第4話 行ったり来たりの生活

俺は、冒険者の食事処兼酒場で飲んだくれていた。


「クソ、あのバカ女共め。おかげで大損だー」


酔ってないし、大した出費はないが、なんかそういう雰囲気を味わいたくてやけ酒を飲んでいる俺。


大体にして彼女達はバカ女じゃないしな。


ただのバカより悪質なイカれ女だ。


俺がそうやってヤケ酒ごっこして遊んでいると、ギルドの受付から女が一人、俺の目の前に に来た。


「サターンさん?ギルド内での奇行はやめてもらえますか?」


金髪のロングヘアに赤いカチューシャをつけた、美しいエルフの女性。


俺の担当受付、ローズだ。


「奇行じゃない、ヤケ酒だ」


「顔色ひとつ変えずに?」


「表情が変わらないのはそういう癖でな。内心では悲しんでるよ、慰めてくれ」


「はいはい……、そこの席、早く片付けてくださいね」


「冷たいなあ、ローズは。新人の頃はあんなに可愛かったのに、ほんの十年でこんなにスレちゃうとは……。おじさん悲しいよ」


「貴方がいつもふざけてるからですよっ!」


まあそれはそう。




「はあ……、どうして貴方は真面目にやってくれないんですか?そんなに強いのに……」


そう言いながら、俺が広げたスナック菓子の袋を折りたたんでゴミ箱に捨てるローズ。


その目は、手のかかる息子を見ている母親のよう。


「強くないヨ」


「嘘つかないでくださいっ。最上級である『王金級』の冒険者パーティ……、ゲオルグ卿率いる『白龍旅団』に協力を要請されるほどの実力者である貴方が……、何で十年経っても『鉄級』なんですかーっ?!」


「お、冒険者等級の話?それ確か、ジジイが決めたらしいな。あのジジイ、データッキーだからなあ……」


確か、下から……。


下級冒険者

『木級』

『石級』

『鉄級』


中級冒険者

『銅級』

『銀級』

『金級』


上級冒険者

『黒鉄級』

『聖銀級』

『王金級』


……だったか?


つまり、俺は下の上って訳。


「その、やっぱり、サターンさんのお祖父様って……、『魔王リューメンノール』だったって、本当なんですか?」


「……どこで聞いた?」


「い、いえ、その、ゲオルグ卿が……」


はあ?


あのおっさん、口滑らせちゃったの?


困るんですけど……。


「やめてもらえる?魔王の孫とか噂されたら恥ずかしいし……」


「は、はい。すみません、忘れます」


「ああ、そうしろ。この世界、知ってるとヤバい情報が結構あるからな」


「……肝に銘じます」


ん、よろしい。


「……でも、本当に、昇格試験を受けるつもりはないんですか?」


「無いね」


「貴方の後輩のハリーさんなんて、この五年で黒鉄級になったのに……」


「だって、等級を上げると指名依頼来るじゃん」


「指名依頼は『割の良い依頼』のことですからね?悪いものじゃありませんからねっ?!」


「でも断れないんでしょ?」


「そ、それはまあ……、ギルド側に信を置いてくださるお客様の大切なご依頼ですから……。立場上、ギルドとしては、受けてもらえないと困るというか……」


「ぜーーーったいヤダ」


「子供ですかっ!」


男なんてみんなガキみたいなもんだよ。


ガキのまんま大人になるか、青いスーツ着てツーブロ入れて自己投資とか言って怪しいセミナーやり始める汚い大人になるかの二択なんだよ男ってやつは。


金持ってるって知られてるみたいで、地球では常に怪しいツーブロ怪人共に群がられてるからね俺は。


何アレ?捕まったら俺もツーブロにされんの?


ゾンビが何か?


「とにかく、俺は昇格はしない。ローズも出世したいんなら、もっと良い男を見つけて……」


「そんな言い方は!……その、やめてほしい、です。私は、その、これからもサターンさんと仲良くしたいなって……」


「あ、はい」


えぇ?


なんかそういうアレあった?


