第34話 セレブと繋がる

あの後。


結局、勇者サマは俺の助言を聞かずにダンジョンへと潜っていった。


それは、考えなしだからではなく、「自分達の持っている金銭は、神殿の寄付金だから、こういった取引には使いたくない」との崇高な感じのアレだった。


俺は、これを馬鹿とは思わない。


馬鹿馬鹿しいが、少なくとも犬畜生ではないのだから、勇者を名乗るとするなら上等だろう。


間抜けは許容できる欠点だが、愚かであることは許し難いからな。


まあ、見た感じ、引き際を弁えられない無鉄砲って訳でもないし、力は充分にある。しばらくは、低難度の領域を彷徨って、数ヶ月後に行き詰まって頭を下げにくる……ってところだろう。


しばらくは放置だ。




その間に俺は、雑事を済ませることにした。


俺が地球で仕事をするのは月に数回程度だが、その内容はただ金持ち共にポーションをひっかければ良いというものではない。


俺にも、付き合いというものがあるのだ……。


「コラッ……!貴様っ……!大恩ある大門先生をお迎えするというのに、こんなチンケなワインとは何事だっ……!制裁っ……!」


こちら、杖で思い切り黒服の部下をぶちのめすのは、日本一のセレブである鷹頭厳(たかとうげん)。


末期癌を治療して七十歳くらい若返らせてやったら、百億円くらいポンとくれた優しいおじさんだ。


裏から日本を牛耳るフィクサーで、敵対者は子飼いの暗殺者に消させているだけの、実業家のおじさん。今でも自分の事業に有利な法案を倒すために、政治家の家族を誘拐したりとかさせているらしいが、俺には優しいのでセーフだな。


「こんにちは」


俺は、ずらりと並ぶ黒服の人達に案内されて、パーティー会場に来た。


そう、この場はパーティ。


鷹頭会長の百歳の誕生日を祝う会だ。


「おおおっ……!大門先生!よく来てくださいましたな……!どうぞ、こちらへっ……!」


その、祝われている主人である鷹頭会長に、まるで主賓のように扱われる俺。


そして周りのセレブ達も、そのことに対して何にもツッコミはない。


何故なら、ここにいるセレブ達は皆、大体は俺と関わりがあるからだ。


例えば、「銀河レベルの歌姫」と名高い歌手、シェリー。


イギリス王室の姫君セシリー。


日本の旧華族、大富豪の娘、園枝。


同じく旧華族の鬼道院。


それぞれが、現代科学では治療不可能な病気や怪我を負っていた。


ウイルス性脳腫瘍、全盲、事故による全身麻痺、末期癌……。


そういったものを、全て完全に治してやった。


それにより、俺は、セレブ達から信頼され、限りない金と権力を手に入れられているのだ。


ここにいる奴らの総資産だけで地球の富の数%はあるであろう、そんな大金持ち共にな。


「いやあ、先日は助かりましたよ、鷹頭会長」


「カカカ……!キキキ……!ククク……!なになに、先生の為ならばこの鷹頭!いくらでもっ……!いくらでも手を貸しますぞ……!」


ああ、あれね。


この前、弟子のハルが地球で魔法を使った件についての揉み消しを、頼んでもないのに勝手にやってくれたらしい。


勝手に貸し付けられたとは言え、借りは借りだしなあ……。


それに、若返りのポーションとか、俺には必要ないアイテムを引き取ってもらうだけで、地球での膨大な金と権力をくれる相手を邪険にはできないんだよね。


俺は確かに強いが、世界の全てを支配できるほどじゃないしな。


地球人類を絶滅させるくらいなら、年単位の時間をかければ不可能ではないが……。


とあるライトノベルのキャラのセリフに、「俺は確かに世界を滅ぼす力があるが、世界を滅ぼして泥水を啜りながら何もない世界で一人で生きるなんてゴメンだね」というようなものがあった。


