02-02 やりすぎ注意(手遅れ)

 どうやら二人の戦闘は終わっていたらしい。

 と、いうよりも。何分か待たせていたらしい。


「ニ十分以上も私達を放置するとか、何してたのよ」


……訂正。ニ十分以上だったそうです。


「ほらライズ。早く表に出て」


 なんでこんな、殴り合いのケンカ前みたいな事を言ってるのでしょうかこのネギマルは。

 というか何がどうしてこうなった!?


「はよ」


 あ、はい。


 と、いう事で。アリーナから出て拠点の外、三人が皆ワールドに出て来た訳ですが、一体何をしようというのでしょうか。


「タイマーは?」

「いりません。速攻で片付けます」


 あら物騒。ネギマルはまあ不機嫌そうなのはいつも通りと言えなくもないけど、カグラの方までピリピリしてる気がする。

 全く聞いてなかったけどこの二人、一体何を話しながら戦ったらこうなるのだろうか。

 こちとらハーネス作るのが楽しくて何も聞いてなかったというのに。


「……今のうちに距離を稼がないとは、随分と余裕じゃない」

「いや、今から何をするんだ?」


 少しの。さてはネギマル、呆れているな? 胃が痛むから沈黙はやめて欲しいのだけど?


「さっきは決着がつかなかったから、先にライズを撃破した方が勝ちっていう勝負をするの」


……。


「ドローって、マジ?」

「同時に耐久値全損するし、ルームホストは放置だし。合図は無いからさっさと行って」

「うっそ……」


 もう何言ってるか意味わからない。というかさっきの戦闘、カグラとネギマルが、相打ちで引き分けになった……と?


「てか、超高機動極振り二機相手に、固定砲台が逃げる余裕ある?」

「――ッ!!」

「…………」


 おっと、何だか怖い。

 どっちか分からないけど明らかに呪詛吐いてる気がするし、なんか台パンが聞こえた気もする。

 まあ、固定砲台は言い過ぎか。動き回る固定砲台だし。そもそも動くなら固定じゃないか。


 これはもう、なんというか……。


 全力で離脱!


 オーバードライブの予備動作が発動した直後、火炎放射と榴弾とタントーを構えた夜桜がGOLIATHへと襲いかかる。

 目には悪いが、我がGOLIATHには大したダメージではない。

 火炎放射は視界が塞がれるが、そもそも長時間当てなければ効果は薄い。榴弾は着弾点の周りが真っ白になるが、重量機には爆発によるノックバックなどあって無いようなもの。ましてやその矛先に突っ込んでくるなど愚策! 超重量の機体と言えど、その高出力ジェネレーターによる初速は軽量機の比ではない! 目には悪いが!


機動形態モービルモード】にしておいて正解だった。

 二人とも、戦意剥き出しの【戦闘態勢コンバットモード】だったから何となく気付いてはいたけど、逃げ回るだけなら誰にも負ける気はない。そう、例え世界一位カグラが相手でも。


 まずは初速で二人を引き離す。

 構造上、夜桜やKonohaみたいな超軽量高機動型の機体には、重量がかさむ高出力なジェネレーターはせられない。というか、使い物にならなくなる。ライズの金策専用機体:キャッシュカードがいい例だ。脚部ユニットなどの重量制限もあるし、例え制限をクリアしても、極端なまでの加速を代償に通常移動がほぼ使えなくなる。更には通常のブーストでさえ、使用すれば耐久値がじわじわ削れていく。空中分解、という事だろう。よって軽量機は必然的に出力の劣るジェネレーターを使わざるを得ない訳だが、それはそれでメリットがある。

 モードの切り替えが出来る様になって、エネルギー消費が少なく長時間のブーストが可能というアドバンテージこそ無くなった。しかし最高速度の上限が、実質無くなったのである。


 重量機の場合、ジェネレーターの出力任せに加速したところで、そもそもが重いせいで速度にはどうしても限界が生まれる。そこが軽量機ならば、機体を浮かせる為に割かれるエネルギーがそのまま加速する力に回せて、時間こそかかるがどこまでも速度を上げていける。


……そう考えると、そのうちドラッグレースとかタイムアタックレースなんかが実装されそうな気がする。配信者とか、絶対企画する人いるでしょこれ。機体構成次第で特性が大幅に変わるんだから、競技性けっこう高い気がする。

 あとでカモにやらせよ。専用の機体組んでから。


 さて結構離れているけど、そろそろ二人も速度を上げてきたみたいだ。

 レーダーに映る二人のアイコンが、離れなくなってきている。


 ここからは経験と情報が差につながってくる。


 地形情報。チェイスするならより多く知っている方が絶対的優位に立てる。

 車ゲーなら、ある程度の車両スペックさえあれば、相手が超高性能な車両を使っていたとしても、地形を利用すれば振り切るのはあまりにも簡単。ブラフも盛り込めば、まず負けは無くなる。パターンが出来上がる。

 ある程度のエリア毎に得意なルートを確立してしまえば、自分がどんな車両を使おうともワンパターンでどうにかなってしまう。

 だが、ここはMFF。ロボゲーである。ほとんど同じ機体構成でも、たった一つのパーツで特性が大きく変わる。そうなれば最適なルートも、機体によって全く別のモノになってくるのだ。


……いや、車ゲーも、ものによっては特性の変化が大きいか?

