第3話 女運のツキ
俺も一応、下級とは言え冒険者だ。
難度1の草原領域で散歩くらいはする。
薬草やキノコなど、ポーションの材料を集めたりとかな。
……ポーション、ダンジョン都市であるウィンザリアでは常に不足しているから買うと高いんだよな。
自分で作った方が安いんだよ。
まあ、作るには錬金魔法が必要だから、普通の冒険者は作ろうだなんて思わないだろうが。
でも、地球での仕事で使うから、ポーションは常にストックしておかなきゃならないんだよなあ……。
そんなことを考えながら、無心で草むらから薬草を採取していると……。
「おはよっ、サターン!」
目の前に美女が現れた。
白色のロングヘアを編み込みにしてコンパクトにまとめて、赤い花の髪飾りをつけた、笑顔が眩しい元気な美女だ。
服装は、短めのパンツにロングブーツ、防具を兼ねた竜革コルセットに、数本のベルト。竜革ジャケットも羽織っている。
ベルトには、錬金術師の工作道具や試験管が連なるように固定され、手には実験用の耐酸グローブ。
腰の後ろから覗く柄は、採取と戦闘兼用で使えるミスリルナイフか。魔法の杖もある。
彼女は、錬金術師(アルケミスト)にして、ダンジョン深層の攻略を可能とする最上級冒険者……。
「カテリーナか」
アカデムのカテリーナだ。
「むー!」
カテリーナは、俺の胸を叩いてきた。
ちょうど、胸元に抱きつくかのような形になるので、白い頭がよく見える。
錬金術師らしい、薬品の香りがふわりと香った。
何で怒っているのか……?
ああ、そうか。
「キティ」
「うん!それでよーし!」
そうだったな、キティの愛称で呼ばないと怒るんだった。
……まあ、俺以外にキティと呼ばれるとブチ切れるんだが。
怖いよこの女は。
でも、顔がいいのであまり気にしてはいない。
「今日も採取?」
「ああ、ポーションが足りなくてな」
「ああ、チーキュ?の方の仕事で使うんだっけ?」
「そうだ。あっちにはポーションが存在しないからなあ」
「へー、じゃあ、怪我とかどうしてるの?」
「鎮痛剤飲んで、傷を縫って、治るまで待つ」
「ひえ〜、そんなんじゃ冒険できないねえ」
「まあ、安全な国だし、事故くらいじゃないと怪我なんてしないさ」
そう言いながら俺は、採取用の鎌で薬草を切り取る。
キティも、ぷちぷちとブルーキノコをもいでいた。
キティとはこうして、二人一緒にダンジョンの浅層で採取をする事が多い。
どうやらキティはデートだと思っているらしい。
この女は頭がおかしいので、「デートのつもりはない」などと正直に答えると発狂する。なので、曖昧な感じにしておく。
「ヴォオ!グオオッ!」
たまに、コボルト辺りの雑魚モンスターが襲いかかってくることもあるが……。
『フォティア』
「えいっ!」
俺の魔法と、キティの毒ポーション投げなどで即始末される。
「きゃー♡怖かったよぉ♡」
そう言って俺に抱きついてくるキティ。
なお、キティなら腕力だけでオークを叩き潰すくらいのことはできる模様。
怖いよこの女は。
「大丈夫、大丈夫」
適当に抱きしめて頭を撫でてやる。
「えへへ……♡」
うんまあ、可愛いからね……。
可愛いから許せるよね。
「あら、来たのね、サターン。昼食はまだかしら?一緒にどう?」
そう言って俺に抱きついてきたのは、黒髪の魔女(ウィッチ)。
黒いタイトなドレスにローブを羽織り、伝統的な三角帽を被った、妖艶な美女だった。
この女は……。
「サマンサか」
魔女夜会(ヴァルプルギス)のサマンサだ。
「ほら、いらっしゃい?一番地区のレストランを予約しているの」
そう言って、キティを押し除けて、俺の腕に抱きつくサマンサ。
冒険者の街であるウィンザリアであっても、隠棲した貴族などが住まう一番街は煌びやかだ。
その一番街のレストランで『予約を取れる』ということは、それそのものがその人間の立場の高さを表している。
