オーガの拠点殲滅篇

第12話 作戦始動

「おはよう、諸君。わが街、ギルディアにようこそ。今回の作戦に参集してくれたこと、深く感謝する。」


 ギルドマスターのトーマスが挨拶している。ギルドの2階、大会議室にて作戦会議が開かれた。

 参加しているのは、B級冒険者8名、A級冒険者2名、領主軍の幹部5名、そして私だ。


 強さの目安としては、B級なら正面から一人でオーガ1体、A級なら正面から一人でオーガ10体を倒せるくらいの戦力らしい。領主軍は拠点占領用の人数なので、個の強さではなく数に期待されている。支援部隊含め、500人動員するらしい。


「知っての通りこのギルディアは人類の生存圏の最東端に位置している。ここから東に30㎞地点にオーガの集落が発見された。建築物の規模からして、少なくともオーガ300体は生活していると思われる。また、現在確認されたオーガはいずれも戦闘力旺盛な若い個体と思われ、年齢比からすると群れというよりは魔王軍の部隊と思われる。」


 この街の名前ギルディアっていうんだ。知らなかった。それはさておき、森の向こう30㎞に拠点ね。魔王軍の統率を考えると街まで2~3日の距離か。


「また、魔王軍の活動は活発化しており、10日ほど前に魔王軍将級1体と既に交戦し、これを退けた。また、昨日影狼かげろうが複数、それも連携して街に入り込んでいることも確認された。以上のことから、敵拠点にはオーガ以外の戦力が存在している可能性も十分ある。特に、影狼の存在は十分考えられるため、姿だけで魔物ではないと判断することの無いよう、同時に同士討ちのないよう注意されたい。」


 あ、そろそろ私の出番だな。


「それではここで今回の作戦の核となるA級冒険者から戦訓を聞く時間を取りたいと思う。彼女は緋川葵、先日特例でA級冒険者と認定した剣士で、魔王軍将1体を退け、9匹の影狼を駆逐した猛者だ。」


 最前列の椅子を立ち、講壇に上がる。

 A級の2人は私の腕を信じたみたいだ。B級の一部は私の実力を疑っているが、彼らは後詰部隊として敗走するオーガの追撃を担当する。だから、今この時点で信じてもらう必要はない。領主軍の精鋭も、一番上の武官は信用して良さそうだ。

 私を見ただけで油断ならない奴と評価できるほどの実力があるなら信用してもいいだろう。


「ただいまご紹介に預かりました、緋川葵です。私のように経験の浅い若輩が、実戦経験を積んでこられた皆様にお話しするなんて、僭越至極せんえつしごくではありますが、情報共有ということでお話しさせていただきます。」


 ああ、かったるい。しかし、人の生き死にを左右するのはたいてい情報だ。手を抜くわけにはいかない。


「吸血鬼に関しては、剣だけで挑んできました。私が打刀を持っていたので、同じ武器を持つ者同士ぶつかりたかったのではないかと、一武人としては愚考します。実際は、魔術も使える可能性が高いため注意です。また、伝承の通り再生力が高く、失血死は期待できません。切り落された腕を操作して不意打ちも行ってきたので、注意が要ります。討伐には火の魔術をぶつける必要があると思われますので、無理なら、地面に串刺しにして拘束することをお勧めします。そして体を霧にして逃げる技を使いますが、このギルディアに入るまでの2日間で吸血鬼による襲撃は無かったので、この技のデメリットは大きいものと予測されます。」


 あ、質問の挙手。わらわらと上がっている。詰めたいのはここじゃないんだよなあ。影狼の存在がちらつくこと。これがこちらの最大のビハインドだ。だから、影狼の特徴や見破り方を重点的に伝えたかったのだが、仕方ない。

 現在私を値踏みする視線を感じていたところだ。無能な味方は敵より怖いのは共感できるので、無碍にはできない。ここでは信用を得ることを優先しなければ。


「あー、疲れた。」


「よう、嬢ちゃん。なかなか様になってたぜ。もしかして将軍とかやってた?」


「冗談。人前で表彰されたり、スピーチしたりに慣れちゃっただけよ。」


「領主軍のお偉いさんも、「実力品性ともに申し分ない。君さえ許してくれるなら、ぜひわが軍にスカウトしたいくらいだ。」とか言ってやがったぜ。」


 モノマネしてる。悔しいことに似ているのだ。笑いをこらえつつジャブ。


「へー、そっちに浮気するのもありかな?」


「おいおい、そりゃもったいないぜ。嬢ちゃんなら、あの拠点に居るのがオーガだけなら単騎駆けで全滅させられるだろうよ。そしたら冒険者の方が絶対金になる。時給で働くもんじゃないぜ?買い叩かれたいのか?」


「うわ、じゃあ距離を置こう。それじゃあ、今後ともごひいきに。」


「おう、それとA級の2人はあの部屋にいるから、挨拶しておくんだな。」


「はーい。」


「こんにちは。今入ってもいいですか?」


 A級2人はチームで活動しているルナとリリー。「月花美人」とあだ名されている二人組だ。


「あら、噂をすれば、葵さん?どうぞ、お入りになって。」


「おう、入れ入れ。大型ルーキーさん。」


「お邪魔します。緋川葵です。」


 なんだか空気感が違う。ここは本当にいつものギルドか?華やかすぎない?


「お、見惚れちまったか?悪いな、君のハートを射止めるつもりはなかったんだがな。」


 スナイパーのリリー。皮鎧を装備しているものの暑いのか、へそやら肩やらが露出しているファッションで、ワイルド美人な印象。赤髪のショートヘアで、快活な印象を受ける。


「こらこら、いきなり失礼ですわ。ごめんなさいね。何度言っても治らなくて。」


 こちらは魔術師のルナ。魔術師然とした純白のローブを着こなしており、静謐な知性の気配がする。しかし、豊かな山脈は万年雪程度では沈降しないらしい。重力をものともしていない。


「よろしくお願いします。」


 2人とも性格は真逆っぽい、だからこそかみ合うのだろう。

 しかし、前衛不在か?


「お二人とも後衛なんですか?」


「おっと、俺たちの知名度もまだまだだな。」


「何を言ってるんですの、手の内が知られないのはいいことですわ。私が前衛もこなしています。こういうゴーレムを作ってね。」


 と、部屋の隅に置いてあった西洋甲冑を指さす。うわあ、動き始めた。なめらかだ。すごい魔法みたいだ。

 冷静に考えると、私も爪に火を灯す魔法を使えるんだけど、絵柄が地味なんだよなあ。


「そして俺は矢に魔力を乗せて、急所に一撃ぶち込むのさ。」


「リリーは言動が粗野なのが玉に瑕ですが、戦力としては申し分ありませんから、ついぞここまで一緒に行動してますの。ま、腐れ縁ですわね。」


 しかし、裏腹、ルナの顔は誇らしげに見えた。仲良きことは美しきじゃない。

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