第18話 訓練所で冒険者を作る

「えーっと……?これは?」


あ、日本語で書いちゃったか。


なら、俺がローズに翻訳しよう。


「『ハル・ハギノ』だ」


「え?!……どこかの名家の子とかです?」


ああ、はい。


苗字があるとね、そうなるよね。


「あっちでは人口が多いから、皆慣習的に苗字を名乗るんだよ」


「へー、そうなんですか?因みに、サターンさんはなんて言うんです?」


「大門左丹だ」


「デーモン(悪魔)って……、物凄い名前ですねえ……」


「まあその辺は良いだろ。プレートは?」


「はい、こちらに。登録料に銀貨一枚をいただきます」


「ほら、ハル。払え」


「は、はひいっ!」


よし。




うーん、どうするかな。


ステータスは……。


Lv0

HP5

MP2/0/0/0/0/0/0

AC10

力5

知13

信3

生12

早7

運15


ってところか。


「『魔術師』『盗賊』『射手』どれが良い?」


「ふぇ?!あっ、えっ、その、私は、その」


はあ……。


まともに喋れないのか。


吃りの女の子は結構可愛いが、ダンジョンでもこの調子だと少し困るな……。


適当な席に座り、膝に抱いて頭を撫でてやる。


「落ち着け、失敗しても良い、たかが死ぬだけだ。お前のことはよく知らないけどさ、多分、失うものとかもうないだろ?」


「は、はい、そうで、す」


「なら、何を恐れることがあるんだ?怖がらなくて良いだろう?何も怖いものなんてない」


「怖い、もの、なんて、ない……」


「そういや、もう夏休みか?」


「あ、はい」


「よし、じゃあ夏休みは、目一杯鍛えてやるぞ。それに、この世界の観光もさせてやる。欲しいものも買ってやるし、バイトとして雇ってやるから地球での金もやるぞ」


「あ、あ、あ」


強めに抱き締める。


あ、洗われたみたいだが、まだ奥の方が臭いな。


頭皮の匂いが強い。


「よしよし、大丈夫だからな。ダンジョンへ行こう、な?」


「は、はいっっっ!!!」


よし。


「……で、どうする?おまえのステータスなら、『魔術師』『盗賊』『射手』がおすすめだ」


「え、えっと、その、すみません、説明……」


うむ、そうなるな。


「『魔術師』は、魔法を使って敵の攻撃と妨害を主に行う者のことだ。この世界では魔術師と僧侶などの魔法使いは少なく、貴重で、そして強力だからどこからも引っ張りだこだな」


「で、『盗賊』は、宝箱を開けたり、罠を解除したり、敵を見つけたりするのが仕事だ。意外と希少で、ダンジョンには必須の存在だな」


「最後に『射手』は、盗賊の技能を少し持ちながらも、弓や銃などで遠距離攻撃ができる奴だ。どっちつかずだが、いると助かる」


俺がそう言うと、ハルは、ほぼノータイムで答えた。


「ま、ま、『魔術師』で……」


ふむ。


なら、ちょっと勿体無いが、余ってる『呪文書』を読ませてやるか。


「『フォティア』『ドルミール』『オスクロ』の呪文書だ。読め」


「は、はい……。読めない、です……?」


「ああ、そうだろうな。けど、最後のページまで見るだけで良い」


すると……。


「ゔあっ……?」


ハルは、頭を押さえて呻いた。


脳に術式が焼き付いているんだろう。


呪文書はそういうものだからな。


そして、手元の呪文書が燃え落ちる。


「えっ、ええっ?!えっ、これ」


「安心しろ、呪文書は読むと燃える」


「あ……、あ!なんか、その、魔法、できそうです!」


「呪文書は、読むと魔法を覚える」


「え、その、これ」


「安心しろ、低級のものだから、一冊につき金貨二、三十枚ってところだろう」


「……えと、何円、です?」


「二、三千万円」


「ひ、ひいいっ……!」


「良いって、ビビらなくても。俺は、一つで国が買えるレベルのアーティファクトを山ほど持ってるんだ。ダブりのマジックアイテムなんて大したもんじゃない」


実際、ダブり過ぎてこれくらいのランクの呪文書なら大型の本棚三つ分くらいあるし。


在庫処分だ、在庫処分。


「でっ、でも」


「そんなに気になるなら、ダンジョンで働いて返してくれ」


まあリアルな話、ダンジョンで働いて返せ!ってのはほぼ罠だがな!


