第25話 当然の帰結

ヒキガエル伯爵?にダンジョンを占拠されてから三ヶ月が過ぎた。


飯と酒を出しているので、冒険者は暴れずに済んでいるが、欲張って麦の買い占めに走った商人達は、買い占めた麦が一ミリも売れないもんだから干上がって店が潰れまくっている。


どうすんのこれ?現段階での経済的な損失と今後の復興の為の支出見込みを考えると、ウィンザリアに過去かつてないほどのダメージが入ってんだけど。


いやまあ、俺は関係ないっちゃないんだけどさ。


……どうすんのこれ?


もうこれ、王都からゲオルグのおっさんが帰ってきてもどうしようもないでしょ。


ヤバいな……。


俺は趣味で冒険者をやっている者だから、ギルドがなくなると面白くなくなっちゃうんだよなあ。


やはりここは、某ロボットアニメの様なガバガバ変装して、マスクドサターンとして出資でもするか……。


幸いと言って良いのかは分からんが、金なら信じられんほどにある。


具体的には、証券やら諸々含めると、総資産にして金貨百億枚くらい?


日本円で?一兆円くらいかなあ。


多分、この国の全領地の年間収入より何倍も多いと思うぞ。この世界の経済規模的に考えて。


冒険者はアホなので毎日楽しそうに過ごしているが、一方で、学のあるギルド員などは、毎日真っ青な顔をしている。


ウケる。




そして今日、ある緊急の指名依頼がやってきた……。


「えー……、依頼内容は、『ダンジョン内で遭難したユアストリ伯爵の救助』ねえ……」


はい。


まあ……、うん。


そうね……。


そらそうなるわ、としか……。




「「「「当たり前なんだよなあ……」」」」


集まった冒険者達は全員そう呟いた。


当たり前だもん、そうとしか言えねえ。


確かに、ヒキガエル伯爵は騎士を百人近く連れて行った。


冒険者で言えば、レベル換算で平均7レベルになる騎士団を。


でもやっぱり、騎士なのである。


騎士とは「戦う人」であって、我々冒険者……、「冒険する人」とは違う。


「戦うこと」と「冒険すること」は、似ているように見えて全く別の技術なのだ。


まあ、正面から殺し合えば、同じレベル帯での話なら、騎士の方が冒険者より確実に上だろう。


だが、冒険者の仕事はそれじゃない。


何度も言うが、冒険者は「冒険」する者なのである訳よ。


どこでも寝れるとか、何でも食えるとか、泥水でも啜って生き延びられるとか……、冒険者が持つ技能ってのはそういうもんだ。戦闘能力はおまけ……とまでは言い難いが、まあ、最近のゲームのDLCくらいの重要度。


本筋は生存技能こそにある。


……だもんで、騎士が冒険者のエリアであるダンジョンに無策で突っ込めば、そらこうなるんだわな。


だって騎士は、補給がある前提で、供回りの従者がいることを前提で戦うのだから。


一人でも、ダンジョンで泥水を啜りモンスターの血肉を喰らい生き延びて宝を持ち帰ることを目的とした冒険者とは、能力の方向性が違う。


例え従者を山ほど連れて兵糧を持っていたとしても、騎士がダンジョンの深層で生き残れる訳がない。


遭難するのは当然のことだろう。


問題は、その遭難の救助要請が何故うちに来るのか?って話。


「なんで?」


当然、俺は訊ねた。


「逃げ帰ってきた従者の一人が、緊急で依頼を出すと……」


うわ、一番面倒なパターンだ。


結果だけ言うと、助けられても助けられなくても後でごちゃごちゃ言われるやつだな。


助けに行けば、伯爵のダンジョン侵入禁止令を破ったことになる。


助けに行かなければ、貴族を見捨てたとして諸侯から批難不可避。


助けられなければ上記の両方。


本当にクソである。


ここに集められた上級冒険者達は、それが分かるから、全員あからさまに嫌そうな態度をしている訳だ。


「俺は下級冒険者なので関係ないな。ヨシ!ではここいらで失礼させてもらう」


「オッ、待てい。誰に許可を取って失礼しておるのでござるか」


『死に剣』ハンジローに片腕を掴まれる。


クソが……。


だが待ってほしい、逃げたらもっと厄介なことになるんじゃないのこれ?


