第14話 奇襲、それは勝利の方程式。
作戦決行の日。予定より2日遅れて狼煙は上がった。そもそも私たちの出発も1日遅らせた。領主軍の行軍が予想以上に遅かったためだ。
まあ、あるあるだ。鬱蒼とした森の中を、500人の人間が移動する。移動先には衣食住のすべてがないから全部自分で持っていく。予定通りに事が運ぶことの方が珍しい。
しかし、困難を経て、オーガの拠点から見て西側に500人の部隊を展開し終えた。我々は北北東、B級冒険者たちも東南東に配置を完了している頃合いだ。
「じゃあ始めるぞ。狼煙を上げなきゃなあ。【フレイムレイン】。」
いま、戦の火ぶたは切って落とされた。リリーが樹上から矢を放つ。
しかし、狙いが大きく上に反れ、拠点の上空を大きく素通りしようかというその瞬間。空に火の玉が出現。
その火の玉は無数の小さな小火球に分かれ、集落を隈なく襲う。着弾とともに爆発炎上。
「これでスナイパー名乗ってんの詐欺じゃない?」
スナイパーは絨毯爆撃をするジョブじゃないのよ。
「「兵とは詭道なり。」ってな。」
「よく燃えていますわ。では、この粉をぶっ飛ばしますわ。」
ちょっとルナ、「粉」と「ぶっ飛ばす」は一つの文に入れたら駄目じゃない。
即席の投石機で燃え盛る拠点に粉をぶち込む。狼煙の色はグリーン。快晴の青に緑が映える。
もちろん、お偉いさんは作戦の全容を知っている。B級の冒険者や領主軍の兵士は今頃焦っているかもしれないが、オールグリーンだ。さて、このままゴーレムを突っ込ませるか。
そうして歩みを進めたとき、
「危ない!」
ルナにタックル。地面に押し倒す。
「きゃ、何ですの?」
ザンっという音がして幹に切り傷が入る。かなり深い。あのままであればルナは両断されていただろう。
しかし刃物はどこにも無い。
「風の刃?【ウィンドスラッシュ】かしら?でも魔力反応が無いのはなぜ?」
リリーが樹上から降りてくる。
「魔術戦技の【飛刃】じゃないか?剣を媒体に発射してる可能性がある。」
なるほど。魔術的に位置は掴み辛いわけか。
「とりあえず作戦失敗の狼煙を上げましょう。」
「もう燃やしてるよ。あと、今ので魔力尽きたから、普通の矢しか射れねえわ。」
「分かりましてよ!」ガギンッ。
今度はルナが土から生やした鉄柱で受ける。鉄にもがっつり傷跡を残していく。
「敵の狙いはなんだ?この攻撃を実行可能なのは誰だ?もしかして吸血鬼か?」ザンッ。
「分かんないけど、多分吸血鬼のナオミではないと思う。発動条件が刀を振るうことであれば、奴の太刀筋じゃない。」ザンッ。
攻撃頻度が上がってきている。私は空気の疎密が不自然なところが分かるからいいけど、二人は勘頼りで辛そうだ。勘だけで避けてるってそれはそれで凄いけどね。
「問題なのは、斬撃の飛んでくる方向がてんでバラバラなことなんだ。」ザンッ。
「なにか規則があるはずですわ。現在分かっていることは、敵は姿の隠蔽を重んじていること、そしてどういう手段でか斬撃を誘導していることですわ。」ガギンッ。
「どういうこと?」ザンッ。
「風は木を避けて通る。だから木に当てないように斬撃を飛ばすだけなら、そんなに難しくない。特定の風に乗せるだけなんだから。」ザンッ。
「ええ、私が辛うじて防げるのも「ガギンッ。」当たる直前に軌道が捻じ曲げられたような変な感じがするからですわ。」ガギンッ。
「よっと。」ザンッ。
ブリッジして回避した瞬間に赤い煙が3本見えた。
「まずいね、領主軍も、B級たちも、オールレッドだわ。」ザンッ。
「なるほど、狙いは俺たちだけじゃないってわけか。」ザンッ。
「そもそもオーガってこんな芸当できるの?」ザンッ。
「できない、ふぅあ、はずですわ。」ガギンッ。
考えろ。なにか活路はあるはずだ。
しかし、現状打破の妙案は浮かばない。汗が額を走るのみで、カラスの声が空虚に響くだけであった。
ところ変わって領主軍。
「ふむ。さすがはA級。大した火力だ。」
緑の煙が上がったのを確認した。今頃拠点は大炎上だろう。
「報告!」
「なんだ?ぐわ!?血迷ったか!?」
「中佐!影狼です。」
「なに、既に紛れ込んでいたのか?いや、お前もか!?」
二人とも切り伏せる。
「森の行軍中か?密かに入れ替わっていたということか。くそ、やられた。」
幕外での喧噪が聞こえてくる。
上を下をへのてんやわんやだ。
これは影狼の上位種と見るべきだ。いったいどれほど数を擁しているのだ?
まさか、オーガのほとんどが影狼だったなんてことは、だとすると狙いは我々だけではないはず!
「いかん。立て直すぞ。人型の影狼は戦闘力に劣る。各々距離を取れ!」
圧倒的に通る声。喧騒が止み、反応の遅い奴が浮き彫りになった。
「今、反応の遅れたものを殺せ!そいつが狼だ!」
だとしたら本命は街。街が危ない。
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