第8話 すばらしき妙技

ダンジョンに再度やってきた。


四人にはしっかりとポーションやらを持たせて準備を徹底させ、そのまま草原領域を歩かせる。


「まず、前に出るのは盗賊(シーフ)だ」


「俺?!俺は別に、盗賊じゃないぞ?!」


ああはいはい。


ピーターに説明をする。


簡単な話だ、『役割を果たせ(ロールプレイ)』と言ってやっただけ。


「……なるほど、敵を見つけたり、罠を外したりするのが盗賊ってことか。言い得て妙だな」


「よし、じゃあピーター。敵は居そうか?」


ピーターは、周囲をぐるりと見渡す。


ビーストマンらしく鼻が利くんだろう、周辺の匂いを犬みたいに嗅ぎ回った。


地面にも耳を当てて……。


「……多分、この辺りには何にも居ない」


と言った。


「うん、良い腕だ」


俺はそう言って、先に進めと促した。




草原領域。


無限に広がる草原の領域。


ここには、薬草やキノコなどの自然の恵みがある。


地形的には草原なのだが、草花の背の高さはまちまちで、草が伸びている所ほど難度が高いとされている。


出現するモンスターは大体同じだが、背の高い草に囲まれた位置では、敵の視認にも剣を振るのにも難儀するからな。


そう言った外的要因含めて「難度」は定義される。


それに、草原領域の藪の中には、「ヤツ」が紛れ込んでいることもあるからな。


初心者殺しと名高い「首狩りウサギ」というモンスターがね……。


「……なので、草が伸びているところには近づかないように」


「「「「はい!」」」」


よし、じゃあ早速……。


「予定通り、今日は薬草採取をして帰るぞ。薬草が生えているのはこの辺りだ」


そう言って、俺の手持ちの地図を指差し、五分程度ダンジョンを歩く。


もちろんその時に、全員に地図を書かせるのも忘れない。地図埋めは冒険者の義務だと教えている。


「採取をするのはディナとルイーズに頼もうか。テルマとピーターは周辺の警戒をしろ」


「「「「はい!」」」」


「あ、あとピーター」


「何だ?」


「この中ではお前が一番視野が広い。リーダーはお前な」


「え?俺?!」


「普段やることは皆で話し合って決めれば良い。ただ、こうやってダンジョンの中で指示をするのはお前って話だ。気負わなくていい」


「わ、わかった」


で……、そうだな。


「薬草だが、根っこまで引っこ抜くのはダメだぞ。薬草の薬になる部分は葉っぱの方だから、葉っぱをナイフで切って袋に詰めるんだ。それに、根を残しておけば、二週間後くらいには元通りになっている。そういう後に繋がる行動は大切だな」


「「はい!」」


うーん……。


「あとな、君達、緊張し過ぎだ。もっと肩の力を抜いてくれ」


「で、でも……」


テルマが声を上げた。


「でも?」


「もう死にたくない……!」


なるほど。


「緊張してる方が死ぬけど?」


「う、で、でも」


「はい、肩に力を入れて」


「あ?え?はい」


「息止めて」


「んっ」


「力を抜きながら、ゆっくり息吐いて」


「はああ〜……」


「……落ち着いたか?」


「は、はい。大丈夫そうです」


「まあ、最悪死ぬだけだと思えば楽なもんだろ?世の中には、『死んだ方がマシ』って絶望も山ほどあるんだからな」


すると、テルマとルイーズは何かを思い出したような顔をした。


恐らくは、兄貴分のハリーに土下座させたことが頭によぎったんだろう。


「……そうだ!優しい兄貴にあんなことをさせた屈辱と比べれば、死ぬことなんて怖くねえっ!」


「ああ、その通りだ!」


「うん、それが分かってるなら良いんじゃない?……それはそれとして」


「敵だ!」


ピーターが叫ぶ。


うーん、こいつ、かなり出来る子だなあ。


弟子にすんならこっちの方が良いわ。


出来が悪い子ほど可愛いとは言うけどそんなん嘘で、普通にできる子の方が贔屓されるんだよ。


出来が悪い子が贔屓されてたら、それは評価者から見れば良い子なんだってことで……。


俺は人格より能力重視だからね、ごめんね。


はい、やってきました、今回のモンスターは……?


「「「「ガゥォォ!!!」」」」


未確定名「人型の獣」が四体だ!


ネタバレすると普通にコボルトなのだが……。


「な、何だこいつ?!見たこともない、人型の獣だ!ビーストマンなのか?!」


そう……、この世界の人間は、「知らない」のである!!!


よく考えてほしい。


我々地球人は、本屋で数千円で親が買った「動物図鑑」を子供の頃から見せられて、身近な犬と猫以外にも、動物園でライオンだのトラだのを見て知っている訳だ。


しかしこの世界では違う。


本の一冊が騎士の月収に匹敵するこの世界では、『知識』を得られるのは本当の本当に、ほんの限られた人達だけなのだ。


あ、因みに、相手の魔力の波動を感じ取り……とかそういう技術はないこともないが、常人には無理だからね。『鑑定スキル』みたいな、雑に何でも分かる技能はない。


全ては知識と技量の積み重ねの果てにある。


と、まあ……、真の『すばらしき妙技(ウィザードリィ)』とは、ステータスによらない「攻略知識」と「プレイヤースキル」だとは、この世界で知る人は少ない。


魔法使いの凄いところはむしろそこで、彼らは学院などでモンスターや世の中の知識を得ている。その知識の活用こそが、魔法よりもよほど素晴らしい力なのだ。


だから、ほら、僧侶の少女が叫ぶぞ。ディナが叫んだぞ。


「あれはコボルトです!敵、モンスター!」


「分かった!テルマ!ルイーズ!前から来るやつを止めろ!」


「「おうっ!」」


ACスカスカコボルト君とは言えども、テルマとルイーズの命中率もカス同然だからな。


攻撃は当然、外したり防がれたりした。


まあ、コボルトも難度1……、つまりはレベル1相当のモンスター。


つまりは同格だ。


行けるはずだろう。


おっと……?


動きが変わった?


「おおおおおっ!!!」


テルマが、目の前のコボルトを「力」で突き飛ばして……。


「やああっ!!!」


ルイーズが、「早」さで目の前のコボルトを撹乱するように、下半身を狙って斬りつけた。


足が止まったコボルトの頭を……。


「死にやがれえええっ!!!」


テルマがかち割った……。


良い当たりだ。


「なるほど、ああやりゃ良いのか!ディナ!」


「うんっ!」


それを見ていたピーターも、戦法をパクる。


ピーターは小型のハチェットでコボルトの腰を狙って攻撃する。


コボルトは、手に持っている木の棍棒でガードするのだが……。


「今だディナ!やれーっ!!!」


「やああっ!!!」


ノーガードの頭を、ディナの棍棒でぶん殴られる……。


頭をやられて脳震盪を起こし、ふらふらになったコボルトを……。


「喰らえっ!」


ピーターが仕留めた。


うーん?結構やるねえ。

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