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資料④ Aさんの証言


(※以下に記すのは、私とAさんの会話内容を、忠実に書き起こしたものである。)


私 きょうはお時間を作っていただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。


Aさん あの、カメラオフでもいいですか?


私 もちろんです。


Aさん 漆崎さんを疑ってるわけじゃないんですけど、居場所がバレたらいろいろとヤバいんで。


私 プライバシーはちゃんと守ります。


Aさん ありがとうございます。


私 松永英美莉さんが殺されたことはいつ知りましたか?


Aさん 元日ですね。


私 ネットニュースか何かですか?


Aさん たまたま友だちの家でテレビを見てたら、東京湾女子高生遺体遺棄事件についてやってたんですけど、まさか被害者が「エミリー」だとは思わなかったです。


私「エミリー」と会ったことは?


Aさん ないです。いつも携帯電話で指示を受けるだけでした。


私 なるほど。


Aさん でも、噂はいろいろと聞いていました。


私 どんな噂ですか?


Aさん 反社とつながりがあるとか、いつも六本木で豪遊してるとか、ブランド物が好きだとか、タワマンに住んでるとか、いろいろですね。


私 そういった噂を聞いて、Aさんはどう感じましたか?


Aさん どう感じたか……。


私「エミリー」に憧れましたか?


Aさん それはあったかもしれません。TikTokでセレブみたいな生活を発信してバズってるのを見てましたから。


私 そうですか。

 

Aさん 夢あるなって思いました。同年代の女の子がセレブみたいな生活を送ってるなんて、普通に憧れるじゃないですか?


私 悪いことをして手に入れた生活だとしても?


Aさん 最初は詐欺だと思いませんでしたから。


私 そうだったんですね。


Aさん「エミリー」は成功者で、インフルエンサーで、そんな彼女に憧れて、軽い気持ちでポチる女の子はけっこういたと思います。


私 ポチる?


Aさん「エミリー」のインスタにLINEのURLがあって、「エミリー」と繋がりたい女の子がポチるんです。


私 女の子だけですか?


Aさん はい。詐欺グループのメンバーは女の子だけでしたから。


私 そうだったんですね。インスタからLINE登録させるのが「エミリー」の勧誘の手口だった?


Aさん そうです。LINE登録すると無料説明会の案内が届くんです。


私 無料説明会?


Aさん はい。


私 それはどこで開催していたんですか?


Aさん 詳しい場所は言えないですけど、港区のタワマンの高層階でした。東京タワーが見渡せるような。


私 タワマンの高層階の一室を貸し切って行われていた?


Aさん はい。


私 無料説明会の内容について教えていただけますか?


Aさん はい。最初は女の子たちが集まって、シャンパンを飲んだりイタリアンのオードブルを食べたりして、「エミリー」の話で盛り上がるんです。


私 女子会みたいですね。どんなタイプの女の子が多かったですか?


Aさん うーん、見た目はけっこう幅広くて、地雷系もいたし港区系もいましたね。共通してるのは、みんな社会の最下層にいて、お金がなくて、居場所がなくて、キラキラした世界に憧れてるってところでした。


私 Aさんもそうでしたか?


Aさん はい。当時、あたしはホストに貢いでて、借金まみれで、デリヘル始めたんだけど、ぜんぜん稼げなくて、かなり追い込まれてましたね。


私 お金が欲しくて、無料説明会に参加した?


Aさん はい。「高額報酬」って文句に誘われて、軽い気持ちでLINE登録しちゃったんですよね。


私 無料説明会では、いきなり詐欺の話をするわけじゃないんですね?


Aさん そうですね。そのへんはすごく巧妙だったと思います。


私 女子会みたいな雰囲気から、どうやって詐欺の話に入っていくんですか?


Aさん あたしたちの警戒心がなくなったところで、スタッフからタブレットが配られて、各自動画を視聴するんです。


私 どんな動画ですか?


Aさん テレアポのマニュアルみたいな内容です。明るくハキハキとした発声を心がけましょう、みたいな基本的な内容でした。


私 なるほど。


Aさん タブレットには、トークスクリプト(いわゆる台本ですね)が何パターンも入ってて、発声練習みたいなこともやりました。

 

私 それは、講師みたいな人が来るんですか?


Aさん はい。シャネルを着た綺麗な女性が来て指導してくれました。笑顔が素敵で、人当たりのいい、洗練された女性でした。車はベンツのゲレンデに乗ってましたね。


私 まさに女の子たちが憧れるような女性ですね。 


Aさん はい。いま思えば、あたしたちの欲望や憧れを刺激して、やる気を起こさせるために用意された女性だったんでしょうね。


私 なるほど。詐欺だと気づいたのはどの段階ですか?


Aさん 無料説明会が終わると、「ハコ」と呼ばれる賃貸マンションに軟禁されました。無料説明会のタワマンとはぜんぜん違う、殺風景で狭い部屋でした。


私 愕然となりませんでしたか?


Aさん めっちゃなりました。落差がすごすぎて。


私 そうなりますよね。


Aさん そこで、高齢者の名簿を渡されて、片っ端から電話をかけていくんです。騙してキャッシュカードを奪うために。これは詐欺なんじゃないかって気づいたのは、はじめてそれをやったときですね。


私 詐欺だと気づいても、すぐには辞めなかったんですよね?


Aさん すぐには辞めれなかったですね。


私 辞めれない?


Aさん お仕事を始めるときに、個人情報を提出してるから、家の住所はバレてるし、連帯保証人として親の連絡先とか職場も教えてるし、逃げたら何をされるかわからないと思いました。


私 それでも最終的に逃亡を決意したんですよね?


