第23話 光の都 アウグストゥ

 ジョン君達への挨拶を済ませたのち、ギルディアを経つ。

 ああ、我らの太陽、ジョン君の笑顔がしばし見れないなんて残念至極である。きっと都落ちってこんな気分なんだろうなあ。

 まあ、今から行く方が都なんですけど。

 ジョン君から遠ざかると、朝日の輝きもなんだかくすんで見えた。


 馬車というよりはもう浮動要塞と言っていい馬車がギルディア西門を出る。

 ルナが気合入れて魔改造しているこの家は、たいていの魔物の攻撃は寄せ付けない頑丈仕様だ。オーガが壊そうとしても、手持ちの武器をいくつも壊さないとダメだろう。


 一応王都までは、直通の街道が整備されている。一応というのは、100㎞ごとにギルディア級の街があり、関所として機能しているかららしい。

 やっぱりギルディアは外郭要塞都市なのだ。ギルディアを含めて3重の街=要塞が王都を守っているのだ。


「今回は、王都からの招待状を預かっているので、関所もフリーパスですわ」


「ああ、来るときは通行税払ってたからな。中も見られなくていいしな。あいつら全部見てくじゃん」


「密輸品を警戒してのことだからしょうがないですわ。ま、今回はそれが無いのはいいことですわ」


 なるほど。関所の通過にそんな面倒くさいことがあるのか。


「でもこんなに便利ならこの移動手段広まればいいのにね」


「ふふふ、私クラスの魔術師はそういないのですわ。飛ばしますわよ。まあ、休憩込みで9時間後には王都ですわ」


 うーん。時速60㎞は出てるよなあ。これは本当に9時間後には王都だ。


 外で見張りをしながら、魔術の練習をする。【澪標みおつくし】で体の武器化を覚えた私は、今度こそ魔力を自在に操れるのだ、と思ったが、どうにもうまくいかない。

 【梅枝】も【野分】も使えるが刀がないと出力は落ちるし、火の魔術は相変わらず爪に火を灯す魔術だけだ。もしかして魔術ってその属性の魔術を一発食らわないと開花しないのか?

 いや、風の刃は受けてないんだよなあ。






 王都到着は夕暮れ時。17時30分頃かな? 王都の門番に事情を説明すると、すぐに中央エリアに入れてくれるとのこと。


「中央エリア?」


「ああ、葵には話してなかったっけ?王都は中央部を取り囲むように、6つの区画が存在する。もともと中央部が最初の街だったんだが、だんだん手狭になってきて、2枚目の城壁を作ったんだ」


「王宮の真南から時計回りに、農業区、工業区、武具区、飲食区、金融区、その他になってますわ」


 うーん、大陸にありがちな計画都市ってやつだ。まあ、一流の物を求めたらどこに行けばいいか分かりやすくていいのはあるけど。


「で、俺たちが向かうのは中央区。まあ、すべての区の成果が出そろう場所であり、貴族の上屋敷やら官吏の集合住宅やらあったりする。ここに住むのは大変だぞ。街自体がアンティークだからな」


 うわあ、たぶん家具の配置一つ自由にできないアレだ。外国特殊部隊の人が愚痴ってたな。どことは言えないけど。


「そういうわけで、この馬車ともお別れですわ」


 そういうとルナは馬車を土に返したのだった。


 ホテル(もちろん冒険者ギルド王都支部の3階の特別宿泊室)に荷物を置いたらもう19時。移動漬けの一日だったので、なんだかお腹がすいてきた。さっそくホテルを出て街に繰り出す。


 なるほど光の都とは皮肉なものだ。不夜城である。行政区画である中心部はもちろん、飲食区と金融区、その他の区画にも明かりがついている。

 農業工業系も研究か経理でもしているのか、明かりが散見される。


 このような尽力があって、この国は運営されている。これがこの国の


「弱さだな」


「え? なんで? 栄えてるじゃん」


「いや、寝不足の国が栄えるわけないじゃん。特に国の首脳部とも呼ぶべき機能が睡眠不足なのは国家の損失だよ。寝ろ。頼む、寝てくれ。さすればもっと栄えるのじゃ」


 だから古今東西、お偉いさんは判断を間違うんだよ。非常事態なら仕方ないけど、睡眠時間なんて一番削ったらいけない資本じゃん。

 健全な肉体に健全な魂が宿ることには懐疑的だが、健全な判断は健康な肉体にしか宿らないのだ。


「まあ、どっちがいいのかよくわからんが、飯屋が多いのはいいことだろう。どこ行く?あ、もちろん飲食区に行くぞ。中央区はたいてい料金2割増しなんだ」


「ええ、今日はたくさん魔力を使ったので甘味が欲しいですわ。ケーキも買って帰りますわよ」


 そうして3人、街の雑踏へと踏み出した。

 飲食区の街並みもまた整然としていた。パン屋、肉料理、魚料理、菓子屋など同じジャンルの店は密集している、これは競争を余儀なくされていそうだ。


 唯一、すべてのジャンルが一堂に会する中心部がメインストリームになっている。ここがこの地区の一等地だろう。

 このエリアを取るためにどれだけの血道を上げて来たのか。

 ここに店を構えるということが、この国で一番の料理人ということを意味するのだろう。これは異世界人である私にも容易に分かることだった。


 店の佇まい、風格、威厳。客である私たちの方が料理にふさわしいのか否か試されているかのような威容である。

 さて、いったいどの店に足を踏み入れるというのだろう。


「あ、葵。ここらの店は完全予約制だから、ふらっと来ても入れないぞ。ドレスコードもうるさいしな」


「そうですわ。空気を吸うだけで50,000ゼルド飛ぶ人外魔境ですの。我々が目指すのは端っこですわ。行きつけがありましてよ」


「そんな、匂いだけなんて、ご無体な」


 ずるずると二人に連れられて、王都の本当の端まで連れていかれることになった。

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