第7話 冒険者キャリアプランナー部

「じゃあまず、冒険者のライフプラン設計から行くか」


俺はそう言って、タブレットを出した。


りんごの会社の奴だ。


パワポで作った資料で、冒険者の生活について説明する。


「まず、ヒューマンってのは、全盛期が短い種族なんだよね。君らは十五歳だが、ここから戦える期間は十年から十五年。その後は、段々と衰えていく……」


エルフなら全盛期が数百年くらいあるし、ノームやドワーフ辺りも百年はいける。


早熟なビーストマンとハーフリングは二十年前後かなあ……。


ムーンレイスとかセレスティアンとかドラグマンとか、ハーフデビルとかは死ぬまで永遠に全盛期だが。むしろ、殺されなきゃ死なない。


「だから、冒険者は、冒険者じゃなくなった時の目標を定めて貯金しなきゃならないんだよね」


「……そんなこと、考えたこともなかった」


「ただ、ダンジョンで戦えば偉くなれるとばかり……」


テルマとルイーズは、そう言って呆然としていた。


「うん、そんな訳ないよね。そういう頭空っぽ系冒険者は大抵、衰えに負けてダンジョンで死ぬか、街で昔の武勇伝を語り続ける老害になってのたれ死んでゆくかの二択だ」


「「………………!」」


ゾッとした、と言う顔をする二人。


覚えがあるんだろう。


確かに、この迷宮都市には、「ワシは昔、偉大な冒険者だったんだ!」とか言いながら物乞いしてくる奴が多いが……。


その中には本当に、昔偉大な冒険者だった「成れの果て」も混ざっているだろうよ。


「特にお前らは戦士(ファイター)だからな、再就職先は絶望的と言って良い」


戦士は、誰でもできる仕事だからな。


まあ逆に言えば、誰でもできるからこそ、基礎を突き詰めなきゃならない部分が大きいんだが、それは置いておこう。


「賢い冒険者は、冒険者をやっているうちに金を貯めて、その金で何か仕事を始めるんだ。できれば、冒険者としての経験が活かせるものがいい」


「た、例えば……?」


「氷の攻撃魔法が使える魔術師(メイジ)は、氷売りとして稼いでいるな。僧侶(プリースト)は教会で治療師を始めたり……、射手(シューター)なら故郷に帰って狩人をしたりな」


「メイジ?プリースト……?」


ああ、そこからか。


「すまん、説明しよう。これは俺の中での職業分類でな。まあ、そうだな……、『攻撃魔法の専門家』は魔術師。『回復魔法の専門家』は僧侶って感じだ」


「確かに、そうとも言えるでしょうけど……、それを言えば魔法を使うなら誰でも魔術師なのでは?」


とルイーズ。


「そうだな。でも、回復魔法の使い手だと思って仲間にした魔術師が、実は攻撃魔法しか使えなかった……、とかだったら問題があるんじゃないか?」


「そう、ですね。確かにそうです」


「だから、便宜上、名称を分けさせてもらった。……で、君ら将来は何やりたい?」


「え、えと……、じゃあ、兵士とかは?」


テルマが言った。


「悪くない。元中級冒険者でした!とかなら、割と結構採用してもらえるかもな。モンスターを相手にする訳じゃないから、衰えていても問題は少ないしな」


「結婚……、とかはいけませんか?」


ルイーズが言った。


「難しいな。花嫁修行を受けている訳でもない女を娶ってくれる男は少ない。するとなると、冒険者同士とかになると思うぞ」


「そうですか……。では、お花屋さん……、とか?」


「頭メルヘンかよテメー。そんなんで稼げると思うか?」


「うぅ……、何か店舗を開くことは?」


「そんな学ある?」


「……ありません」


「いや、今から勉強するってんならそれで良いよ?でも、できるか?」


「い、今は無理です……」


「じゃあやめとけ。……まあ、商売がしたいなら、冒険者だった頃の力を活かして、ダンジョンの浅層にある薬草にキノコなんかを売る仕事をしても良いかもな。森での果物集めとかも結構稼げる」