「……は?」
キティの口から、恐ろしいほどに低い声が漏れた。
はい。
終わりです。
もう終わり。
「退いてよ、おばさん。サターンは私の彼氏なんだけど」
「貴女こそ消えなさいな、小娘。サターンは私の物よ」
はい、終わりです。
「あはは、男の人のことをモノ扱いって……。ごめん笑っちゃった。性格歪みすぎてキモイんだもん。好きな人に好きって言えないとかガキなの?大体にしてサターンが誰かのものになるとかそういうタマじゃないの、分かんない?あ、そっかー、分かんないよねぇ?所詮は、サターンの表面しか見えてないもんねえ、その程度の仲だもんねー?ほんっとにキモいよおばさん。歳考えてもらえる?」
「何言ってんのよ貴女?むしろ、いい歳してお子ちゃまみたいな恋愛ごっこしてる方がよっぽど気持ち悪いでしょ?何?貴女幾つ?貴女こそガキでしょ、夢見過ぎ。大人の恋愛っていうのはもっと深いものなのよねえ……、勉強になったかしら?クソガキ。それに、歳の話をすれば、サターンも若返りの秘薬を使ってるんだから関係ないわよ。むしろお似合いなくらいにね」
冒険者達は全力で退避した。
普段はアホばっかりなのに、こう言う時ばっかり判断が早いの何なん?
……ん?
退避した冒険者の群れの中から、二人ほど飛び出してきたぞ?
「サターン、どうしたの?」
「サターン師匠ー!」
あー?
はい、終わりです。
今回はもう本当の終わり。
終わりでーす。
櫛が素通りするであろう、癖毛一つない美しい金髪。ステンドグラスをはめ込んだかのような青色の瞳。
豊満な胸に、セクシーな桃色の唇。
泣きぼくろも妖艶だ。
しかし、一番目を惹くのは、背中に生える白い翼だろう。
この女は、希少種族セレスティアンの司祭(ビショップ)……。
「キュベレイ」
混じりのキュベレイだ。
「そうよ、貴方のキュベレイよ……♡」
そう言って、俺に抱きつき、股間を押し付けてくる。
キュベレイはセレスティアンで、両性具有なのだ。
つまり、押し付けられる股間には、熱い肉の棒が……。
「ゔっ」
っと、いきなりキュベレイがダウンした。
それもそのはず、横から拳が飛んできたからだ。
拳の主は、ビーストマンの女。
二重の目がぱっちりと開き、イタズラっぽく笑う、可憐な猫耳少女。
……問題はほぼ全裸であることくらいか。
彼女は、忍者(ニンジャ)の……。
「アザミか」
アザミだ。
「はいっす!師匠の愛弟子!アザミっす!」
アザミは、悲惨なほどに真っ平らな胸を強く押し付けながら、俺の首筋の匂いを思いっきり肺に吸い込んだ。
すると、不快そうな顔をしてから、匂いを上書きするように俺に身体を擦り付けてくる。
「師匠〜!ダメっすよ!悪い虫の匂いがするっす〜!」
それどころか、先ほどにキュベレイが股間を押し付けていた場所に、自分の股間を強く押し当ててきている。
「はあ、はあ、師匠……♡」
そして、押し付けられた股間は、謎の湿り気を帯び……。
「んぎゃ!」
次の瞬間、アザミははっ倒された。
「雌猫が私の彼氏に擦り寄らないでもらえる?」
「私のモノなんだけど?」
「おばさんは黙ってて」
キティとサマンサだ。
「っぐ……、やってくれたわね、雌猫!って、クソガキと性悪女!私の旦那から離れなさい!」
復活したキュベレイが、美しい相貌を歪めて叫ぶ。
「うっひゃー、師匠見てください。気持ち悪い羽虫共が騒いでるっすよ〜?あんなの無視して私と帰りましょ?良い宿屋取ってるんで、朝までイチャイチャするっすー!」
アザミがゴミを見る目で女達を見る。
「「「雌猫ォ!!!」」」
あーもうめちゃくちゃだよ。
なーんで俺が抱いた女ってこんなにめんどくさい奴ばっかりなんだ?
ホント、世の中おかしいわ〜。
後日、ギルド半壊の罰金が俺に請求された。
解せぬ……。
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