第21話 戦後処理
「なんであんな嘘をつくんですか?」
「いや、ごめんて。嘘をつくつもりなんてなかったんだ。酒飲んでも酔えないから、酒席が苦手でね。いっそ飲めないことにして一滴も飲まないことにしたのさ」
ケイリーヌさんがおかんむり。ギルドマスターの体質を気にしていたのに、実際は真逆だったのだから、そりゃ怒りもする。
「まあまあ、ケイリーヌさん。実際お酒を受け付けてなかったんだから、嘘はついてないのよ。それに生きて帰ってきたんだし」
私もなだめる側に回るか。また5%引き券ほしいし。
「許してくれよ。俺だって何人も上司を破産させてきたんだぜ。もう酒で悲しい目には合わせたくなかったのよ」
「まあまあ、今度折を見てこっそり祝勝会でも開いて飲ませましょう。過去の記録から魔王の空間魔法のチャージには3カ月かかることは分かっていますし、今回より大規模になるのであれば、もっと時間がかかるでしょう。今後は復興と防備の増強ですが、早いうちに宴ですね。大丈夫ですよ。ギルマスの分も大量に発注しておきますから」
眼鏡クイッとサブマスター。結構時間的猶予はあるのね。
「いらんいらん。みんなで飲んでくれや。俺は筋肉にしか酔えねえ性質だからよ」
そういうと大胸筋を見せびらかすポーズ。うむうむ。剛田に引けを取らない良い筋肉。
逆かな? 引けを取らない剛田がすごいのか? もしかして剛田ってすごいのか?
相変わらずケイリーヌさんはむくれているが、街に居た人は全員生存。
しかし、超特急で帰ってきたA級を除いて、領主軍とB級はもちろんまだ戻ってきていない。
彼らの捜索と救援はサブマスターが手配してくれたらしいので、今はこんなに呑気なのである。
ん? なんか見落としてる?
「みんな待って。そもそもなんでギルマスは敵と酒飲んでるの? そこに突っ込まなくて良いの?」
なんか状況が飲み込めなくてスルーしかけたけど、そこ大事じゃない?
「ん? 話すと長くなるんだけどな? ドン=ギュウって奴を止められるのは俺しかいなかったわけよ。だから俺が出ていくしかない、ところまではいいよな?」
そういうとギルマスは自分の作戦について語り始めた。
「一方で、ドン=ギュウが恐れていたのは部下の全滅だったはずなんだ。一人でできる破壊工作などたかが知れているし、人数がいなければ占領できなくなる。だから、奴に勝てないまでも、部下の殲滅くらいはできる俺と戦うことは、指揮官として避けるだろうと読んだわけだ」
「たしかに、実力は伯仲してたもんね。まあ、戦うよりにらみ合いを選んだ理由は分かったけど、なんで酒飲むって話になったの?」
「それは向こうの提案だな。俺を酔い潰せると思ったんじゃないか? だから俺もそれに乗りつつ、酒はみんなで飲むもんだろって言って、毒を入れさせないようにしたのと、部下を潰す方向に持ってったわけだ。まあ、形を変えた前哨戦ってところだな」
「なるほど。互いにソフトパワーで戦力の削減を期待したと」
「まあ、結果としては奴の【戦域】で、復活しちまったけどな」
「の割には楽しそうに飲んでましたけどね」
チクリとケイリーヌさん。
「いや、楽しそうに見えてなきゃ、俺の腕が劣ってたってことになる。戦場としての酒場ってそういうもんよ。ここで商談勝ち取ろう、契約取ろうなんて考えながら酒飲ませてこっちも飲むものなのさ。どちらが先に酒に飲まれるかのチキンレース。空虚だよな」
なんかまさかの理詰めで反論。
「どう思う。葵ちゃん」
ケイリーヌさん納得してないよ。
「んー8割くらいは楽しく飲んでただけだと思いますけどね。ドン=ギュウとかいうボス牛、敵であることを除けばいい奴だと思います」
「あー、それは否定できないなあ。あいつの話けっこうおもしろかったぞ」
「あらやだ、二人して仲良くなっちゃってるじゃない」
敵の実力をちゃんと認めること。これは大事なことなのだ。
ギルドの事務室を出ると、「月花美人」の二人が待ち構えていた。
「葵。心配したんだからなー」
「そうですわ。なぜ真っ先に私たちのところに来ないのですか?」
「いや、しょうがないじゃん。私だって取調べられたいわけじゃないのよ」
二人とも言うほど心配してないな。まあ、一目で返り血って分かったんだろう。さすがはA級の冒険者だ。
今日は三人してセリーヌさんのところへ向かう。
私は整体目的だけど、果たして二人はどんな声を上げるのか、楽しみだなあ。
ふう。昨日はお楽しみでした。
私は体に残った痺れを取ってもらいました。セリーヌさん回復魔法まで使えるなんていったい何者なんだ。
おかげで気絶した二人を部屋まで運ぶのは私の仕事になってしまった。鍛えてますから2人まとめて背負うくらい訳ないのだが、二人ともなんでそんなに軽いの? 私が軽いなら分かるけど、なんで軽いの?
はあ、今日もお休みだし、街でもふらついて来るかなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます