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資料③ 中学時代の同級生の証言
(※以下に記すのは、私と同級生の会話内容を、忠実に書き起こしたものである)
私 DMでやり取りさせていただいた漆崎一花です。きょうはお時間を作っていただきありがとうございます。
同級生 いえいえ。てか、喫煙席で大丈夫だった?
私 はい。大丈夫です。
同級生 ありがと。
私 はい。
同級生 エミリを殺した犯人まだ捕まらないの?
私 そうみたいですね。
同級生 東京の警察は何やってんの? マジで無能だわ~。田舎じゃないんだし、防犯カメラとかいっぱいあるでしょ。
私 そうですね。
同級生 ねえ、何か注文しよう? ドリンクバーでいい?
私 あ、はい、ありがとうございます。
同級生 山盛りポテトフライも頼もうよ。
私 はい。
同級生 ごめん煙草吸うわ。
私 どうぞ。
同級生 いや~、エミリ殺されちゃったか~。
私 ……。
同級生 バラバラにされて東京湾に捨てられるとかウケんだけど(笑)
私 あの、事件を知ったのは、いつでしたか?
同級生 元日かな。大晦日は地元のクラブの忘年会行って飲み過ぎちゃってさ、元日は夕方まで寝てたんだけど、起きてスマホ見たら、トレンドに「東京湾バラバラ殺人」が入ってて、被害者の名前は松永英美莉だって書いてあったから、「うっそ、女帝じゃん!」って叫んじゃったよ。
私 女帝?
同級生 エミリの中学時代のあだ名ね。
私 どうして女帝なんですか?
同級生 クラスを牛耳ってたから。
私 なるほど。
同級生 担任までエミリの言いなりだったからね。
私 担任まで。
同級生 ウケるよね。ちなみにうちはエミリの配下だった。
私 友だち、ではなく配下ですか?
同級生 友だちではないかな。友だちっていうのは対等なものじゃん? うちらの関係は違うもん。
私 主従関係みたいなものがあった?
同級生 そうだね。エミリがクラスのトップに君臨してて、クラス全員が彼女の命令に従うみたいな感じ。
私 どんな命令ですか?
同級生 資金調達してこいとか。
私 資金調達?
同級生 エミリは金遣いが荒かったんだ。いつも派手な格好して繁華街で遊んでた。中学生なのに、ティファニーのアクセサリーつけて、バッグはシャネルだった。
私 遊ぶためのお金をクラスメイトに調達させていたんですか?
同級生 そうだね。クラスの男子には窃盗と空き巣、女子には万引きと売春をさせてた。
私 えっ? 空き巣? 売春?
同級生 びっくりするでしょ?
私 はい。嫌だって言うクラスメイトはいなかったんですか?
同級生 それがいなかったんだよね~。エミリは性格クソ悪いけど、見た目は美人だから、みんな彼女を喜ばせたいって思っちゃうんだよね。だから彼女の頼みを断れなかった。
私 売れっ子キャバ嬢じゃないんだから……。でも、いくら美人だからって、クラス全員を支配できるものなんですかね?
同級生 ……。
私 えっ、何で黙るんですか?
同級生 いや、べつに何でもない……。
私 逆らった生徒には、暴力を振るったりしていたんじゃないですか?
同級生 暴力……。
私 はい。
同級生 そ、それは……。
私 大丈夫ですか? 震えているように見えますけど?
同級生 うるさいな。ちょっとあのころを思い出しただけだよ。
私 ごめんなさい。
同級生 ……。
私 もしよかったら、あのころの話を聞かせてくれませんか?
同級生 わかったよ。
私 ありがとうございます。
同級生 エミリには刺青を入れた半グレみたいなツレがいた。エミリに逆らったやつらは、そいつらにボコボコにされた。
私 半グレ。
同級生 やつらは改造したハイエースに乗っていて、拉致とか監禁は当たりまえだった。
私 被害者は、恐怖でクラスメイトを支配していたんですね?
同級生 うん。
私 凶悪な女帝ですね。
同級生 クラスの男子たちがコンビニ強盗でパクられたことがあるんだ。
私 コンビニ強盗も女帝の命令?
同級生 もちろん。でも、パクられても警察の前で女帝の名前は出さなかったみたいなんだ。そんなことしたら何されるかわからないからね。
私 まるで詐欺グループの指示役と実行犯じゃないですか。
同級生 うん。
私 すごい話ですね。
同級生 あっ、そうだ。
私 何ですか?
同級生
私 だれですか?
