第53話 日帰り冒険の締め
森林領域。
採取による稼ぎをしている、『迷宮の知恵』パーティに同行し、師匠としてアドバイスをしている。
だが、アドバイスをしようにも、もう基礎的な部分は文句をつける余地がないように思えた。
あとは応用だが、そう言った部分は、その冒険者が自らで考えて行動し、最適化していくものだろうと俺は考えている。
俺も結局、基礎的な部分を除けば、俺のやり方をしているからな。
具体的には俺は、兵站を最重要として、命を惜しみつつ、「いかにパフォーマンスを下げないか?」と言うことを考えたプレイングをしている。継戦能力に特化していると言えるだろう。
だが、例えばアマゾネスなんかは、その凄まじい戦闘能力でダンジョンのモンスターを蹴散らして、頑丈な胃腸で、毒持ちのモンスターすら食べてしまい……、力の限りあらゆる障害を蹴散らして進む!という強引なプレイングをする。
前に雇われた『復讐の花嫁』というパーティでは、リーダーの勘と経験によって、勝負どころでは大きくリソースを注ぎ込んで突っ込み、それ以外では慎重に……、と言う形だったし……。
ハリー率いる『陽光遮断』のパーティでは、前衛の精強さを利用して、目についたモンスターはなるべく倒し、本当にどうしようもない強敵からは確実に逃げられるように場を整えておく、なんて戦法を使う。
人による、のだ。
どれが正解とか、そういうことは誰にも分からない。強いて言えば、それで生きて帰って来れたのならば全て正解だろうか。
なので、あくまで持論だが、と断ってから話を始める……。
「今のところ、問題はないと思うぞ。敵が一体だけなら、身を守ることを優先して嬲り殺し……とは違うが、ゆっくりと無力化するところ。『湧き』の場所を地図に記録しておいて、そこを回って素材を回収すること。全て正しい。だが……」
「だが?」
ピーターが首を傾げて聞き返す。
「俺だったら、もう少しニッチな需要を探すだろうな」
「えと……?」
「ヒールルート採取に目をつけたのは正しい。だが、多分、皆が知っていることだ、それは。皆と同じ仕事をすると、『湧き』の場所で……」
そんな話をしながら、ヒールルートが『湧く』地点へ向かっていると……。
「あ」
別の冒険者と出会った……。
こいつらは……、『第八迎撃隊』と名乗る連中だったな、確か。
前に一度、酒場で会ったことがある。
俺にとっては、「目をかけている」と言えるほどではないのだが、こうして冒険の途中で顔を合わせたり、酒場で軽く会話をしたりなど、多少の縁がある中級冒険者パーティだ。
リーダーは、憲兵上がりのヒューマン、マックス。『怒れる者』マックスだ。
左足の古傷を隠す鎧と、黒革の鎧が特徴。黒髪の短髪、髭面。
得物は槍で、憲兵上がりの戦闘術は、数年前までは単なる農村のガキでしかなかった『迷宮の知恵』のメンバーでは対処不能だろう。
マックスの方はメンバーが四人とは言え、腕の差は覆せない。
「……ああ、あんたか」
マックスは、最初は槍を持ち身構えていたが……、俺の顔を見ると安心して、緊張を解いてきた。
一方でピーターは、ナイフを構えて警戒したままだ。
それなのに、マックスが警戒を解いたのは、俺という信頼できる存在を見たから……、だけではないだろう。純粋に、ピーターくらいなら構えていなくても対処できるくらいに強いからだな。
「ヒールルートを採取しにきたのか?悪いが、ここではもう俺達が採取をした。他所へ向かうんだな」
そう、マックスは言いつけてきた。
つまり。
ヒールルートのような分かりやすい採取物は、このように「先客」が採取をしていることが多い……、ということ。
俺は、そんな説明をしようとしたのだが……、ピーターは依然、ナイフを構えたまま露骨に警戒をしている。
これは良くないな。
「ピーター、露骨に警戒をするのは、相手を刺激することになるぞ」
「で、でも!ダンジョン内での他の冒険者は……!」
うん、そうだろうな。
「もちろん、半数は『襲ってくる』。警戒をするのは正しい」
