第11話 ギルドの街

 翌日から街の地理を叩き込まれることになった。まあ、防衛待機要員なのだから当たり前である。

 しかし、ギルドが手広く商売をやれているだけあって、要塞都市の感が否めない。軍需産業というか、冒険者産業というか、武器・防具の比重が大きい街だ。

 やっぱりこの街、ギルドの意図で防衛拠点化するべく、街自体を作ったかんじなのかな?


 なんか剛田が言っていた。企業城下町というやつだ。この街自体冒険者ギルドのシマっぽいな。今はヒト、モノ、カネの呼び込みセール中って感じだ。

 これは、この世界のギルドとは喧嘩しない方が良さそうだ。良かった、ギルドマスターが人格者で。あとでゴマ擦っとこ。


 あ、この辺は武器、防具の類が売ってる。見ていこう。

 剣、斧、槍、弓矢、棍棒、ナイフ、鉈、六尺棒に、珍しいものだと三節棍もある。やはり打刀はあまりないか。大事に使おう。結局、分析したいからとか言って、ジョン君からもらったゆかりもギルドにとられたままだ。


 鍛冶屋の区画に行ってみても、やはり打刀を扱うところは珍しいようだ。買うのは諦めた。切れ味重視のダガーを5本購入。鍛冶技術を調べる。50万ゼルドの出費は痛いが、オーガ討伐戦で取り戻そうじゃないか。


 夜になったら、マッサージに行く。セリーヌさんに弟子入りをお願いしたところ、紫苑一刀流の極め技を教えてくれるならいいよと言ってくれた。

 くすぐったくてバタバタしちゃうお客さんを捕まえておきたいらしい。

 それはそれとして、毎日セリーヌさんを指名している。

 そんな感じでストレスがかからないような生活をしていたのだが、そろそろ限界だ。


 そう、グルタミン酸の禁断症状だ。何を言っているのかさっぱり分からないかもしれないが、昆布、しょうゆ、みそなどなどに含まれるうまみ成分。魅惑のアミノ酸が、とれない。これは幻覚なんてチャチなもんじゃねえ。満たされぬ欲望、終わりなき飢餓。

 いや、待てよ、ここにはローマ的浴場があったぐらいだし、きっとあるはずだ。あるはずなんだ。


「ガルム!!」


 ガルム。魚の塩漬けエキス。西洋風の魚醤ってやつだ。日本だとしょっつるかな。

 しまった。大声出したせいで、めっちゃ見られてる恥ずかし。道行く人が私を避けてゆく。そりゃそうだ。


「嬢ちゃん、ガルムに興味があるのかい?どうだい、一瓶3,000ゼルドになるが、買っていかないかい?」


 怪我の功名、差した光明、商機を掴むその手巧妙。

 商機?はっ、正気が戻った。こういう時はあえて狂気の側に振れてみるのが最善手なのだ。さて、誘いに乗って裏路地に行きますか。




「ずいぶん鼻が鈍いんだね、待ちくたびれたよ。魔王軍のワンちゃんたち。」

 全部で7匹。いや、このフォーメーション、2人屋根の上で見守ってるな。【梅枝うめがえ】。紫苑一刀流の手裏剣術だ。なんで一刀流なんて看板なんでい?


 ワンちゃんはのこり7匹。一般人なら擬態と分からないだろう。しかし、骨格が外見と一致しない。幻覚魔法的なものか?

 いずれにせよ、見くびられたものだ。これだけで倒せると思ってるんだから。


「待て、俺たちに敵対の意思は無い。お前、異世界の住人だろう。我らの側に与すれば、魔王様のお力で元の世界に戻れるぞ。」


「なんの話かな?」


 あと3匹。あとは生け捕り。動物虐待は趣味じゃないが、仕方ない。


「興味があるから、ゆっくりお話がしたいな。冒険者ギルドで。」


 ダガーの柄でぶん殴って気絶させる。


「が、あ、・・・・ぐふ。」


「え、泡吹いて死んでる。服毒自殺?気絶の前に?いや、魔術の線もあるか。」


 とりあえず冒険者ギルドの人呼ぼう。死体を事情聴取するのは専門外じゃない。





「お手柄だったな嬢ちゃん。」とギルドマスター。


「臨時収入はありますか?」


「おう、討伐報酬も振り込んでおくな。」


 倒したのは、影狼かげろうと呼ばれる魔物だったようだ。食った獲物の姿や声をコピーしてほかの獲物をつり出すやつで、集団行動は基本しないらしい。

 そいつが群れてるってことは、やっぱり魔王軍関係か。


 街にも「ネズミ」を放ってるのか。手ごわいな。

 しかし、もしかして私を転移をさせたのは魔王?そんなことあるか?めっちゃオドオドしていた年端のいかない男の子だったんだから。ちょうどジョン君くらいか、ちょい下である。

 はいやめ。考えても分からないことは考えない。


 あ、そうそうガルムはギルドでも売ってた高い奴を買う。400㎜で1万ゼルド。買えるもののうち最高グレードのものだ。

 ああ、アミノ酸の音~!

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