第45話 勇者の顛末
その後の話をしよう。
時間を巻き戻したサターンは、聖剣のみを破壊した結果はそのままで、勇者……ジャネット・ド・アークだけは死ぬ前の姿に戻した。
しかし勇者の傷ついたメンタルまでは元に戻らず、勇者はしばらく、療養生活を送ることとなる。
とは言え、信奉する神であるメルキルに逆らったのだ。
勇者に居場所などないだろう。
幸い、エルフ魔法使いとノーム僧侶の二人は、勇者を支えます!と宣言して棄教し、勇者が仮に今後一生立ち直れなかったとしても、面倒をみるくらいの覚悟をしてくれていた。
勇者本人も、リハビリ次第だが、復帰可能なレベルのショックであった為、先行きはそこまで暗い訳ではない。
二人の仲間は、勇者の支えになったのだ。
一方で、サターンの三人娘。
魔女サマンサは、魔女夜会(ヴァルプルギス)に事の顛末を報告した。
すると、ヴァルプルギスは、勇者の身元を引き受けてくれると宣言。
落ちぶれようと、神の加護を失おうと、聖人の力は大きい故に、弱り目の勇者を引き入れようとするのは当然だった。
神メルキルにも、一度与えた力を取り上げることはできない為、勇者の鍛え抜いた技量とレベルはそのままアネアス寺院、ひいてはメルキル教から引き抜くことができたのだ。
ついでに言えば、おまけでついてくる勇者の仲間二人も極めて優秀であるからして、損は全くない。寧ろプラスと考えられる。
勇者側も、名の知られた大組織であるヴァルプルギスに身を寄せるというのは悪くない選択肢だと理解しており、その提案を受け入れた。
アカデムのカテリーナは、勇者の治療を担当し、ヴァルプルギスから薬品代を受け取り儲けていた。
冒険の最中は、特に何も言わずに大人しく着いてきたカテリーナだが、実は、この冒険で一番得をしているのは彼女だった。
カテリーナは錬金術師として、薬品やマジックアイテムの製作が主な仕事。もちろん、アカデムの教授(プロフェッサー)として、研究室を運営し授業や論文執筆なども仕事のうちだが、最も利益率が高いのは高級マジックアイテムの作製なのだ。
カテリーナは、自分用の運搬用マジックアイテムの『巨人の財布』をこの冒険に持ち込んでおり、勇者達が倒してそのままにしていたモンスターから、貴重な素材を剥ぎ取り、その手に収めていた。
カテリーナとて上級冒険者だが、一人きりで深層の攻略などできやしないのは当たり前。
ならば適当にパーティを組むか?と言えば、錬金術師という扱い辛いポジションの彼女はそうもいかない。
なのでこうして、安定したメンバーでダンジョン攻略ができて、愛しいサターンとも長時間行動を共にできて、おまけに大量の素材も独り占めできたカテリーナは、正に一人勝ちだった。
そしてアザミ。
彼女は、主目的がそもそも修行であるので、深層に挑んだことそのものが報酬となっていた。
元々、英雄になりたい訳でも、何か目的がある訳でもなく、趣味で強くなっている求道者の彼女からすると、修行になるダンジョン深層の攻略は大歓迎。
レベルを一つ上げ、また技が冴えたと微笑む彼女は満足そうだった。
因みに、ここにはいないキュベレイだが。
女達が三人でサターンと一緒にダンジョン攻略をしたと聞いて、かなり羨ましがった。
それは、サターンとの冒険という色恋沙汰の話も含むが、サターン達ほどの人材を引き連れての深層攻略ができるという、冒険者としての純粋な羨望もあった。
キュベレイもそうだが、上級冒険者は中々に予定合わせが難しい。
キュベレイは邪神教の司祭の仕事もあるし、サマンサはヴァルプルギスとしての活動、カテリーナはアカデムでの研究や授業などがある。
唯一、アザミには毎日の予定がないが、これは例外のようなもの。
サターンもまた、地球での仕事や会合の予定が良くあるのだ。
なので、サターンという最高のバックアップの元、上級冒険者が徒党を組んで、本腰を入れてのダンジョン攻略などは稀。
上級冒険者達も、各々の冒険スタイルにもよるが、大体は中層辺りにアタックして一山当てたらしばし休暇、というケースが殆ど。深層に潜ろうにも、人が集まらないという事の方が多い。
その予定合わせや、ダンジョン攻略のための資材にマジックアイテムの確保、情報収集などに時間と労力がかかるため、深層へのアタックはかなり慎重に長期的な計画を立てて行うものだった。
社会人ならば、立場が高いほど忙しいのは、冒険者の世界でも当たり前ということである。
そんな訳で、サターンの引率の元で、サマンサ、カテリーナ、アザミのような上級冒険者達と深層に潜るというのは、実は普通に羨ましいことだった。
「次こそは私も……!」
絶対に呼んでくださいね?!予定?いくらでも調整するわよ!と言い捨てて、キュベレイは邪神神殿へと帰っていった……。
そして。
勇者ジャネットは。
「ねえ、サターン君」
「何だ?」
「最後はちょっと良くなかったけど……、君との冒険は、凄く楽しかった!だから……」
「だから?」
「また、いつか。ボクと、冒険をしてくれますか?」
「もちろんだ。俺は冒険する奴が大好きだからな」
最高の運搬人(ポーター)にして、最悪の魔王(サタナキア)の男と、強く握手をして。
辺境の地へ向かい、智慧の神メルキルの影響力を抜き、傷ついた心を癒しにいった……。
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ないよぉ!書き溜めないよぉ!
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