第54話 混じりの子との世間話
真冬。
ダンジョンの中そのものは、領域にもよるが基本的に過ごしやすくなっている。草原領域のような浅いところは、いつでも小春日和と言ったところ。
だが、ダンジョンの外。
この世界はそうはいかない。
「うおおおおおお!!!!寒寒寒寒ゥ〜〜〜!!!!」
「ひいい〜〜〜っ!!!寒ぃ〜〜〜!!!」
「死んじまうぅーーーっ!!!」
外は大雪、しかも吹雪。
コートに雪の塊がへばりついた冒険者が、半泣きになりながらギルドに突っ込んできた……。
「宿なんかで寝てらんないぜ!」
「ああ、安宿はやっぱりダメだな!あんなところで寝たら、二度と起きられなくなっちまうよ!」
「うおお!ギルドの大暖炉〜〜〜!火神ヴルガヌス様万歳だぜぇ!」
底辺の冒険者が泊まるような安宿は、暖炉の薪をケチったり、隙間風があったりして寒い。
だから多くの冒険者は、しっかりとした建物で、大きな暖炉がいくつもあるギルドに転がり込んでくる。
ギルドの酒場でいくらかの注文をするならば、まあ、マントにくるまって暖炉の前で少し眠るくらいは許されるからな。
「女将さん、俺、ホットワインね」
「こっちには薬草茶をくれ。うんと熱くして」
「ホットミルクをちょうだい!ああ、寒くて手が悴む……!」
それを望んで、底辺の冒険者が、スパイス入りのホットワインなんかを啜りながら暖炉の前に集まっている……。
底辺冒険者というのは、こんなものが普通なのだ。
悲しい話だな。
俺?
俺は水炊きを食いながら熱燗を飲んでいるところだ。
あと、持ち込んだヒーターで温まっている。ふわふわの膝掛けもあるし、ホッカイロもある。これは無敵の布陣だろう。
そうして、今日も冒険者達の生活を観察して遊んでいると……。
「おはよう、サターン」
女(?)が一人。
セレスティアンの司祭(ビショップ)……、キュベレイである。
「よう、キュベレイ。どうした?」
「夫に会うのに理由が必要かしら?」
そう言われればそうかもな。
俺の隣に座って、勝手に水炊きを椀によそうキュベレイ。
やはり、こいつら、俺の前にある食い物は無条件で食っていいみたいに思ってないか?
じゃあ最初から椀を余分に用意するなよ!とは思われるかもしれないが、そうするとこいつらは鍋からおたまで直接スープを啜ろうとしたりするのだ。地球とは衛生感が違う。
なので嫌々、俺は常に余分な食器を出しておくことにしている。
「んー!鶏肉のスープ!今日は当たりね!」
あと、内容はガチャとも思われているようだ。
「恋人に会うのに用事は必要ない……というのは分かった。だが、まるでなんの話題も無しか?」
「そうね、貴方は話を聞くのが好きだものね。なら、少し話しましょうか。と言っても、近況くらいしか話すことはないけれど……」
「最近は、ご覧の通り冬よ。いかに、ダンジョンの中では季節が関係ないとはいえ、寒くて寒くて、とてもじゃないけれど外出なんて皆しないわ」
「お前は何故外に?」
「貴方に会いに来た……と言いたいけれど、本当は、ギルドに薪の買い付けをしに来たの。ダンジョンの森林領域には、無限に木々が湧くものね。今でも、木こりが護衛の下級冒険者を引き連れて伐採作業をしているでしょう?」
「ああ、そうだったな。お前の管理する、この都市の邪教神殿にも、薪は必要か」
「ええ。神殿で管理している孤児院にも薪を送らないといけないし、大変なのよ……」
と、体重を預けてくるキュベレイ。
「よしよし」
撫でておく。
「あん♡撫でるなら、『ここ』にして♡」
ああ、うん。
セレスティアンは、女性の肉体がベースだが、両性具有の存在だ。
つまり、男性器が生えている。
「そこ」を撫でろとのこと。
「ここでか?ベッドの上でなら撫でてやらんこともないが……」