冒険者ギルドとズブズブの関係の俺、つまりズブズブマンである俺が、国の外部監査……オンブズマンに見つかったら、確実に処される。


逃げ切る自信はあるが、万が一にも手配書とか出回ったらクソ面倒だぞ。


この世界はファンタジーなので、長命種の存在があるからな。


時効とかも存在しないから、一度指名手配されれば永遠にそのままだ。


実際、エルフのテロリストとか、二、三百年が過ぎてもずっと手配されている。


マジックアイテムもあるから、正確な顔写真も普通に出回る。


つまり、何も知らずにここに集められた時点で、もう逃げられないゾ♡って訳なんだね。


クソが……。




仕方がないので、更に貸しだぞとギルドに念書を書かせ、作戦を立てる。


既に、おめおめと逃げ帰ってきた伯爵の従者はキリキリ締め上げて情報を吸い上げ済み。


俺達は、その情報を元にして救出計画を立てる……。


まず俺は、プリンタで拡大した大型の地図を、ギルドの会議室のラウンドテーブルに広げた。


「目的地は、難度9の『宝窟領域』だ」


「うわあ、いかにもだなあ」


ハリーが言った。


いかにも、という言は間違いではない。


宝窟領域とは、地面も壁も金銀財宝でできた領域だからだ。


馬鹿な貴族からすれば夢の世界だが、この領域まで来れる冒険者は単なる金銀財宝になど興味はない。


それに、マジックアイテムならば、当たりを引けばメダルほどの大きさで金貨うん千枚とかなんだから、わざわざ重くて嵩張る金銀財宝を持って帰る意味がない。


この領域に釣られるのは、それこそ、ダンジョンのことを何も分かってない馬鹿だけだ。


「なんでもお貴族様は、この領域で手に入れた『戦利品』の回収で手一杯になっているところをモンスターに襲撃されたんだと」


「うわあ……」


つまり、馬鹿みたいに重くて嵩張る金銀財宝をかき集めて身動きが取れなくなったところにモンスターが殺到したってことらしい。


もう、馬鹿馬鹿しさのあまり、皆頭を抱えている。


「最悪、首さえ残っていれば俺が蘇生するから、死体だけでも回収する方向で」


「「「「おう……」」」」


「で、具体的な作戦だが……」


俺は、周りを見回して、言った。


「『レイド』を組む」


と……。


「久々の『レイド』か……」


「腕が鳴るわね!」


「これだけの面子で『レイド』なんて、何年振りだ?」


暗い雰囲気から、俄かに色めき立つ上級冒険者達。


上級冒険者達は皆それぞれ忙しいからな、こうして皆が揃うのは中々ない。


『レイド』……、つまり、連合パーティを組むのなんて、現在確認できている最下層の『金城領域』の掃討戦以来だ。


となると、もう十年も前の話か……。


「懐かしいな、あの頃は……」


バイソンのビーストマン、『鉄拳の』マイクが丸太のように太い腕を組んで、しみじみと頷いた。


ああ、懐かしいよ。


もっとも、あの時にはゲオルグ卿がいたから、もっと楽だったんだが。


まあ、今回は中層の『宝窟領域』なんだから、そうそう困ることもないだろうが……。


「じゃあまず、固定パーティを組んでない奴らは、今ここで臨時で組んでくれ」


「じゃあお前は俺と」


「私もそっちに」


「俺達はここだな」


おっ、流石は上級冒険者様だなあ。


はい六人組作ってーと俺が宣言しても、ちゃんと組み分けを自分達でできていた。


いや本当に偉いねえ。


……なんか、◯人組作ってーと言うと怯えだす日本人居るけど、アレはなんなの?


そんなに怖いかあれ?


「そしたら、保存食の類を配るぞ。悪いが、救出依頼だから悠長に準備している暇はない。俺が全面的に用意するから、お前らは最低限の荷物だけ持ってくれ」


「「「「おう」」」」


「じゃあ行くぞ」


俺達はそうやって、準備を終えると、ダンジョンに向かった……。

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