第40話 人型モンスター
遺跡領域は大したものではない。
その名の通り、遺跡が迷宮になっていて、道に迷うし罠もあるという厄介なフィールドだが、今回は全て俺が記憶してあるルートを行くので。
むしろ、拓けたエリアと違って、敵が来る方向が限定されている分楽なほどである。
現れるモンスターも器物系……まあゴーレムとかそう言うのが多く、特に全身が金貨でできているクリーピングコインなどの当たりモンスターもいることで、この遺跡領域は低級から中級の冒険者達の心強い狩場とされていた。
だから、こんなものも出る。
「へっへっへっへ……!」
「ヒヒヒ……!」
「待ちなよ、嬢ちゃん!」
人型のモンスター、である。
「オラ、勇者サマ。モンスターだぞ、構えろ」
「モ、モンスター?!いや、彼らは人間じゃ……?!」
うん、そうね。
でも、ダンジョン内で襲いかかってくるようなのは、扱い的にはモンスターだから。
相手は、レベル6ウォーリアが六体である。
「ビビってんぜあのアマ!」
「やっちまえ!」
「うひょーっ!いい剣持ってるじゃねえか!」
「くっ!君達!やめたまえ!」
あーあ、勇者サマったら。
なまっちょろいったらありゃしない。
人型のモンスターに何をビビっているのやら。
こんなもの、ゴブリンやオークと変わらないだろうに。
さっき出てきたジャイアントスパイダーは意気揚々と斬り殺してたのに、人は斬れないって?意味が分からんな。
「この俺の速い剣を躱せるかぁ〜!ほれ!ほれ!ほれほれほれほれぇ〜い!!!」
おっと、さすがはレベル6冒険者。
ここまで生き残ってきただけはある、そこそこ良い腕前。
ロングソードで遠い間合いからの連続刺突をして嫌がらせする奴と、そいつの隣で、嫌がらせに焦れて攻撃してきたら仕留めにくる斧持ちが控えている。
手慣れているし、普通に強いな。
ダンジョンではこういうことが結構ある。
一見、弱った冒険者や素人っぽい冒険者から奪うのは楽そうに見えるが、その略奪対象の冒険者より強くなきゃならないという大前提はもちろん存在しており……。
冒険者は戦いを専門とする者ではないが、流石に盗賊崩れに敗れるほど軟弱ではなく、おまけに生き汚く手段も選ばない。
その為、返り討ちの危険性はかなり大きい。
なので、手慣れていると言うことは、何人もの冒険者を安定して仕留めてきたチームなのだと分かる。
見ると、装備や動きは完全に対人戦仕様。
毎度言うが、冒険者は基本的に戦うのがメインではない為、同レベル帯の純粋な兵士や騎士と比べると、戦闘能力は低いのだ。
冒険者は、大体、大型の斧や棍棒、大剣に剣鉈などを持ち、大きな質量で人間より遥かに丈夫でしぶといモンスターを叩き殺すのだが、その動きは大振りで素直。対人戦向きではない。
この世界での傭兵などの対人戦闘者は、軽量で鋭いサーベルなどを持ち、駆け引きやフェイントで引っ掛けて、軽く致命的な部分にダメージを与えるのが基本。何せ人間は頑丈なモンスターとは違い、首に刃が数センチ食い込むだけで死ぬからな。
よって、こういう傭兵崩れみたいな連中が、その戦闘技能で冒険者をカモにした略奪をすることは、割と結構よくあることだった。
だが……、相手が悪いな。
「クソッ!このアマ、強えぞ!」
「騎士剣術じゃねえか?!」
勇者サマは、対人戦の経験が多い騎士様でもあるのだから。
突きを盾で逸らして、斧を剣で弾く勇者サマ。流石、お強いね。
「待て!何か誤解をしているんじゃないか?ボクは冒険者だよ!」
「知ってるわボケぇ!!」
「だから襲ってんだよ!!」
この期に及んでそんなことを言っているとは。
まだ冒険者に夢を見ていたのか?
冒険者ってのは、半傭半賊の破落戸なんだがなあ。
地球で言えばユウチューバーみたいなもんだぞ。
トップのトップは凄い人だが、平均レベルの話をすれば基本的にはクズしかいない辺りとかそっくりだ。
『マ・フォティア』
「「「ぐああああ!!!」」」
おっと、サマンサがごく普通に賊共の死角から魔法を放ったな。
炎を吹き付ける、火炎放射の魔法だ。
三階位で最もポピュラーな攻撃魔法で、使い勝手の良い範囲攻撃術。黒魔法の使い手なら、基本的に誰でも覚えているだろう。
と言うか、攻撃系の魔法は大体、炎熱、雷撃、冷気のどれかなんだよね。ゲームみたいに風属性とか水属性みたいな「それでどうやった戦うんだよ?」みたいな術はあまり好まれない。
「なっ、何をするんだ!人殺しなんて!」
「イヤーッ!!!」
勇者サマが狼狽えているうちに、殺戮者のエントリーだ。
「「「アバーッ!!!」」」
アザミが致命(ヴォーパル)の一撃をバシバシ放ち、相手の首がすぱーんと斬り飛ばされてゆく。
唖然とする勇者サマに、俺は一言。
「ダンジョンはこんなもんだぞ」
「信じられないよ!同じ冒険者同士で何で争うんだい?!普通に考えて、皆で協力し合えば、もっと多くの成果が出せるじゃないか!」
勇者サマは、文句を言いながらも剣を振る。
未確定名「人型の岩」こと、ロックゴーレムの拳を弾き、盾によるバッシュでゴーレムの胸を殴り砕く。
「理想論だな。どうしても、って時にはギルドの命令でレイドを組み、多くの冒険者が組織的に行動することもあるが、普段は冒険者はパーティ単位での行動しかしない」
「なんでさ?!」
「採算が取れないからだ」
「お金の問題?!って言うか、魔王復活の時なんだから、どうしてもって時なんじゃないの?!」
「復活している確約がない」
「メルキル様からの神託だよ!」
あ、やっぱそうなんだ。
「ユピテル大神殿の『予言の巫女』は何も言ってないからな。国家レベルでの動きにならないんだろう」
「それはっ……、そうだけどさあ!でも本当に世界の危機なんだよ?!」
「因みに、ギルドはなんて言ってたんだ?」
「国の要請がない限りは軽率に動かない、だってさ!!!」
ロックゴーレムの頭を剣で引っ掻き、文字を消す勇者サマ。
ゴーレムの類は頭に文字状の魔力回路があり、そこを損壊させると機能不全で動かなくなるのだ。
ううん……、しかし、そうか。
アネアス寺院の運営母体であるメルキル神殿は、魔王復活の神託を受けた。
世界レベルの危機には必ず反応するユピテル大神殿は何も言わない。
……神々の気まぐれか?
神はそう言うところがあるからな。
信徒を使って何を企んでいるのやら……。
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