同級生 椎貝瑠美はクラスメイトで、エミリの配下だった。コンビニ強盗でパクらた男子たちの中に、椎貝の彼氏もいたんだ。
私 はい。
同級生 椎貝は彼氏を助けようとした。それがエミリの怒りを買うことになった。
私 椎貝さんはどうなったんですか?
同級生 夜、塾の帰り、椎貝はハイエースで連れ去られた。
私 えっ。
同級生 椎貝はレイプされて、エロサイトに無修正のハメ撮り動画をばら撒かれた。
私 ひどすぎる……。
同級生 椎貝の動画はいまも検索すれば出てくる。たぶん一生消えることはないだろうね。ずっとネット上に晒され続ける。
私 デジタルタトゥーですね。
同級生 ぜんぶエミリがやったことだよ。
私 まるで鬼畜の所業ですね。
同級生 うん。
私 動画をばら撒かれて、椎貝さんはどうなっちゃったんですか?
同級生 飛び降り自殺を図って、一命は取り留めたけど、脊髄を損傷して半身不随になったよ。
私 そんな……。
同級生 椎貝の両親は、エミリのこと相当恨んでると思うよ。
私 そうでしょうね。
同級生 椎貝の両親がエミリを殺したんだよ。
私 えっ?
同級生 ごめん。ただの憶測だけど。
私 ……椎貝さんはいまどこにいますか?
同級生 実家で療養してるはず。
私 実家に行けば会えるんですか?
同級生 たぶんね。エミリの事件に興味があるなら、会ったほうがいい。
私 行くだけ行ってみます。
同級生 うん。
私 きょうはありがとうございました。
同級生 あのさ。
私 はい。何ですか?
同級生 因果応報だと思うよ。
私 え?
同級生 エミリが殺されたの、因果応報だと思うよ。
私 はあ。
同級生 あんな生き方してたら、いつかはそうなるでしょ。
私 ……。
同級生 いま、椎貝の住所教えるね。
――――――――――――――――――――――――
それから同級生は、ファミレスの紙ナプキンに椎貝瑠美さんの家の住所を書いてくれた。
同級生は、自転車に乗って帰っていった。
バス停に向かいながら、私はひどく憂鬱な気分になっていた。
因果応報――。
同級生は言った。
被害者の死は、彼女が行ってきた数多くの悪事の清算と捉えるべきだろうか――?
椎貝瑠美さんの家は、閑静な住宅街にあった。
かじかんだ指でインターホンを押すと、椎貝さんの母親が応えた。
とても優しい声だった。
椎貝の両親がエミリを殺したんだよ――。
一瞬、同級生の声が脳裏をよぎった。
私は、突然の訪問を詫び、椎貝さんと話がしたいと伝えた。
しかし、椎貝さんの健康状態はあまり良くないらしく、面会はできないという。
お見舞いの言葉を述べ、私は椎貝さんの家を辞した。
電車に乗り、スマホでニュースサイトをチェックすると、事件の続報が入っていた。
特殊詐欺グループのリクルーターや「かけ子」の女三人(いずれも十代)が逮捕された。
女たちは、東京都に住む高齢女性に嘘の電話をかけ、キャッシュカードを騙し取り、ATMから現金百万円を引き出した疑いが持たれている。
取り調べの中で、女たちは「エミリー」と名乗る人物から指示されたと供述した。
また、女たちは「エミリー」が東京湾女子高生遺体遺棄事件の被害者・松永英美莉であることを認めた。
警察は、東京湾女子高生遺体遺棄事件と特殊詐欺事件との関連について調べているという。
松永英美莉は特殊詐欺グループを率いていた!
ふいに頭を殴られたような衝撃が走った。
しかし、冷静になって考えてみると、中学時代に半グレの連中と組んで、同級生に強盗や売春を指示していた松永英美莉であれば、特殊詐欺をやっていてもおかしくはない。
私は、「エミリー」の指示による特殊詐欺事件に関与していた十代の女性Aさん(仮名)とSNSで繋がることに成功した。
Aさんに LINEを送ると、「エミリー」との関係について教えてくれた。
Aさんは、「エミリー」率いる特殊詐欺グループで、高齢者に詐欺の電話をかける「かけ子」の仕事をしていた。
が、このままではいつか逮捕されると思い、半年ほどで逃亡を決意したという。
現在は、友達の家に潜伏しているらしく、外には出られないがZOOMでなら話せるということだった。
私は、Aさんから話を聞くことにした。
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