まさにこれである。


時間と空間を自在に操る秘術が使える俺だが、缶コーヒーは作れないし、フライドチキンの元となる鶏も育てられない。


つまり、他人や権力、社会と縁を切れるほどの万能の力はないということだ。


生きている限り何らかの繋がりはできてしまうもの。


特に俺は、こういう特殊な仕事をして大金を稼いでいる為、権力者と繋がりを作って色々と「お目溢し」してもらわないと困るのだ。


普通に、警察に捕まってもおかしくないからな。


だって、「エステ業務」で登記してんのに、実際にやってんのは保険適用外の超高額治療とアンチエイジング(物理)だし。


普通に犯罪なのだ。


それに、こんなことをやっている時点で、争いの芽になるのも当然。


実際、俺の元には定期的に、某国のスパイやら誘拐に来る特殊部隊やらが来る。


それらはまあ、普通に殺しているのだが、その辺の後始末をしてくれているのも権力者達なのだ。


なので俺も、こうして、こういう場に顔を出して、権力者達のご機嫌を伺わなければならんと言う訳だ。


……どちらかと言えば、権力者達が俺の機嫌を伺ってくるんだが、まあそれは良しとしよう。


さて、パーティー。


グラス一杯で何百万円というレベルの酒が安物シャンパンのように消費され、A5ランクの和牛やらフグ刺しやら、イタリア産の白トリュフやらの高級なものがずらりと並ぶ……。


会場も、一枚で何十億円!とかってレベルの、ゴッホだのピカソだのの絵画が飾られていて……。


超大物俳優、世界的歌姫に大富豪、大御所的政治家に影のフィクサーなどのとんでもない金持ち共が、ワイン片手に難しい話をしている……。


「鷹頭のおじさま、おめでとうございます〜」


「おおっ……、園枝ちゃんか!大きくなったな……!」


「おじさまはお若くなりましたね〜」


「ククク……!どれもこれも、大門先生のおかげよ……!」


「凄いなあ……。私も、おばあちゃんになったら、大門先生に若返らせてもらおっと〜」


「クカカカカ……!そうするといい……!若さは力だ……!」


そして、鷹頭会長は、こうしてホストとして挨拶を受けていた。


その間、俺は会長の側にいながら飯を食い、会長との親密さをアピールする。


まあ、今権力者が最も側に置きたい生き物は、ブロンドの美女でも毛の長い猫でもなく、俺だからな。


俺がいれば、理論上は永遠の命を得たようなものだ。


誰もが俺のことを欲しがるだろうよ。


その為……。


「大門先生〜」


「おっと、園枝か」


「そーだよ〜、先生の園枝だよ〜♡」


このように、露骨なハニトラも当然来る。


ただ問題は、この子が中学生ということなんだよな。


何でだ……?


あ、いや、そうか。


最近できた俺の弟子も高校生だもんな。


ロリコンだと思われてんのかな俺?


「言っておくが、俺を籠絡しても特に意味はないぞ」


「そうなの〜?」


「そうだろ。魔法は学問だし、レベルアップはモンスターを倒したりして魔力を高めなきゃならない。どちらも、この世界では無理だ。だから、俺の子を孕んでも、普通に優秀な半魔が生まれるだけだ」


「半魔……って?」


「ん、ああ。俺は人間じゃないんだよ。言ってなかったか?」


「え?!そーなの?!」


「ああ。満月の日だけ、魔法が解けて元の姿に戻るんだが……」


「えー、見たい見たい!」


「見られると困るからなあ……」


「えー、何で〜!怖い顔なの〜?」


「いや、あらぬ疑いをかけられると困る」


「……んー?どう言うこと〜?」


「俺は、この世界でもあっちの世界でも、迫害される少数民族なんだよ」


っと、こんなもんか。


それよりも肉、肉を食わねば。


普段はバーガークイーンが最高だが、こういう時はお高い美味いものを食うチャンスだ。


おほー、A5黒毛和牛ステーキ旨ーい。

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