Aさん そうですね。


私 それはどうしてですか?


Aさん 「エミリー」からの指示内容が、だんだんエスカレートしていったからですね。


私 エスカレートしていった?


Aさん タタキをやれって言われたときは、さすがにヤバいと思いました。


私 タタキ?


Aさん あっ、強盗のことです。


私 強盗。


Aさん はい。


私 強盗はリスクが高い?


Aさん そうですね。あたしの役割は、警察署の生活安全課になりすまして、ターゲットの家にアポ電をかける、というものだったんですけど。


私 いわゆるアポ電強盗ですね?


Aさん はいそうです。お金を持ってそうな家に電話をかけて、現金や貴金属をどれくらい保有しているかを聞き出して、住人がひとりの時間帯を狙って強盗をするんです。


私 実際にやったんですか?


Aさん いいえ、それをやる前に逃げたんで。


私 逮捕されるのが怖かった?


Aさん そりゃあ怖いですよ。こんなこと言っていいかわからないですけど、罪の意識とか、ぜんぜんなかったんですよね。それよりも警察に捕まるのが怖かったですね。


私 なるほど。


Aさん かなり手荒なこともやってたみたいですし。


私 たとえばどんなことですか?


Aさん 家に押し入って、住人と鉢合わせたら、粘着テープで縛り上げて、暴行したりだとか。


私 すごい。映画みたいですね。それもぜんぶ「エミリー」の指示ですか?


Aさん もちろんです。


私 でも、逃亡するのって、怖いですよね?


Aさん もちろん怖かったです。逃亡しようとして、ひどい目に遭った子もたくさんいましたから。


私 そうなんですか?


Aさん はい。


私 暴力を振るわれたりとか?


Aさん そうですね。「エミリー」が半グレみたいな連中にやらせてたみたいです。


私 ……。


Aさん あたしが聞いた話は、逃亡しようとした女の子を拉致して、アパートの一室に監禁して、全身アザだらけになるまで暴行して、HIVに感染したホストと生で何回もエッチさせたらしいんです。


私 うわ。


Aさん その女の子はHIVに感染して、合併症で右足を切断したみたいです。


私 えっ。


Aさん めっちゃ怖いですよね?


私 はい。右足切断は大きな代償ですね。


Aさん こんな話も聞きました。逃亡しようとした女の子を拉致して、全身血だらけになるまで暴行して、ペンチで爪を……


私 えっ、待って、痛そう。


Aさん ペンチで爪を、一枚ずつ、剥がしていくんだそうです。


私 しっかり言わないでくださいよ。AさんってドSなんですか?


Aさん あはは。ごめんなさい。


私 めっちゃ笑ってるし……。見てください、こんなに鳥肌立っちゃいました。


Aさん 想像しただけで痛いでしょう?


私 痛いでしょう?じゃないんですよ。


Aさん ごめんなさい。


私 話を戻しますけど、Aさんはよく逃げられましたね。


Aさん はい。


私 Aさんが無事で何よりです。


Aさん いつまで安全でいられるかわからないですけど。

 

私「エミリー」を殺害した犯人に心当たりはありますか?

 

Aさん うーん、わからないです。でも、いろいろ噂は聞いてましたから。


私 どんな噂ですか?

 

Aさん 暴力団に目をつけられてるとか。


私 暴力団?


Aさん「みかじめ料」みたいな、これまでのシノギでは食えなくなった暴力団が、特殊詐欺に手を出してるって話は有名ですから。


私 へえ、暴力団も特殊詐欺をやる時代なんですね。


Aさん 最近は暴力団も弱体化してます。組織を維持するための資金を稼ぐのに、四苦八苦してる状態です。中華料理屋の店長をやってた暴力団組長が射殺された事件を覚えてますか?


私 はい。


Aさん 暴力団がお金に困って、組長が飲食店で働いてるケースはザラにあるみたいですよ。


私 そうなんですね。ところで、「エミリー」が暴力団に目をつけられる理由って何ですか?


Aさん 暴力団は犯罪のプロです。いっぽう「エミリー」のグループは素人です。素人が幅を利かせてたら、目をつけられて当然ですよ。


私 そういうことか。


Aさん「エミリー」は暴力団に殺された可能性が高いかもしれないですね。


私 そうですかね。


Aさん きっとそうですよ。


私「エミリー」が殺されたと知ってどう思いましたか?


Aさん どう思った……。


私 悲しいとか、かわいそうとか、そういった感情はありましたか?


Aさん どうだろう……。


私 ないですか?


Aさん うーん、悲しいとか、かわいそうとか、そういうのはないかな。


私 ないですか。


Aさん こんなこと言っていいかわからないですけど、「エミリー」が死んだこと自体はべつにどうでもいいっていうか……。


私 はあ。


Aさん「エミリー」の特殊詐欺に関与してた人たちが逮捕されたじゃないですか?


私 はい。

 

Aさん あたしが潜伏してる場所にも、いつか警察が来るんじゃないかって、そればっか考えてます。


私 逮捕されるのが怖い?


Aさん もちろん怖いですよ。あたしは何も悪くないですから。


私 え?

 

Aさん あたしは騙されたんです。本当は詐欺なんかやるつもりなかったのに。


私 ……。


Aさん あたし思うんですよね。


私 何ですか?


Aさん 人の最期を見れば、その人がどんな人生を歩んできたかわかる、って言うじゃないですか?


私 あ、はい。


Aさん ある意味、「エミリー」に一番ふさわしい最期だったんじゃないかな。


私 ふさわしい最期……ですか?


Aさん はい。まあ、あたしの最期も相当ひどいものでしょうけどね(笑)

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