ローズとは、ちょっとデートしたくらいなんだけど……。


まあその辺は良いだろうよ。


明日は地球での仕事だ。


早く帰らなきゃな……。




『デルニエル』




転移門の魔法で空間を超越した俺は、新宿にある自宅兼事務所にやって来た。


新宿駅から徒歩十分、少し奥まった路地にあるエステサロン。


店名は『アルハイム』……。


好立地ながらも古いビルをリノベして、自宅兼エステサロンにしたのだ。


なあに、金なんざ売るほどある。


新宿で暮らしても、これっぽっちも財布は痛まない。


その理由は……。


「流石ね、大門左丹(だいもん さたん)さん。今日も完璧な仕上がりだわ。本当に一歳若返ったみたい……、いえ、本当に『若返った』のよね?」


「ええ、その通りでございます、ルビィ夫人。このエステサロンは、間違いなく『若返ります』」


これだ。


つまり、『本当に若返る』エステ……。


「なるほど……。他の美容エステが全部バカみたいに見える訳だわ。若さに勝る美しさなんて無いものね……」


「いえいえ、夫人もまだまだお美しゅうございますよ」


「は!愛想笑いの一つもせずによくもまあ……。まあ、良いわ。気に入ったわよ」


「料金の方は指定の口座に……」


「わたくし、アナログ派なの。セバスチャン!」


「はっ、こちらに」


「キャッシュで五億円……。これで良かったかしら?」


俺は、夫人の執事から受け取ったキャッシュケースを開いて、札束を確認する。


「……確かに」


「また今度来るわ、その時はよろしく」


「ええ、お待ちしております」




口座振り込みじゃなくてキャッシュだと、しまう場所がもう無いんだがなあ……。


俺はそう言いながら、押し入れにアタッシュケースを放り込んだ。


この次は、アメリカの富豪の娘が難病で、余命一年らしいから、それにポーションを投与する。


待ち時間は、隣のビルのスターパックスで購入したキャラメルマキアートを飲みながら待つ……。


隣のビルは一階がスタパ、二階は好きなバーガーショップのバーガークイーンだ。


近くには行きつけの居酒屋もあるし、少し歩けば隠れ家的な激ウマフランス料理店なんかもある。


コンビニも近いしもう言うことない。


……お、来たな。


「いらっしゃいませ」


「……君が、『奇跡のエステシャン』かね?」


ヒゲのおじさんがそう言って俺を見つめてきた。


「その呼び名は少々恥ずかしいのでご勘弁を……。ですが、奇跡なら起こせますよ」


だって魔法だもんね。


「よろしい、口座に三千万ドル振り込んだ。私の娘を……、頼む」


大型のバンから、ベッドに寝ている女の子がエステサロンに搬入される。


女の子はいわゆる、植物状態というやつだった。


頸椎や脳が麻痺する感じのアレらしい。詳しくは知らない。


知らないが……、見た感じ、脳炎の類と、臓器不全ってところか。


一応、インフォームドコンセントってことで、父親の富豪のおっさんに施術の説明をする。


「まず、脳炎から治しましょうか。これは細菌の繁殖によって大脳が麻痺しているようですので、細菌の除去をします」


「しかし、どうやって?イリーナの主治医は、ここまで深く細菌が入り込んでいては、脳手術は不可能だと……」


「メスは一切入れません。薬品で治すのです」


俺はそう言って、懐から緑色のポーションを出す。


アンチドーテポーションである。


「こちらのポーションで細菌……つまり毒を排除した後、スタミナポーションで体力を回復させ、ヒールポーションで肉体を修復します」


黄色のポーション、青色のポーション。


「ば、馬鹿馬鹿しい!何を言っているんだ?!」


ふむ。


「信じないなら、お帰りくださって結構です。返金にも応じます。……ですが、有り余る資金を使っても、世界中を回っても、それでも助からないからここに来たのでは?」


「そ、それ、は……」


「いや、自分は本当に構わないんですよ?セレブの子供が一人死んだとしても、自分の生活には関わりがありませんからね。選ぶのは貴方です」


「………………分かった、やってくれ」


はい。


まず、アンチドーテポーションを振り掛けます。


飲んでも良いんだけど、飲めないみたいだからね。


「マリオ様!脳波が……!」


「植物状態から回復しました!」


「そんな馬鹿な?!」


お付きの医者共が驚く。


そりゃそうだろうが、今は黙っててくれ。


そして、スタミナポーションで体力を回復……。


「なっ……?!痩せ細っていた身体が、急に膨らんだ?!!」


で、その体力を使わせて、ヒールポーションで肉体の損傷を回復っと。


「……んん、ダ……、ダディ?」


そうすりゃ、こんなもんよ。


「あ……、あああ!イリーナ、イリーナ!!!そうだよ、ダディだよ!イリーナ!!!」


「ダディ?どうして泣いてるの……?」


「嬉しいからさ!嬉しいからだよ、イリーナ!」


やっぱポーションは凄いわー。

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