借金金貨百枚くらいか?


地球の感覚では一生働いて返す、レベルの借金だが、この世界じゃ例え奴隷に自分を売り渡しても絶対に返せない額だ。


金貨一枚は日本円で百万円くらいだが、この世界の経済の規模からすると、かなりヤバい額だと言うことだな。


「は、はいっ!」


そうとは知らず、キラキラ笑顔で俺に頭を下げるハル。


まあほら、騙した訳じゃないから。


ハルが無知だっただけ。いわゆる、「聞かれなかったからね」というやつだ。


さあ、ダンジョンへ。


とりあえず、この女にやって欲しいのは、エステの仕事のバイト。


まあどう考えても接客は無理っぽいだろうが、まともに喋れなくてもポーションをぶっかけるだけだしな。


薬草の類の採取と、ポーションの作り方、そして処方の仕方を教えよう。


で、ドロドロに依存させて良いように支配して、本当の意味で下僕にしてやろうじゃないか。


なあに、元々虐待児のいじめられっ子なんだ。


つまり、必要とされていない子なんだろう?


なら、俺が貰ってやろうじゃないか……。


「さあ、おいで」


「あっ……♡」


顔を赤らめるハルの肩を抱きながら、俺はダンジョンへと潜っていった……。




無論、浅層で軽く流す程度にする予定だが、聞いたところ夏休みは四十日程度しかないそうだ。


なら、急がねばなるまい。


分かりやすくコボルトの前に出して、ほら戦えと指示する。


「あ、え?あ、えと、その……、ド、『ドルミール』!」


ほう?


『ドルミール』は、「眠りの霧」「気絶の鱗粉」「倒れ粉」などと呼ばれる魔法だ。


効果は、空間に吸えば気を失うガスを放出する、というもの。


ゲーム的に言えば「スリープクラウド」と言ったところか?


火球を飛ばす攻撃魔法の『フォティア』ではなく、『ドルミール』を使ったのか……。


「何故、『ドルミール』を使った?」


俺は訊ねた。


「ひっごめんなさい」


竦み上がって思い切り頭を下げるハル。


ああ、アレだな。


今までの人生、何をいっても否定されてきたんだろうな。


だから、二言目には謝罪の言葉をとりあえず出す。


……人によっては、そういう態度でいる方が癇に障ると思うんだがな。


だから虐められるんじゃないの?


まあその辺をガチ説教しても無意味だろうな。気質はそう簡単には変わらない。


頭を上げさせて、肩を抱き、頬に手を当ててやりながら言葉をかけてやる。


「別に怒ってはいない。ただ、何故やったのかを聞いているだけだ。考えてやったことなのか?なら、何を考えていたのか聞かせてほしい」


「わ、私、レベルが低いから、その、魔法が、たくさん使えない、かなって」


「ふむ、それで?」


「だ、だから、攻撃より、眠らせる方が、複数を倒せるから、その……、強いかなって……」


ふむ。


なるほどな。


「良いね、才能あるよお前。魔術師(メイジ)に必要なのは、華々しく敵を倒す大魔法より、むしろ知恵と知識を活かして周りを的確にサポートすることなんだよ」


無論、火力を発揮する攻撃魔法も強い。


強いが、どちらが上か?みたいな話をすると、状態異常付与の方が同レベル帯の呪文なら攻撃魔法より上だ。


この世界の状態異常はめちゃくちゃ有用ってことと、魔法使いが唱えられる呪文の回数が少ないってこと両方を加味すると、こういう結論になる。


「わ、私っ!さ、才能、ありますか?!」


「あると言った」


「本当、ですか?!」


「嘘は言わないでしょそれは」


「認めて、もらえた……?やった、やったやったやった。認めてもらえた!主人公様に!嬉しい嬉しい嬉しい!ふひひひひひ!」


ガンギマリの狂った瞳で、ケタケタと笑い始めるハル。


なんだこいつ、怖……。


まあ、顔は可愛いし、もうちょっと太らせればイケるか?


もう既に四人の気狂い女に惚れられてるんだし、今更一人くらい増えても誤差でしょ。

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