第2話 異世界に行くかそのまま死ぬか?

「あーあー。聞こえますか?どうぞ。」


「?聞こえます、どうぞ。」


「あ、良かった。つながった。驚かないで聞いてほしいんですけど、こちらの世界に来てくれませんか?」


「そういうの間に合ってるんで大丈夫です。布教ですか?頑張ってください。応援しています。」


 そういえば声しか聞こえないな。私の目、どこ行った?声の主は慌てたように続けた。


「えっと、あの、本当に驚かないパターンは初めてです。ちょっと状況から説明しますね。」


 謎の声によると、私は上から落ちてきた看板で頭を打つ寸前らしい。そしてそのまま死ぬか、異世界に行って生き残るか選べということだ。

 しかし、この声の主。神業使える割に、私より年下っぽい印象。


「うーん?つまり、「ここからでも入れる保険があるってことですか」状態なわけね、私。」


「そうです。」


「看板かー、建物から出るのを急いで警戒しなかったな。一生の不覚。ちなみに、この世界に帰れたりするの?」


「私が呼んでいるわけですから、私の宿願が叶ったのちにお帰しします。」

「じゃ、お願いします。」


「え?決断早い、私の野望が何かとか、どんな世界かとか聞かなくていいんですか?」


「ん?生き残る目がある方に動くのは当然じゃない。私17歳よ。あと70年は生きる予定よ。そのままで死んじゃうなら行くしかないよね。」


「でも、こっちは危ない世界ですよ。」


「その危ない世界で何かしてほしいから私を呼ぶんでしょ。それ私が考えることじゃないよね。考えるべきは生きたいか否か。その二つじゃない。」


「覚悟ができているなら、何よりです。では、転移の最中にもろもろご説明しますね。」


 そういうと声の主がなにやらバタバタし始めた。バイト始めたてなのかな。慣れないうちは苦労するよねー。という気分で待っていた、ら

 森の中でした。


「ここどこ?いきなり国境の長いトンネル抜けた感じ?ウケる。おーい。少~年!」


 音はむなしく森の中に吸い込まれていった。いや、雪国じゃあるまいし。

 何事にも初めてはある。彼にも私にもある。なんか慌ててる感じがかわいかったじゃん。あとで会ったら、からかってやろ。


 しかし、素手は危険だ、武器がほしいとさまよっていると、人の声。しかもなんか争ってるじゃん。

 君子危うきに近寄らずとは言うけれど、私は月もうらやむ17歳。ひとりぼっちはもっと危ない。

 争いとはつまり、弱いほうに恩を売るチャンスなのだ。


「弱いものいじめは良くないですね。しばきますよ。」


 なるべく強者の風格を醸し出す。戦闘力53万くらい出力されてればいいかな。

 見れば男三人が少女からカツアゲしようとしているではないか。


「ああ?なんだてめえ?珍妙な服だな?俺はな、このガキに用があるんだ。かっこつけようとか思うんじゃねえぞ、兄ちゃ」


 誰が男だ、誰が。と思ったが妥当かもしれない。セーラー服ってもともと海軍の制服じゃない。そう考えるとこいつの感性けっこう鋭いのでは?

 反射的に腹パンしてごめんね。隙だらけだったから。


「兄貴、兄貴、なんだこいつ、見えなかったぞ。兄貴しっかりして下せえ。こんなひょろがり男のパンチ、速いだけでさあ。」


「いや、兄貴、男のくせに長髪なんてとんだ不良でやんす。ここは逃げるでやんすよ。」


 へえ。




「大丈夫?お嬢ちゃん。失礼な男どもはもういないから安心してね。」


 野蛮で粗野な男3人に囲まれて怖かっただろう。もう大丈夫。金髪碧眼の儚げな子だ。8歳くらいかな?


「あ、ありがとうございます。お兄さん。あ、あと、僕は男です。」


 軽くデコピンしてやると思い立った指先が、自分の額に標的を変えることもあるのだと知った森の中。

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