「お外で愉しむのもアリじゃない?ふふふ……。っと、それで……、今は薪の買い付けね。私は冒険者もやっているけれど、どちらかと言うと、神殿の司祭として依頼を出す方が多いのよ」
「出す方(意味深)が?」
「言っておくけれど、生えてても心の方は女のつもりよ私は?貴方に『入れてもらう』方が嬉しいんだからね?まあ、神殿の儀式で女の子を抱くことは多いけれども……。で、依頼ね。薪の買い付けと、あと食肉ね。穀物は商人に買い付けの依頼をしていて……、それと子供達へ新しい服も買ってあげなきゃ」
「そう言えば、ギルドから直接、薪と食肉を買えるのか?商人を通さずに?」
「ああ、本来ならダメだけど、神殿の名義でだから……。神殿は、法的には商人と同じような立場なのよ」
「宗教法人の特権みたいな話か……。じゃあ、冬でも新鮮な食料が手に入って楽だな。子供達も喜ぶな」
「そうね。皆、大人になったら、立派な邪教徒になってくれるわ。特に、私の性秘術の儀式で生まれた子供達は、邪教の神官兵士として最適よ」
「邪教徒が普通に市民権あるの、面白いな」
「まあ、ウチの神殿で崇めているのは、冥府の神『プルトーン』様だから……。性秘術を使っての儀式とか、家畜を生贄に捧げたりはするけれど、別に国法は犯してないし……」
「この国は、法律に反しない限りは、結構自由にやっても許されるんだったな。だが、性秘術は犯罪じゃないのか?」
「いいえ?全員が同意の元に行う、神聖な行為よ?」
「……因みに、具体的に何をやっているんだ?」
「それを説明すると、教義から説明しなきゃならないんだけど……。まあ、冥府の魂は漂白されて新たな命になるんだけれど、性秘術の儀式で生まれた子供は、その時の漂白を免れることができるのよ」
輪廻転生……?
いや、オルフェウス教か?
「尤も、性秘術で生まれた子供達も、全ての前世を覚えている訳じゃないんだけれどね。ただ、何度も輪廻を繰り返して、性秘術で生まれ直して……を繰り返せば、いずれ、生と死の境界は曖昧になり、世界の全てが物質界の欲に囚われない魂魄の世界となるわ。それが目的よ」
解脱?
いや、或いは、ゲームで言う「引き継ぎキャラの作成」のような話か?
「でもここでも、宗派によって解釈は違っていてね……。私のように、生と死の軛から解き放たれて、自由な世界の到来を望む『解放派』もいれば、全てを冥府に送ろうとする『静寂派』、積極的な性秘術で完全なる存在を作ろうとしている『魔人派』とか、色々あるわ。まあ後者二つは普通に捕まるけど」
「やっぱりカルトじゃないか」
「因みに、当のプルトーン様は全部気にしてないわ!私に、『リューメンノールの子を産め』と命じるだけ!」
俺の子?
「何でだ?」
「それはもう……、プルトーン様は私の父に相当するお方よ?孫の顔を見たいと思うのは当たり前でしょう?」
あー……?
「……え?セレスティアンって、マジで天使なの?」
「そうよ?言ってなかったかしら?」
そうなのか……。
まあ、その辺はいいだろう。
「じゃあ……、その性秘術というのは、特別な魔法を使いながら性交をして、前世の記憶がある子供を産み出すと……」
「そうよ。ついでに言えば、この辺りの地方だと私しかできないの」
「……んん?性自認は女なんだよな?じゃあ、お前が産んでいるのか?」
「いいえ?私が信徒に産ませてるのよ?」
ええと……?
「私としては、逞しい殿方に抱かれる方が好きだけれど、仕事は仕事で別だから……。それに、どちらかと言えばって話なだけで、私、女の子も好きよ?あと普通に、性感の話をすると、『穴』も『棒』もどっちも気持ち良くはあるし……」
よく分からんな、こいつは……。
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