第13話 月は冷徹、花に棘。

 現在、「月花美人」の2人と親睦会を開催している。


 領主軍500名はこの街ギルディアには入らず、街の北10㎞ほどを野営しながら前進する手はずになっている。


 我々3人は、行軍スピードがおそらく最速なので、出るにはまだ早いのだ。領主軍の布陣完了を合図に作戦を開始する。


 つまり、時間的余裕はまだあるので、技術交流会を開催しているのである。技術広めすぎじゃないかって?いなくなる予定の世界だしいいかなっていうのと、私の気づかないこの世界の術理や戦闘技術を知る方が優先じゃない。


 今回、オーガの大量殲滅をしてもらうのは、多分ルナになるだろう。オーガより体格、リーチ、重量で勝るゴーレムを作り、単調な行動で効率よく殲滅するモデルを試作している。

 切り合い?極力しないに限るじゃん。一発貰ったら助からないんだから。


 私は何をしてるかというと、ゴーレムのパーツにかかる負荷が最小になるような動きを検討中。人間のパーツでいえば、肉や骨は空洞で、皮だけが直接動くような挙動なので、なかなか新鮮な考察だった。

 結局、薩摩示現流を参考に、刃渡り2mの大剣を振り下ろす挙動を基礎とし、敵が避けて接近してきたら、眼孔から鉄塊を射出するという二段構えに落ち着いた。


 本物の薩摩示現流は、一太刀で切れ、切れなきゃ自分が潔く切られろっていう流派だから、本当は二の太刀、二の矢ダメなんだけどね。

 ゴーレムの操作を簡単にしつつ、成果を出すならこれが良いでしょう。


 ルナに【帚木ははきぎ】を教えていて気づいたことがある。魔術師に限らず、魔力を用いて戦闘する人は、私の動きのコピーが上手い。ジョン君もジョアンナも上手かった。紫苑一刀流の身体操作の感覚は、魔力操作のそれに近いのだろうか?


 一方で、ルナに教わっても、私の魔術は上達しなかった。びっくりするくらい魔力が少ないですねと言われたので、転移と何か関係があるのかもしれない。そしてこれはまったくの余談だが、魔力は脂肪にたまるらしい。まったき余談である。


「隙あり!」


「ひゃ、破廉恥ですわ。」


 別に破廉恥なことはしていない。頭を使ったので次は体を動かしているだけである。それはそれとしてルナの触り心地は確認しているが。く、偽物じゃないのか。


「いやいや、リリーさんじゃあるまいし、破廉恥だなんてそんな。それにつねられるのは嫌だから隙を見せたらセクハラにしてくれと言ったのはルナの方じゃん。」


 そうこれは同意の上なのだ。

 

 ちなみにリリーは「男引っかけてくる。」といって街に出てしまった。けっこう開放的な人だ。まあ、そこもワイルドで素敵なんだけど。

 絶対女子からラブレター貰うタイプの人だと思ってる。


「そうは言いましたが、結局破廉恥でしてよ?」


「失礼だなあ、仁愛だヨ。」


 お尻も柔ケー。ここに脂肪と魔力がぎっしり詰まっているのか。うらやましい。

 このセクハラは、理に適っている。そもそも胴体を触られるような回避はそもそも失敗しているし、隙のある動作をしたときに不快感を与えておかないと、無意識にその動作をしてしまうのだ。だから私も心を鬼にして触る。本当はこんなことはしたくないんだ。


 



 訓練も終わりにしてぶらぶらしていたらジョン君を見かけた。


「あれ、ジョン君じゃん?お久しぶり?」


「ああ、先生。あれから全く見かけなかったので、心配してたんですよ。」


「いやあ、ごめんね、ギルドマスターに捕まっちゃってさあ。あれからいろいろ大変だったんだよ。ところでみんなは元気。」


「はい、おかげさまで元気ですよ。ジョアンナも特訓の成果を先生に見せてあげたいって言ってました。」


「おお、それは先生冥利に尽きるぞお。」


「ところで先生、何か変わったことに気づきません?」


 ああ、ジョン君。せっかくの洗濯日和が雲隠れしてしまうから、その眩しい笑顔は止めるんだ。


「うーん。分かった。EがDになってるね。」


「そうなんですよー。さすが先生お目が高いですね!この間みんなして昇級したんです。」


 めっちゃ嬉しそうなジョン君。どうしよ、かわいいが過ぎる。


「しかもですね、めっちゃ美味しそうな依頼を見つけたんです。それがなぜかD級からしか受けられないんですけど、城壁のメンテナンスなんですよ。これでまたいい装備を買って、次はC級ですね。」


「そっか、良かったね。ファイトー。でも、城壁のメンテナンスというか、高所作業って危険もあるから、十分留意してね。」


「はい。それじゃ、また!」


 ああ、癒されるなあ。


 あ、遠くのルナがキラキラした目でこちらを見てる。リリーはニヤニヤしてるな。まずい、十中八九誤解してるじゃないか。


「そういう年頃の方が好みですのね?」


「違うよ。誤解だよ。誤解です。」


「葵も素直じゃないな。言っちまえよ。男に「初めて」を教えるのが好きなんだろう?」


「そうじゃないって、これは「かわいい」だから。枕草子にもそう書いてある。小さきものはみんなかわいいって。」



「自分に嘘をつくのはよくないぞ?」


「そうですわ。年の差なんて関係ありませんことよ。女は度胸でしてよ。押し倒すのですわ。」


 ちょっと待て。リリーは分かる。なんでルナまで過激派なんだ。あと犯罪です。

 成長してゆく様を眺めるのがいいんじゃないか。なんで分かんないかなあ。


 夜は3人同じ部屋で寝る。場所は相変わらずギルドの3階だ。枕投げでもして遊ぼうかと思ってたけど、対オーガ戦の机上戦闘が始まってしまい、突撃条件、退却条件、失敗判断時の挙動、連絡体制など様々なケース検討を行った。


 なんだかんだ私は戦闘力の高いだけの素人であり、彼らは狩りと戦闘のプロ。その中でもA級というポジションを、血なまぐさい努力と研鑽けんさんの上に勝ち取った猛者なのだと実感した。

 そしてこれは完全に余談なのですが、ルナはL、リリーは実は着やせするタイプでDであることが判明しました。ぐすん。

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