 まあ、細かい話はさておいて。


――例えば、都市部。

 我が企業の拠点からそう遠くない位置に、荒廃した都市の跡がある。

 どんなジャンルにもありがちな都市という地形だが、頽廃たいはいした世界観では最早ダンジョンと言って差し支えないだろう。

 半ばで折れ、完全に道を塞いだ高層ビルの残骸。障害物競争で置かれるハードルの様に点在する、破壊出来るかも分からない歩道橋。荒れ果てていてもジャングルの様に視界を塞ぐビル群。立体的な迷路となるトンネルや高架橋は、空を飛べるロボットであるが故にただの障害物と成り下がっているのが救いか。

 この場所にはあまり来ていないが、この地形は実にGOLIATHと相性がいい。


 距離自体はあまり引き離せないが、複雑さ故に追っ手を撒くには最高の環境である。

 機体性能も実にピッタリ。瞬間的な加速力に圧倒的アドバンテージのあるGOLIATHなら、針の穴に糸を通すが如くビルの隙間をすり抜けるのに最適。視覚的な情報としてレーダーがあるのが幾分辛いが、追跡者を翻弄するにはもってこいである。

 東西南北。ともかく方向転換を繰り返すのだ。右、左、右、左と、相手の視界から逃れる様にある程度一定方向に進んで、追跡者の視界から消えてレーダーにも映らない辺りまで来たら反転。離脱すればもう見つかる事など早々ない。

 ちなみに、使っているのが軽量高機動型だったら、ほぼ外周を回る様にして直線加速に頼る他なかった。振り切る自信も無いから、さっさと違うエリアに向かっていただろう。


 網目状に張り巡らされた道路。規則的に並ぶビル群。進行方向に何があるかを即座に認識して、着実に後ろの二人を置いてけぼりにする。

 自分は最高速を出しながら、相手には減速の繰り返しを強制する。なんともいやらしい駆け引きである。


……ちょっと後が怖いかも。


 さあ、ここで一つ問題が発生した。

 この都市を抜けたら、どうしよう。


 野良が相手なら無理矢理引き剥がして、レーダーから消えるか拠点に帰ればそこで終わりになる。が、今相手にしているのはフレンドであり企業に所属するメンバーである。しかも、絶対怒ってる。

 万が一拠点に戻ったところで、機体は無事でも俺の方に直接(精神的)ダメージが来る事は間違いない。いっその事、機体の修理時間を代償にして、二人の矛先を俺かららせば(比較的)平穏に明るい未来を迎えられそうではある。だが、ここまで引き離しておいて二人の前に首を差し出すというのは、きっと神経を逆撫でするだけとなるだろう。

 今更追い付かれるというのは、ここまで来たらあまりにもわざとらしい気がする。

 バレない演技など今の状況で考えられる訳もなし。


 違う場所に向かおうにも、レーダーが足枷となる。

 フレンドや同一企業所属のプレイヤー同士では、どんな所に行ったとしても位置情報が筒抜けである。

 あの様子では、ほとぼりが冷めるのを期待するには無理があるし。


 なんだか気付かないうちに八方塞がりとなってしまっているではないか。

 

 もう、都市エリアの端まで来てしまっている。

 引き返す方向に変えてこのエリアをぐるぐる回れば、時間稼ぎくらいは余裕で出来る自信がある。とはいえそれを実行に移せば、代償が大きくなるだけだ。絶対にやってはいけない。


 万策尽きた。

 高層ビルが立ち並ぶエリアは終わりを告げ、見晴らしのいい荒野エリアへと突入した。


 一時しのぎでしかないが、ともかく速度を落とさず直線的に進み続けるしかない。

 後ろの二人も進路がクリアになった事で、どんどん速度を上げ迫ってきている。


 追いつかれたら、ともかく急転回で誤魔化す。

 計画性も何もあったものではないが、それ以外に思いつく手段など無い。

 理想としては、崖になっている所で追い越させて落とし、反転のタイミングで上昇の手間をかけさせてやれたら万々歳だ。

 ただ引き返すだけにはなるが、上手くいけばまた有利な都市エリアに持ち込める。




 さあ、もう少し、もう少し………………今だ!


――パスン。


「い゛!!」


 利かない。


 ブーストを掛けようにも、オーバードライブを起動しようにも、一切反応が無い。

 最初はまたボタンの不具合か何かかとも思ったが、ボタンを押せばパスパスいってるからゲームシステム的に正常な何かである事は間違いない。


 ただ、崖から落ちている最中にこんな事になるのはどうなのだろうか。


……否。一つ訂正しよう。


 今、崖から・・・落ちているのではないみたいだ。

 下を見ると、その、なんというか……。


 巨大な奈落・・・・・に落ちているみたいである。


 お(ちる)先まっくらとはこのことか。

 ブースターも何も使えないのでは、ただ行き着く底がある事を祈る他ない。


 銃弾やら榴弾やらミサイルやらまで降り始めているけれども、その爆発による明かりでさえ底を照らす事はない。

 まさかワールドエリア外だとかチャンク抜けだとかいう不具合には到底思えないし、運営が用意したなんらかのイベントか何かだとは思う。


 ただの落とし穴で、機体が大破するだけのゾーンだとしても今は甘んじて受け入れよう。いっそその方がいいかもしれない。

 まあ、その前にGOLIATHの耐久値が削られ切らなければ、の話ではあるけれども。


 落ちるにしてはそれなりに長く落ち続けている気がするけど、一体どれだけの深さがあるのだろう?

……本当に、底あるよね?


 あ、なんか読み込み入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る