第4話

「忙しいか?」

「ああ、大変な忙しさだよ。次々と新しい報告が送られてくる。これら全てを瞬時に処理しなきゃならん。全部これまでの報告と矛盾しないように繋ぎ合わせるんだ。けっこうしんどいぞ」

「そうだな。下の奴らは好き勝手にやるからな。まあ、あいつらがやった事が溜まりに溜まって俺たちの課が出来たわけだからあまり文句も言えんが」

「それにしても、あいつらが勝手にやってる事の一部を俺たちが命令したように書き換えるのはもう無理な気がしてる。考えても見ろ、あいつらが行動したという報告が来てから、後付けで書き換えるんだ、時系列的に無理だろう」

「しかし俺たちはいったい何の為にこんなことしているんだ? 別にこんな辻褄合わせなんかやらなくてもこの乗り物は動くだろう?」

「それは分からん。ただ、こうやって各部署が勝手にやった事の報告を、全てが矛盾しないように繕って記録し保管課に回す事で、いかにも俺たちがこの乗り物を運転しているように見せる事が、本当にこの乗り物を動かしている『誰か』には好都合なんだろうよ」

「そんなものか」

「でも、もう限界が来ているような気がしているんだ、俺は」

「限界?」

「俺たちの辻褄合わせは行き当たりばったりだがそれはそのまま記録となって保管される。そしてそれを見て下の連中は作戦行動をとる事になる。当然奴らの作戦は矛盾だらけになるだろう、行き当たりばったりの理屈で記録ができているんだから。その報告もどんどん支離滅裂なものになっていく。それでも俺たちは、その矛盾に満ち溢れた報告を、それ迄の行き当たりばったりでツギハギで作られた記録の全てに矛盾のないように繕っていくしかない。これはまるで噓がバレないように更に嘘をつくみたいなもんだ。俺たちも下の連中も、お互いが何のために何をしたいのか全く分からなくなってる」

「俺たちと下の奴らが完全に乖離してしまってるって事だな」

「そうだ。今や俺たちがしている事は、前に記録した屁理屈にただただ辻褄合わせするだけだ。だから下の連中からの報告をまとめていくと、話の流れによってはこの乗り物を自ら破壊する方向に進む事だって正しいという理屈になる。そんなのは明らかに間違っていて危険だと思うが、その理屈で進んでしまえばどうにもできん」

「確かに、このところそういう例が頻発していると聞くな」

「この乗り物もそろそろ限界なんだよ」

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