「薬草摘みですか……」


「それが嫌なら、ある程度稼いでから何かしら手に職をつけるための勉強をするしかないな。どこかの商会の依頼を受けまくって信頼してもらい、老後はその商会の護衛としてやっていく……、なんて手もあるぞ」


「わ、分かりました!頑張ります!」




「はいじゃあ、皆さんの目標は決まりました。次は、目標までにどうやって生きていくか?です」


「「はい!」」


「まずは、草原階層での日帰り攻略で日銭を稼ぐことから始まるだろうね。当面の目標はレベル上げと装備を揃える為の貯金」


「レベル……ってのは?」


テルマが首を傾げた。


「モンスターを倒すと余剰な魔力が弾けて放射されて、それを吸収すると……あー、バカにもわかりやすく言うと、モンスターを倒すと強くなれるんだ」


「「なるほど!」」


馬鹿にはこの教え方で良い。


「だから、モンスターをたくさん倒して経験を積んで、レベル3くらいにはしておきたい」


「するとどうなるんだ?」


「難度3の領域でも十分に戦えるようになる。そうすれば、浅層ならやっていける一端の冒険者だ」


「「おおっ!」」


「その為にも準備が必要だ。日帰りだと持っていくものはこう」


俺は装備品を広げて見せる。


・ヒールポーション

・アンチドーテポーション

・水筒

・弁当

・包帯

・手拭い

・外套

・採取用ナイフ

・採取用革袋


「こんなもんだ、金は貸してやるから全部買え」


「「え、でも……」」


「金は生きてりゃ稼げるが、命は失うとそこで終わりだぞ」


いや、蘇生はできるが、蘇生前提のダンジョンアタックは馬鹿だからね。蘇生はあくまでも保険、本命は死なないように立ち回ることだ。


「「……はい!」」




「そして最後に、浅層での立ち回りを教える……、その前に」


俺は、新人達がパーティを集めている場にやってきた。


「二人じゃ頭数が足りん、何人か連れてこい」


「「はい!」」


で。


二人が連れてきたのは、男女二人。


盗賊(シーフ)のピーターと、僧侶(プリースト)のディナだ。


ピーターは、神経質そうなビーストマンのガキで、目つきが悪い。犬耳、いや、ハイエナか?茶焦げた色の髪をしている。


ディナはビーストマン、ウサギの耳が生えている自信なさげな少女。ピーターの後ろに隠れている。


へえ、良いのを捕まえてきたもんだ。


コミュニケーション能力は高いんだな。


まあ馬鹿で陰キャとかもうそれは死んだ方がいいもんな。


馬鹿だったら底辺大でウェーイしてその経験を活かして営業とかすると割と結構稼げる。


けど、馬鹿の陰キャはもう終わりだよ。


そしたらもうなんにもアドがないもんね。


「日帰りなら四人で良いだろう。よし、行くぞ」


「「はい!」」


行くぞー。


「い、いや、待ってくれよ。アンタは誰なんだ?」


と盗賊少年。


まあそれはそうなるよな。


「俺はこの二人にしばらく冒険者のイロハを教える人だ」


「センセイ……ってやつか?」


「そうなるな」


「……この二人、なんか特別な奴か?貴族様とかじゃ」


「いや、とある上級冒険者の妹分でな。俺は強くはないがベテランなので、その上級冒険者に見込まれて教導を請け負った。しばらくは浅層を日帰りで流すつもりだ」


俺がそう言うと、ピーターは小声で何かを呟き始めた。


「……ってことは、上級冒険者との縁ができる?見たところ頑丈そうだし、盾くらいにはなるか。最悪ディナさえ守れれば良いんだし……。それに、センセイがいるのも助かるか。ダンジョンなんて初めてだし、故郷でも腕っぷしは弱かった俺が生き残るにはやはり……、うん。うん、うん、よし!」


なんか露骨な計算をしたピーターは、凄いキラキラの笑顔でこう言った。


「俺はピーター!これからよろしくなっ!!!」


……こいつは大物になりそうだ。

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