第33話 エンカウント
勇者サマは、「とりあえず、流す程度にダンジョンを潜ってみるよ」と言い残して、勇ましく出陣!
……と見せかけてストップ。勇者サマのお隣にいる、偉そうな魔術師がこう言った。
「ジャネット。その前に、冒険者からダンジョンの情報を聞き出すのが先」
ん……、おっと。
こいつはエルフだな。エルフは知性が高いから、魔術師向きだ。
金髪を短めのボブカットにして、エルフらしいスレンダーな肉体を蒼い外套で包んだ背の高い少女。眠たげに見えるかのような顔つきをしている。
しかもあの外套……、『螺旋を描く銀の荊棘』は、学院(アカデム)の首席卒業者にのみ贈られるマジックアイテムだったはず。
つまり、相当に優秀なのだろう。レベルも15はありそうだ。
そしてこのエルフの魔術師は、その知性を使って、勇者サマに適切なアドバイスを投げた。
「情報収集かい、ミシェル?」
「そう」
「本当に必要なのかな?ボクだって、全くダンジョンについて知らないという訳でもないんだよ?少しだけ覗いてくるだけで……」
「必要」
「……ううん。えっと、ベルナデッタはどう思う?」
「ひゃい?!」
ベルナデッタと呼ばれたのは、胸の大きなノームの女の子。
神殿の神官長を表す、『白地に赤で描かれた抽象的な樹木』の印があるローブを羽織る、ブラウンの髪を長く伸ばした少女。困り顔のように見える顔つき。
実力も勇者サマと同じくらいだろう。
ノームらしく小さな身体だ。
因みに、ドワーフ、ハーフリング、ノームの見分け方だが。
ドワーフはチビだが手足が短く胴長で、肌色が濃くずんぐりむっくりで筋肉質。耳は丸い。
ハーフリングは、人間の七、八歳児のように、丸いイカ腹寸胴で等身そのものが低く、白肌。耳は少し尖る。そして足裏に毛が生えている。
ノームは、ハーフリングより更に小さいが、体型のバランスは大人寄りで六頭身程度。そして手足が大きく、耳も尖っている。また、髪の量が多い。
……どうでも良い話だな。
とにかく、僧侶のノームは、うんうん唸って答えを出した。
「え、えとえと、私もミシェルちゃんに賛成なのです。できることは、全部やった方が……」
「……うん、キミ達がそう言うなら。『早馬乗りの将軍は大局を見逃す』とも言うしね。じゃあ、早速情報を集めていこうか!」
そうして、勇者サマは……。
「…‥と言う訳なんだけど、何かアドバイスはないかな?」
………………。
なんで、俺のところに来るんだよ……。
「何故俺に?」
俺は、昼飯のバーガークイーンのバーガーから口を離し、ナプキンで拭って言った。
「キミが一番、話が通じそうだからね」
キラキラ王子様フェイスで勇者サマはそう言うが……。
「そうは思えん、人を見る目がないな。もっと、俺よりも上位の冒険者に聞くべきだ」
俺はそう言って、首から下げた冒険者ギルドの認識札を見せつけた。
「この人、『鉄級』……?」
「下級冒険者なのですよ……」
魔術師と僧侶はそう言って一歩引いた。
そりゃそうだろう、下級冒険者というのは「大体チンピラ」ということを意味しているようなものだからな。
中級になって初めて、冒険者と名乗っても恥ではないというレベル。
冒険者は確かに、英雄になって讃えられたり、一攫千金で大金ゲット!のような夢のある仕事だが、実情的には山師のようなもの。
もし、一般家庭の娘さんが「冒険者のカレと結婚したいの!」などと言えば、その父親は「冒険者のような山師と結婚するなんて、お前はもううちの子じゃない!家から出ていけ!」と怒鳴ってもおかしくはない。
だからだろう、二人は引いた。
これは客観的に見て正しい反応なので、別に俺は怒るようなことはしない。
勇者サマも、「そうか、すまない」と言い残して、俺の目の前から去って行った……。
そしてその後。
昼飯のバーガークイーンを平らげ、デザートにチャトレーゼのプリンを食べていたところ……。
「やっぱりキミが一番詳しい人なんじゃないか!!!」
と、勇者サマが怒鳴り込んできた。
「特に詳しくはないです」
んー……、チャトレーゼのプリンは美味いな。
濃厚な卵の風味が堪らん。
秋限定のかぼちゃバージョンも美味い美味い。
高級プリンも買おうと思えば買えるが、そういうのはマナー的に爆買いとかできないからなあ……。
他の冒険者共に食われるのを前提にまとめ買いするとなると、やはり大衆店の……その中でもちょっとお高めの店とかになる。
イギリスに転移して買ってきた、マロッズの紅茶も美味い美味い。
「……美味しそう」
ボソリと、勇者サマが何かを呟くがスルー。
「っと、じゃなくて!キミ、酷いじゃないか!」
「何が?」
「周りの冒険者から聞いたよ!キミが、このダンジョンに一番詳しい運搬人(ポーター)らしいじゃないか!それなら、何で言ってくれなかったんだい?!」
「言う義理がないからなあ……」
「むむむ……!」
何がむむむだ。
俺は紅茶の香りを楽しみつつ、一言言いつける。
「俺は、対価なしに雇われるつもりはない。情報だって、タダで渡すことはない」
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