みが美味しかった。なんで端っこで店出しているのかは分からなかったが、美味しかった。


「いよいよ、表彰式か。変なところないですよね?」


「うんうん。いいんじゃないか? しかし、焦ったぜ」


「ええ、まさかまだ大きくなるなんて思いませんでしたわ」


「ああ、葵にマッサージしてもらったからかな?」


 ぐはあ!

 そうやって、そうやって、持てる者はいつだって持たざる者をいじめるのですわ。私の方がセリーヌさんのマッサージをたくさん受けているはずなのに。


 話を戻そう。いよいよ来てしまったのだ。ドレスアップの時間だ。私はギルマス推薦東欧村娘コレクションを経た服しか持っていないので、王城で借り受けることになったのだ。

 そして「月花美人」の二人も地域は違えど、似たような村娘スタイルと町娘コーデしか持っていないので、王様のお目汚しにならない服は持ち合わせていない。


 だから借りに来た。さすが王宮の侍女。こういうことにも対処してくれるなんてありがたい。さすがはプロである。

 制服で行くおとぎの国も悪くないが、プリンセスみたいな格好も悪くないじゃない。


 しかし、許さぬ。覚えておれ!「月花美人」。

 と戦闘スイッチが少し入っていたのが良くなかったのだろう。近くを通りかかった近衛騎士に目をつけられてしまったのだ。


「そこのお前、止まれ! なにか隠し持っておらぬな?」


「え? 私? 持ってないです」


「ボディーチェックだ」


 凛々しい声だが女性だな。そして同志だ。何とは言わないが。


「つ、謹んで」


「ふむふむふむ、ふむふむふむ」


 あれ、こいつ途中から、私の体に気を取られていない? もしかしてそっち系?

 狙われてる。いや、百合であることは一向に構わない。でも私は攻めるオンリーなんだ。


「うむうむ。素晴らしい筋肉だ。そしてそのなで肩。熟練の剣士と見た。是非、お手合わせを願いたい」


「え?」


 うわあ、面倒くさいな。公的機関の武官が好き勝手言わないでほしい。公式にせよ、非公式にせよ、勝ったら面倒な奴。

 私苦手なんだよ、きれいに負けるの。


「ははは、滅相もございません。田舎娘の喧嘩剣ですので、お目汚しになるだけかと」


「いやいや、謙遜めさるな。貴殿ほどの腕利き、このオーガスタ王国広しと言えども二人とござらん。是非!」


 ばか、声がでかいって、ほら年季の入った近衛騎士さんもなんかこっち来たじゃん。あ、もしかして助けに来てくれた?


「ほほう、ギルディアの3女傑のお一人か。たしかに比類なき剣豪とお見受けしますぞ。うん、おもしろい。御前試合を組み込めるか、いまから掛け合ってみよう。なあに心配めさるな。陛下もきっとお喜びになる」


 はい、敵でした。そして思ったより偉い人でした。そしてツーカーでこれから間もなく行われる儀式のタイムテーブルいじれる人でした。

 いや、生徒会の友達がタイムテーブル作って苦労してたけど、直前に新規イベントねじ込んでいいわけないよね?


 私いつもより動きづらいんですけどー。

 なんやかんや騒がしくなりはじめた王宮。嫌な予感がする。今、勅命って聞こえた。王様も脳筋かよ。あれ? でもこれならもしかしてワンチャン勝ってもいいんじゃね? いや、そもそも戦いたくない。






 はい、願いは空しく御前試合です。

 【桐壺】は余計な戦いをしょい込まない教えなのになあ。

 普通こういうのはさ、非公式にやるもんなのよ。


「勝つとお抱えの剣術指南役かなあ? わが一族の中でも出世頭だな。はーあ」


「お、勝つ気満々じゃん。まあ勝っても問題ないんじゃない? なんかさっきの若い近衛兵、最近なったばかりっぽいし、負けても別に失うものがなさそうだぞ。っていう情報が俺のところに来てるから、勝ってもいいんだろうな」


「ああ、そんな感じの話は私のところに来た侍女の方も言ってましたわ。葵、むしろこれ誰も勝てませんわって勝ち方をした方がいいかもしれませんわね」


「うん。私のところにも侍女さんが来たよ。まあ、恨まれたとしてあのおさわり近衛だけかな」


「大丈夫か、胸を触られてショックなのか? あとで抱きしめてやるからな!」


 ぐはあ!


「ちょっと!リリー。せっかくの衣装に血が付いたらどうすんのよ」


「私のメンタルは擦り切れました。私のメンタルは擦り切れました。がが、が」


「良かった、葵、服は無事ですわ。乗り切りますわよ!」


 どちらかというと心のケアをしてほしかったな。まったく、最高にハイってやつだ。燃え尽きたぜ。






 であるからして、今後ますますのご活躍をご祈念いたしまして、結びといたします。

 割れんばかりの拍手を受けて、表彰式は終了した。

 さて、表彰者の退場の前に不穏なアナウンス。


「それではただいまから、近衛騎士フローラ=パールとギルディアの守護者ヒカワ=アオイとの御前試合を開始します。両名前へ。あ、申し遅れました。ただいまから司会を務めます近衛騎士団長のドレーク=ガーネットです」


 いやあ、王様が一番悪い顔してる。このキャスト全部王様が組んだな?


「まずは葵様。この度は急な申し入れを失礼しました。そして快諾いただきまして、重ねて御礼申し上げます。私も上官ながら、フローラの戦いへの向上心には、常々感心しております。しかし、彼女は近衛騎士団に入団してから日も浅い。本日は葵様に胸を借りることができて誠に幸いです。私も代わってほしいくらいですなあ」


 ああ、近衛騎士団長も人が悪いなあ。真っ黒じゃねえか、この王宮。

 でもこれでギルディアの守りは盤石なことも分かったからいいんだけどね。

 臨機応変。強さへの渇望。悪くないじゃない。


「では、始めましょうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る