第43話 魔王の正体
さてと。
最後。
深層、「死界領域」……。
暗がり(ダークゾーン)が多く、たくさんの悪魔が一度に八体も現れ、呪いの道(ダメージ床)もある、クソみたいなエリア。
勇者サマの腕前を以てしても負傷は避けられず、俺にも攻撃が飛んでくることが多々あった。
しかしそれを退け、小高い丘の上で俺達はいつものように野営の準備をしている……。
手元が暗くてよく見えないな。ここは常に時間が夜中で、空には月があるんだが、今は雲で隠れて……。
『ああ、なるほど』
俺は気付いた。
が、もう全ては遅い。
今宵、月は真円。
『満月』だ……。
闇夜の死海に月光が降り注ぐ。
悪魔が、最も力を昂らせる、満月の光が……。
月明かりを浴びると、俺の肌は人とは思えぬ漆黒に染まり、腰の後ろからは翼膜、そして尻尾が生える。
頭からは捩くれた双角が伸び、牙や爪は鋭く、瞳は爛々と輝き。
髪の色は白く染まって……。
「な、んで……?サターン、君?君は、君はっ……!!!」
『はあぁ……、そういうことか』
ドラグマン、ムーンレイス、セレスティアンに比肩する、もう一つの上位種族……。
『俺はハーフデビルだ』
悪魔の子、『ハーフデビル』……。
「……騙して、いたのかい?」
『いや、特にそんなつもりはないな。聞かれてないから話していないだけだ』
騙していたって何だよ?
別に、実害がある訳じゃねえだろ。
『さて……、こうなっては仕方がない。やるんなら、こちらとしても自衛のためにやり返すしかないな』
俺は、アーティファクトの杖を構える。
コレクションの中でも数少ない術師の戦闘用アーティファクト、『アルザスの魔杖』だ。
黒い球体に、固形化した魔力波動の輪が連なる形をした、幾何学的な形状の気持ちの悪い杖だが……。
この杖は、INTを10追加し、使用することで前に使った魔法をノーコストで繰り返すという、一級の術師に持たせる程恐ろしい「パワー」がある厨武器だ。
「い、嫌だ、君とは戦いたくない!」
『俺だって嫌だがね』
勇者サマはそう言ってかぶりを振り嫌がるが、それが目的で来たんだろうに。
結局、復活したリューメンノールとは俺のことだったと。アネアス寺院の祀る神、「智慧の神メルキル」からすると、そういうカウントだった、と。
つまらん終わりだ。
折角、良い冒険もできたのに。
残念だよ。
俺は杖を構えるが……。
「できない……、ボクにはできないよ……!」
勇者サマは蹲ったままで……。
待て、あれは……。
『それは赦されぬぞ、我が勇者よ』
「うううっ?!」
勇者の持つ聖剣から声が響くと同時に、光の紐のようなものが出て、勇者サマの身体を縛り上げる。
苦悶の声を上げる勇者サマに、聖剣は……。
いや、「智慧の神メルキル」は、懇々と語りかける。
『貴公は、我が神威を遍く者達に示さんとする為の道具。我が栄光の、光の剣である筈だ。巨悪を前にして怯懦にかられるなど、赦されるものではない』
「ち、違います!彼は、サターンは!」
『違わぬのだ、勇者よ。その者は敵、その者は悪。滅するべき大いなる魔に他ならぬ!』
「あああああっ!!!」
勇者サマを縛り付ける光の紐が、勇者様の白肌にぞぶりと。
音を立てつつ入り込む。
その度に勇者サマは、苦痛の叫び声を上げる……。
やがて、勇者サマの肉体を乗っ取ったメルキルは……。
「『貴様の存在を看過することはできぬ。大神ユピテルが黙しておろうとも、我は赦さぬ。死ね、リューメンノール!!!!』」
勇者サマの声で叫び、襲いかかってきた……。
騒ぎを聞きつけて、勇者サマの仲間のエルフ魔法使いとノーム僧侶もやってきた。
サマンサ、カテリーナ、アザミの三人も。
しかし、こいつらは全員、手出しをせずにこちらを見ているだけだった。
いや、牽制し合っているのか。
エルフ魔法使いもノーム僧侶も後衛型。前衛型のアザミがいる以上、迂闊なことはできない。
「『滅せよ!』」
「おっと」
そんなことを言っている場合じゃないな。
俺は俺で、こちらの対処に全力を出さねば。
『コルタール(時空切断)』
俺が放ったのは空間を切り裂く時空の刃。
空間の歪みのようなものが真っ直ぐに飛来して、相手のことを空間ごと切断すると言う「裏魔法」の四階位の術だ。
ゲーム的に言えば、「敵一グループ」に「防御力無視」の「無属性攻撃」をする、と言ったところか。
「『効かぬわ!』」
しかし勇者サマ……いや、メルキルは、それを聖剣で弾いた。
へえ、凄いな。
流石は神と褒めるべきか?
『じゃあこれは?』
俺はそう言って、杖を翻す。
すると、詠唱なしでもう一度、時空切断の刃が飛んでいく。
職業、「魔王(サタナキア)」としての技能、『連続魔』である。
1ターンで二度の魔法行使という訳だな。
「『ぐっ!まだだ!』」
しかし……、二度目の斬撃もいなしたメルキル。やるな。
『じゃあこれは?』
更に。
もう一度。
俺は杖を振り下ろす。
アーティファクト、『アルザスの魔杖』が持つパワー。
一度放った魔法を、ノーコストで繰り返す……。
「『ぐ、おおおっ?!』」
今度はまともに受けたな。
死んではいないが、10メートルほど後退した。
メルキルは何もできないまま……。
『さあ、次のターンと行こう』
2ターン目が始まる……。
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