第19話 壊れた倫理観

「こんだけ貧乏臭いんだから、身体でも売ってたのかと思いきや、意外にも処女とはな」


「あ、ダメでしたか……?」


「いいや?ただ、優しくしてやらなきゃなと思っただけだ」


「あっ……♡」




主人公様、主人公様、主人公様。


素敵素敵素敵好き好き好き好き好き好き好き。


愛してます愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。


私が欲しかったものを全てくれた。


力も、愛情も、お金も、夢も、全部全部全部全部全部くれた。


あああ、あああ。


好き……、好き好き好き好き好き好き。


貞操も、身体も、心も魂も、全部貰っていただいた。


嬉しい、嬉しい、嬉しい。


人生で最高の日。


私は、冒険者としての。


冒険者として生きる道を。


人生を貰えた。


生まれて初めて、心の底から生きていて楽しいと、幸せだと思える瞬間をくれた。


捧げる、捧げなくてはならない。


全て、全てを。


尽くして、尽くして、擦り切れるまで尽くさなくては、尽くしたい。


「もうレベル3か、良くやった。これで、下級とは言え一端の冒険者だ」


「はい!」


「ああ、そう言えば、もう夏休みも終わるな」


「え……?」


え?


ま、さか。


帰れ、と?


「ほら」


手渡されたのは、お守り、アミュレット。


「これは……?」


「これは俺が作ったマジックアイテムだ。題して、『サトゥルヌスの魔除け』と言ったところか……。使えば、日に二回だけ、『世界を超える』ことができる」


世界を、超える……?


つまり?


つまり、それって!


「俺は基本的にこっちの世界にいるから、仕事が欲しければ会いにきてくれ。地球側での俺の連絡先と住所はここだ」


「あ、ふ、ひ!ひひひひ、ははひひひ!」


良いんだ!


認められたんだ!


私は、私は!


ずっとここにいて良い!!!!




『とりあえず、学校には行け。モンスターも、盗賊冒険者も殺してきたお前が、生ぬるい地球の不良や親程度、何を恐れることがある?』


『高校はしっかり卒業しろ、できれば大学にも行け。税理士の資格でも取れば、俺のエステで一生雇ってやるぞ』


『錬金魔法も覚えて、ポーションの作り方を覚えれば、金も山ほどやるよ。俺が暇になれば、その分、お前に時間をかけてやれるかもな?』


主人公様にそう言われれば、学校に行かざるを得ない。


私は、勉強はできないが、馬鹿ではないつもりだ。


今時、中卒なんて有り得ない。


俳優とか、スポーツ選手とか、そういう特別な道に進むのならまだしも、何にもなしに中卒じゃダメだなんてことは私でも分かる。


それは、格好がつかないとか、周りの目が気になるとか、そういう話ではない。


まあ、それもあるんだろうけれど、それよりも、「学ぶ機会を失う」ことの恐ろしさだ。


それは私も身に染みている。


学力や学歴というのは、私のようなクズの生まれでクズの育ちでも、唯一、一発逆転が可能な牙なのだ。


勉強さえできれば、片親でも、風俗嬢の虐待児でも、いじめられっ子でも成り上がれる。


これは事実だ。


……いや、嘘はやめよう。


私はただ、勉強をして、主人公様に褒めてもらいたいだけだ。




始業式。


退屈な話を聞いて、教室に集まる。


授業はないから、すぐに帰れる。


「……はい、では明日から通常の登校です。今日はこれで終わります」


「とっとと消えろー!」


「クソ教師が!」


「は、はい!で、では、私はこれで」


中年の太った教師が、不良生徒に野次られて逃げていく。


酷く無様だ。女の、しかも年下のガキに恫喝されて恐れるなんて。男の風上に置けない。


主人公様とは格が違う……、いや、比べることすら烏滸がましい、単なるゴミだ。


「オイ、貯金箱女!夏休み前はよくも逃げてくれたな?!」


「貯金箱の癖によぉ!」


「金出せよ!」


不良が絡んできた。


もちろん、教師や他の生徒は見ないふりをして、逃げるように教室から出る。


……あーあ、馬鹿らしい。


何でこんなのを怖がっていたんだろう?


本当の殺意と、本当の痛みを知った私からすれば、こんな程度の奴ら、何も怖くない。


「ふ、ひひひ……」


「は?何笑ってんのこいつ?」


「ついに頭おかしくなったんじゃない?」


「キモ」


思い知れ、馬鹿共め。


『チスパ』


「あがっ?!びびびびびばぁ?!!!」


チスパ……、『火の花』『弾ける電光』『光の棘玉』と訳される、電気の魔法。


敵一体に電気属性のダメージと麻痺を付与する。


魔法であるそれは、確かな殺傷力があり、高圧電流で神経を破壊して麻痺させるのだ。


人間に使えば、半身不随になってもおかしくはない。少なくとも、神経が壊れて、四肢が動かなくなったりなどの後遺症は確実だろう。


チスパの呪文を受けた不良女は、全身から黒い煙を出しつつ、失禁して、倒れた。


「「ひっ……?!」」


残り二人の不良も、私を見て震え上がる。


「あ、あんた!何したのよ?!」


「こ、これ、死んでるんじゃ……?!!」


『チスパ』


「ぎゃあああああああっ!!!」


「あっちゃん?!あっちゃーーーん?!!!……や、やめろ、やめて!助けて、殺さないで!」


『チスパ』


「いぎ、いやあああああああ!!!」




ふう……、殺しちゃったかな?


でも、魔法だから証拠は残らない。


終わってみれば、なんとも呆気ない……。


さあ、家に帰って、今度はあのクソ親を痛めつけてこよーっと!

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