第8話 邂逅

「へえ、あいつはやっぱり吸血鬼なんだね?切っただけだと死なないのか?」


「僕も伝承でしか知らないんですけど、失血死はしないんじゃないですか?」


「あいつ首守ろうとしなかったから、頭を切り飛ばしても意味ないんだろなあと思ったから切らなかったけど。いろいろ試しておくべきだったかな。」


「吸血鬼には火が効くらしいですよ?」


 とジェームズ君。



「いや、たいていの生物には火が効くでしょ。松明とか押し付けてじわじわ焼くのか。うーん、残虐だし、手間がなあ。」


「普通魔術を使いますよね?」


「ま、じゅ、つ?」


「いやいや、この簡易テントだって僕の土魔術で作ったんですよ。火おこしはジョンの火魔術ですし。」


「あ、ごめん周辺警戒で見てなかった。なんかいつも根城にしてるのかと。」


「葵さん、やっぱりすごい辺鄙なところからいらしたのね?」


 あ、ジョアンナさんの火力が中火になってる。めっちゃ哀れまれてる。


「私も魔術使えるかな?切るだけだと苦労しそうだし。」


「大丈夫、使えますよ。僕が教えてあげますね。」


 ああ、ジョン君のどや顔。美男子のどや顔からしか取れない栄養がある。まばゆい。


「こほん。なら私も教えてあげなくもないわ。」


 ジョアンナさん。嫉妬の炎は強火だ。早よ、くっつけ。私が手を出したら犯罪じゃん。出さないけど。


「でも先生、その前に先生の技を教わりたいです。」


「あ、確かに。じゃあ、【帚木ははきぎ】から教えるね。大事なのは間合いの管理、後方に退くときの予備動作が見えないこと、最後に速さだね。」


 ジェームズは番をしに行った。ふむふむとうなずく二人。


「膝を使うから、スカート短くしよ。はしたないとか言わないでね。あと、男でも敵に膝は見せないこと。間合い管理の要よ。」


 さ、実践あるのみよ。物覚えがいいな。基礎的な動作はマスターした。完璧だ。さ、二人とも寝よう。


「ジョアンナ、寝ずの番代わってください。」とジェームズ。


「・・・・しまった。夢中で教えてた。」


 ジョアンナさん、ごめーん。


 翌日の夕暮れ、街まで帰ってきた。絶賛寝不足である。絶対肌荒れしてるじゃん。早く寝たい。

 なぜ寝不足かって、ジョン君と魔術の特訓してたからだよ。原理は体で理解できた。使えたよ魔術。爪から火を灯せる。便利だ。うん、便利だ。

 しかし欲を言えば、こう、もっとおおきな火の玉出すとか、平らな地面を隆起させるとかそんな魔術を覚えたい。

 そして、寝不足のままギルドに帰ったのは失敗以外の何物でもなかったのだ。





「で、オーガの首を取ったら、吸血鬼らしき女も出てきたと。」


「まあ、見たことないので確答はできませんが。ぽい奴と一戦交えました。」


 強面ギルドマスターに詰められてる。私だからいいけど、ガチムチマッチョスキンヘッドに大声で事情聴取されたら、ビビるだろう普通。眠いときにお役所仕事に付き合わされるとか、やめてほしい。


「あれも戦利品です。欲しいなら売りますよ。」


 戻るべき鞘を失った無銘の剣を指さす。


「待て待て、どこに行くつもりだ。剣は証拠品だから一時預らせてもらうが、購入はしない。検分が終われば返す。それに嬢ちゃんも証言者だ。明日、ギルド本部からも取調係が来るから、もう一度取調が行われる。それが終わるまではこのギルドにいてくれ。」


「それはそちらの都合ですよね。既に報告義務は果たしたわけですし、この街に留まる義務もないと思います。それに、ギルドマスターは私の実力を狩っているようですが、もしかして対魔王軍の戦力に勝手に組み込んでたりします?」


「おいおい、嬢ちゃん商才まであんのか?勘弁してくれよ。」


 冗談めかして言うが目はギラりと光る。商談開始だな。


「まず身分保証。お前さんの身元は、このギルドで保証する。オーガの単独討伐を認定し、B級冒険者の地位をやる。銀行口座も作れるし、武器の購入、不動産の契約時に必要だし、なんならギルドのお墨付きである分有利だ。ギルドの口座は既に開設済み。オーガ討伐報酬も振り込んである。」


 根無し草は辛いので、けっこう魅力的だ。


「うーん。あともう一押しかな?武器を一振り貸してください。検分するですよね、その剣。じゃあその間、その代わりになるのが欲しい。」


「分かった。それで応じよう。しかし、打刀はダメだ。あるにはあるが、そんなに流通してない高級品だからな。上の武器コーナーで君が使う分だけ持っていけ。壊れるのはしょうがないが、転売は許さんぞ。」


 とりあえず鉈と盾を貰っておく。これでやっと眠れる。


 ところで、肝心要のセーフハウスが、ギルドの3階にあったらダメじゃない?

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