玉虫色の都

第22話 王都への招待状。

 領主軍も300人が本拠地に帰り、B級冒険者は一人だけ生還した。これがオーガの拠点殲滅戦の結果である。

 しかし、判定としては勝利だ。オーガがわらわらいる危険な拠点は潰したし、奇襲を防いだ。失っただけで何も得られなかった気分になるが、防衛戦とはそういうものだ。

 むしろ清々しいほどの勝利というのは、勝利の中でも珍しい部類なのかもしれない。


「私、王都に呼ばれるの?」


 ギルマスにギルド内の会議室に呼ばれた。「月花美人」の二人、ルナとリリーも一緒だ。


「ああ、今回のギルディア防衛戦での戦功を表彰したいとのことだ。」


「へえ、面倒くさい。でもそれ多分断れないやつだよね?」


 王様に目を付けられるとか面倒くさい。王様がとかじゃなくて、嫉妬がね。


「ああ、断ったら俺の上司の出世ルートも飛ぶ奴だな。おそらく100人単位で恨みを買うことになるだろうさ。」


 恨めし気な目で見てくるなよ。まだ断ってないだろ。


「でも、防衛戦力引き抜いて大丈夫なの?空間魔法による奇襲がないだけで、この街の東は前人未踏の地。その先は多分魔王領なんでしょ?」


「ああ、そのことについては問題ないぞ。王国軍の精鋭部隊がこの街に入ることになった。また儲かっちまうな。」


 へへへと商人の顔をするギルマス。彼の【戦域構築】は1対1を強制する。数の暴力が使えなくなるから、軍隊がオイタをすることもないか。これは軍隊の方が搾り取られそうだ。


「そっか、なら問題ないね。ただ、私たちの時間を拘束するについての日当はないの?」


「ははは、嬢ちゃんならそう言うと思ってたわ。けど今回はなし。王宮で報奨金がもらえるのだが、それをあてにしてくれ。君たちの1日分のリザルト相場は伝えてあるから、相応の物は用意されているさ。なんなら、カネでは買えないものが貰えるかもな?」


「ちょっと待ってくれよ。そもそもなんで俺たちだけなんだ?」


「そうですわ。魔物の侵攻を止めるのは人類の義務でさえあるでしょう。当然のことをしたまでですわ。」


 そうだそうだ。崇高な義務じゃないですかー(棒)。「月花美人」の二人も訝し気だ。もしかして何かある?


「おいおい、おまえらな、自分達のしたことを冷静に考えてみろ。オーガの拠点殲滅が任務だったのに、30㎞の森を越えて街を守りに来たんだぞ。歩いて二日の距離を15分で。いまや王都じゃ大人気だ。『飛んでギルディア』って演劇も作られたらしいぞ。」


「いや、そんなこと言ったらギルマスだって酒と敵は受け付けなかったじゃない。前代未聞な方法で敵の侵入を防いだ天才将軍さまじゃん。」


「おだてても何も出ないぞ。まあ、その酒が問題だったんだろうなあ。あと、この街守るのは普通に職掌だし。」


 やっぱり理解されないよね、ギルマスの遅滞戦術。よくよく考えたら【戦域構築】以上の武の神髄だと思う。殺しに来た敵と仲良くなって、穏便にお帰りいただく。まあ、今回は途中で殺し合いになってしまったけど、偉い人には現場が分からんのですよ。


「というわけでな、王都に向かってもらうから。」


 分かりました。と言ってギルドを出る。なんならそのまま西門の外まで移動した。


「今回も飛んで入城?」


「絶対だめですわ。嫌ですし、敵襲と勘違いされますわ。今回は私の馬車で移動しましょう。」とルナ。


 あ、これは馬車の揺れ酷い説あると思います。


「ああ、そうしてもらおうぜ。ルナの馬車は全然揺れなくて胸にやさしいんだ。」


 ぐはあ!ジョン君以外で血を吐くのは久々だ。

 リリーのやつ、昨日のマッサージで気絶させたこと、まだ根に持ってやがる。大胸筋の凝りを入念にほぐしていただけなのに、あらぬ誤解を受けたものだ。

 ちなみに、セリーヌさん監修のもと、二人の体をメンテしている。私もだんだん上手くなってきた。


「さて、じゃあ作りますわよ。」


 言うや否や鉄の箱が出来上がる。

 馬も車輪もないものは、馬車とは言わない。もはや家。


「あのう、頑丈そうなのはいいんだけど、断熱性のほどは?」


「当然、ばっちりですわ。見た目こそ鉄ですが、居心地の良さを最優先に設計しましてよ。言わば動く家ですの。」


「ああ、これはいいぞ。小回りが利かないし目立つから森の中には持ち込めなかったが、平場の移動はいつもこれだ。そのまま野宿もできるからな。」


「いや、屋根と壁のあるところでの寝起きは、野宿とは言わないじゃない。」


「ところで運賃は、1㎞あたり800ゼルドですわ。」


「「払います。」」


 王都まで300㎞。24万ゼルドだが、往復分の48万ゼルドを即断で出せるほどは稼いだ。ドン=ギュウ傘下の牛鬼の討伐報酬は美味しかったな。死体の保存状態は良かったし。狼が腕と一緒に落としていった打刀も私のものになった。武器はあるだけいいからね。


「では、わたくしは馬車を3人用に改造しますので、二人は必需品の買い出しに行ってくださる。」


 よし来た、リリーとお買い物だぜ。

 街を巡って、飲食料品、衣料品の買い出しを行う。

 途中、強引な客引きにあったり、ナンパされたりと面倒なこともあったけど、リリーがうまいこと躱してくれた。

 え?自分で何とか出来ただろって?いやあ、私がやると正当防衛を引き合いに出して法廷闘争になるから・・・ね。

 でもイケメン美女に守ってもらえる体験も悪くないじゃない。私にラブレターとかバレンタインチョコレート(本命)をくれた子たちもきっとこんな気分だったのだろうか。

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