第2話 鑑定のお仕事

「……ビビらせちゃったかね?」


俺は、ガスコンロを片付けながら呟いた。


昔から、愛想がないから怖いとよく言われたな。


態度が云々と、日本人は特にそういうところがある。


そんなことを思いながらも、地球で買った登山グッズの100Lバックパックの定位置にガスコンロを戻した。


そのついでに、子供の頃からの好物である、ピンク色のストロベリーガムを口に放り込んだ……。




しばしガムを噛み、風船を膨らませてダラダラアニメを見ていると……。


「サターン!どうした!暇か!」


上背の高い、筋骨隆々とした女達に囲まれてしまった。


アマゾネスである。


アマゾネスのパーティは、俺の座るテーブル席に勝手に座り始め、俺の身体を撫で始めた。


「むはー!良い身体だなあお前は!種くれ!!!」


俺に抱きついて頬にキスをしてくるこの女は、アマゾネスの族長、アンティオである。


「あーーー、暑苦しーーー……」


「良いだろオラっ!女に囲まれてんだぞ!嫌がってんじゃねえ!!!」


「おん、な……?」


こんなゴリウーが?


まあ、顔はいいけどさ……。


「何だこのヤロー!」


「いやまあ、うん。何の用だ?」


「用がなきゃ話しかけちゃダメか?」


「いや構わんが、お前の話は抽象的で面白くないんだよな」


「じゃあ身体で語り合おうぜ!」


ああ、アマゾネス……。


こいつらは、強い男を無理矢理犯して、その種で孕むものだからな……。


俺もこいつらに強いとバレているから、狙われてるんだよ……。


因みに、アンティオは経産婦で、もう五人も子供がいる。そして父親は全員別。


抱いてもいいけど、がっつき過ぎて怖いんだよね。


「むはぁ〜!チンポでけぇ〜!」


そう言って俺の下半身を弄るアンティオ。


と、そこに。


「オラァン!どけどけメスゴリラ共〜!ダニー様のお通りだぁ〜!!!」


人間の子供ほどの身長の男……、つまりはハーフリングの男が現れた。


「何だいチビスケ!引っ込んでな!」


「うるっせぇー!俺はそいつに用があんの!邪魔者は消えろぃ!……よう、サターン?今回のダンジョン攻略で手に入れたアイテムの『鑑定』を頼みたい」


ダニーは、馬油で尖らせた髭を弄りながら、偉そうに言う。


その隣には、侍(サムライ)のハンジローだ。


ハンジローは、黒の長いポニーテールをたなびかせながら、机の上に革袋をひっくり返した。


「一品につき銀貨一枚な」


「けっ!オメー、金なんざいくらでも持ってんだろ?!ケチ臭えこと言うなよなっ!」


「嫌なら別にいいんだが?」


「……わーったよ!ほれ、銀貨六枚!全品鑑定で頼む」


「オーケー」


俺は、机の上に散らばったアイテムを鑑定する……。


この世界では、宝箱から出てきたアイテムは、鑑定しない限り何なのかが分からないのだ。


もしかしたら呪いのアイテムで、装備した瞬間死ぬことだってある。


なので、鑑定は必須だった。


となると、鑑定のためには、鑑定屋に高い金を払ってしてもらうしかない訳だな。


ギルド?


ギルドが無料で何かをしてくれるなんて、そんな甘い話はない。


ギルドの鑑定士にも金を払う必要があるに決まってるだろ。


……まあ、上級冒険者は俺んところに来るんだけどね。


何故か?


俺の鑑定率は100%だからだ。


それだけの知識が俺にはある。


少なくとも、「鑑定してみたけど分かりませんでした!金は払え!」とか言ってくる他の鑑定士より、俺の方が物を知っている……。


「『力の指輪』『金呼びスカラベ』『猫のタリスマン』『除霊の首飾り』『フォティアのスクロール』『勇気の角笛』」


「へえ、どんなアイテムなんだ?」


「『フォティアのスクロール』は精々銀貨十枚だな。使うと少しの火が出るだけのスクロールだ」


「スクロールは当たり外れが激しいもんなあ……。遺失魔法のエスカペ(脱出)が記載されたスクロールなんて、金貨百枚は行くもんよ」


「『力の指輪』は、原価は安いんだが需要は高いからな。銀貨五十枚はいくだろうよ」


「ああ、確か、力を少し高めるとか?そりゃ、欲しい奴は多いよなあ。『剛力の腕輪』みたいな、もっと良いのがあるらしいけとよ」


「『猫のタリスマン』は足音を小さくするお守りだな。暗殺者御用達だ、金貨五枚くらいか」


「おお、そりゃいいな!盗賊(シーフ)にはピッタリだ!これは俺が貰うぜ」


「『除霊の首飾り』は、アンデッドに対しての守りがある。これは貴族の類に売れるから、金貨五十枚は固いぞ」


「良いねぇ!」


「『勇気の角笛』は、吹くと一時的に恐怖を抑制するアイテムだな。軍関係に金貨二、三十枚で売れるはずだ」


「良し!今回は大当たりだったな!」


「最後に、『金呼びスカラベ』だが……」


「あ?」


「査定金額、金貨千枚。装備するだけでモンスターが落とす財宝の量が増える、最高クラスのアーティファクトだ」


「な、なにーーーっ?!!!!」


ダニーは、金呼びスカラベを大事に抱えて叫んだ。


「こ、ここ、これだけありゃあ、王都に庭付きの家が買えるぜ!いや、自分で使っても……」


その時。


「いやがった!ダニーのクソ野郎!」


「げえっ!借金取り!ハンジロー、後任せた!」


と、借金取りが刃物を振り回しながらダニーに突撃して、ダニーは疾風のように逃げていった……。


残されたハンジローは。


「では、サターン殿は何か買い取っていただけるでござるか?」


「んー、じゃ、勇気の角笛をくれ。金貨三十枚出す」


「うむ、承知した。では、拙者はこれにて……」


「おう、また来いよー」




迷宮都市ウィンザリア。


人々は粗野で下品で、治安は悪く、危険も多いが。


俺にとっては最高の街だった。

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