第44話 魔王の魔法

2ターン目。


俺は早速、詠唱した。


杖を掲げ、唄うように。


「『くっ?!』」


身構えるメルキルだが、残念。


『アクセラシオン(時間加速)』


これは補助魔法だ。


『また、一手(1ターン)無駄にしたな?』


「『黙れ!』」


ビビったな?


やはり、戦神でもないメルキルは、戦いに慣れていないようだ。


依代を操作していても、少なくない神の力を流している以上、ダメージを与えれば神本体にも苦痛が与えられるからな。それを恐れたと言うことだろう。


メルキルは、怒鳴り声を撒き散らしながら、輝く眼光をこちらに向け、光の刃を飛ばしてくる。


しかし、忘れたのか?


俺は一度(1ターン)に二度の魔法行使が可能だ。


『エスパシオ(空間盾)』


唱えた魔法は盾の魔法。


相手と自分の距離を無限大に広げて、ありとあらゆる攻撃を届かなくする。


ゲーム的には「確定回避」と言ったところだな。


空間が歪んで層ができ、それに当たった光の刃はみるみるうちに縮んで消えていく。


「『ぬううっ!小癪な!』」


『よく言われるよ』


ターンは巡る。


3ターン目。


「『ならば斬り込むのみよ!』」


メルキルは、聖剣を掲げて斬り掛かってくるが……。


『おっと』


今はハーフデビルとしての闇の側面が強い満月の夜。


羽が生えているんだよ。


たん、と。


軽い踏み込みと共に俺は羽ばたき、宙空に飛んで回避した。


流石に、近距離の間合いから体捌きのみで剣を避けるのは難しいだろうが、間合いを詰めようと直進してくる存在に対して、後ろに下がって避けるくらいはできる。


そして上空から……。


『プレシオン(空間圧壊)』


「『ぐおおおおっ?!』」


空間そのものに圧をかけて相手を潰す。


範囲の広い攻撃で、怯ませるのだ。


まだいくぞ、連続魔分の二回目。


「『ぐああっ!』」


魔杖のパワーでの三回目。


「『ぐああああっ!!!』」


そして。


先程の補助魔法……、時間加速の分、俺にもう一度ターンが回ってくる。


その分の三連続攻撃……。


「『ふ、ふざけるな!何だそれはああああ?!!!』」


計六回の裏魔法による防御力無視の猛攻撃を受けて、肉の器である勇者サマの身体は破壊された。


具体的に言えば、脊椎がへし折れ、内臓が溢れ、手足全てが捩じ切られている。


今、メルキルは。いや、勇者サマは。


胸から上だけしか残っていない。


最早、聖剣から出た光の束そのものが立って歩いているかのようだ。


ふむ……、しかし参ったな。


このままでは、蘇生不可能なレベルで損壊させなければ、倒しきれん。


蘇生魔法がある世界とはいえ、死体そのものがなくなれば、完全に死ぬのだ。


つまりこのままでは、勇者サマが消滅してしまう。


「やめてえええっ!!!」「いやあああっ!!!」


勇者サマのお仲間二人も泣き叫んでいる。


旅の途中で様子を見ていたが、お仲間二人は勇者サマの「かけがえのない友」というもののように見えた。


名誉ある勇者を守るという義務感だけでなく、親愛の念をもって、友人を守るという気概に満ちている二人だった。


それが今、嘆き苦しみ、泣き叫び、必死になって勇者サマに呼びかけつつ。


神に許しを乞い、そして俺に勇者サマの助命を嘆願している。


何だか、俺が悪いみたいになってるじゃないか。


俺は自衛しているだけなんだがな。


ううむ……、にしても、どうするか。


勇者サマを殺すのは気分が悪いし、殺したとしても大元は神メルキルなので、殺しても無駄という……。


力を降ろす依代である勇者サマをどんなに痛めつけて殺しても、本体であるメルキルにはノーダメージだからな。いや、痛みは与えられるのだが。


もちろん、勇者サマほどの加護がある聖人を殺せば、メルキルの持つリソースをかなり削れるが、それは俺があんまりスッキリしないんだよ。


そして現状、俺はダメージを受けていないから余裕そうに見えるが、実はそこまで余裕がある訳でもないということも厳しいところな。


まあそれは当たり前だ、術師が前衛と真正面から決闘って時点で大幅に不利なのに、相手は神だぞ。


流石にキツいな……。


ううむ……、仕方ない。


割り切ろう。


もうムカつくし。




———カミサマの横っ面をぶん殴ってやろう。




囁く。


詠唱し。


祈り。


そして念じる……。


『スペル・ノバ』


時空間の超越的加速による万象崩壊の魔法。


黒と紫に彩られた真円の深淵が、稲光を撒き散らしつつ周囲の物体を吸い込み、内側の超加速空間に引き摺り込む。


「『きっ、貴様?!常識がないのか?!ダンジョンの中とはいえ、地上でそんな破壊の術を行使するなど!!!』」


『うん。確かに、勇者サマが死ぬのは申し訳ないし、ダンジョンにも少なくないダメージが出るし、不都合はあるなあとか……、まあ色々考えたんだけど……』


「『そ、そうだ!この依代も砕け散るぞ?!』」


『……そんなことより、お前の吠え面が見たくなった』


「『や、やはり貴様は———ッ!!!』」




———「『悪しき魔王だッ!!!!』」




聖剣と勇者サマは、ブラックホールのような破壊の球体に呑まれて、完全に破壊された……。


しかし、このまま終わるのでは後味が良くない。


最後に一つ、魔法を唱える。


二重に、連続魔で。




『パサード(時間回帰)』

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