モンスターを倒したり、長距離を歩き回って採取をしたりしないでも、冒険者の「ドロップアイテム」を手に入れた方が楽だ、などと考える奴は多いということだ。
ゲームなどでも、ダンジョン内で何故か「Lv3ファイター」などが敵として出てくることがあるだろう?それについて、理由はこれに尽きる。
何せ、ダンジョンの中では法律なんぞ機能していない故に。
ピーターのこの露骨な警戒心を見るに、そう言った不届な冒険者に襲われたことがあるのだろう。
威嚇をしあって、縄張りでばったり出会ってしまった野生動物のように吠え合いながら徐々に離れる……というのは、間違いではない。
だが、しかし。
「この場合、頑丈なテレサとルイーズをさりげなく前に出し、後衛は呪文の準備。ピーターはさりげなく身を隠し、強襲できる位置につくべきだろう。するべきは『威嚇』ではなく、いつでも殺せる『準備』だ」
そっちの方が、生存率は高い。
俺はアドバイスをした。
「え、いや……、先に手を出されない限りは……」
ああ、そうか。
いや、うん。
俺は、少し笑ってしまった。
「ピーター、ダンジョンはな、荒くれ者のいる酒場じゃない。殺し合いの場だぞ」
地上でならば、喧嘩の場面でならば、そうだろう。
相手に先に殴らせれば、やり返した方は「正当防衛」という扱いで罪は軽くなる。
この考え方は、この世界ではスタンダードな方で、一般的な農村でも「先に手を出した方が悪い」というのはよく習う決まりらしい。
だが、ここは、ダンジョン。
栄光と死に満ちた、戦いの場。
「間違って殺してしまっても、ダンジョンでは罪にならない。『ダンジョンで怪しい行動をする奴が悪い』からな。法も何もないんだ、先に攻撃できる方が絶対的に有利だぞ」
「い、いや……、そ、そうだ!後で復讐とか……!」
「全員殺せばいい。殺した後、蘇生できないように死体を始末しろ」
「えぇ……?!」
「もちろん、倫理的にはお前の方が正しい。だが……、お前がやらなくても、『相手はやってくる』ぞ?」
「あ……!」
こうして、ピーターは理解したようだ。
ダンジョンの大原則……、「先に殴れ」を。
「なので、少しでもおかしなことをやってきた奴は……、構わない、即座に殺せ。その方が安全だ」
「……はい、分かりました」
ああ、それともう一つ付け加えておくか。
「それと、ピーター。お前は、自分達のパーティが上に行くために努力をしているようだが……、横の繋がりも意識した方が良いな。酒場で他のパーティと友好関係を築くとか、そう言ったダンジョン外でのダンジョン攻略も大事だ」
そう、そこだ。
『第八迎撃隊』は、中級とは言え、そこそこに名の知れたパーティ。
知っていれば、あるいは、ダンジョンで出会う前に冒険者の酒場で挨拶の一つでもして、お互いを認知していれば……、こうして警戒をする必要もなかったはず。
冒険者は、上……つまりはギルドに気に入られれば良いというものではない。
どんな仕事にも共通して言えることだが、横の繋がりもバカにできないのだ。
特にこのように、「狩場」を共有するパーティとは、少し無理をしてでも関係を持っておいた方が良い。
冒険者はライバルであり、ともすれば襲ってくる恐れのある「敵」ではあるが……、それと同時に、同じ立場の「同業者」なのだから。
「は、はいっ!」
……こんなところだろうか?
ヒールルートは手に入らなかったが、パーティ単位での行動に問題はないだろう。
むしろそれより、人脈作りや俺以外の師……あるいは規範となる者を作ることこそが、次の課題だ。
俺はそう言って、今回の冒険についてまとめた。
ピーター達、『迷宮の知恵』パーティは、伸び代はそこまである訳ではない。
だが、この調子で地道な努力を続けていれば、冒険者として大成はしなくても、「稼げる」くらいにはなるはず。
俺は、そんな冒険者が好きなのだ。
どうか、彼らも、俺の好きな冒険者であり続けてほしいものだな。
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