02-03 Welcome 2 UnderGround
ええ、はい。
全く予想出来なかった訳ではないけれど、いざ目の当たりにすると思うところはある。
突然の読み込みが終わったあと、ムービーではなかったが強制操作。ブースターを起動して着地の衝撃を打ち消すモーションが入った。
まあ、直後にカグラとネギマルも降りてきて、この世の恨みを凝縮したかの様な暴言と集中砲火によって、耐久値が灰の様に吹き飛ばされてしまった訳だけど。
ただ、そのあと。
地上の企業拠点ではなく、地下のガレージに。
しかも、機体使用不可ペナルティも無しに。
――だが、それだけではない。
ガレージにいるのに、機体を操作できる。
あり得ない事である。
【地下】においてガレージとは、いわばメニュー画面の一つである。
ある意味では異空間とも呼べる場所。ワールド上とは、そもそもの理が違う。機体を自由に動かすどころか、空間を自由に見渡すなど考えすらしなかった場所。
視点だけ操作する。
見慣れたガレージより薄暗く、しかし移動には問題ない程度に周囲の状況を把握出来る程度の明るさ。
通常のガレージなら、喧噪や整備作業といった環境音がしているものだが、NPCや稼働している機械がないせいか、どこか廃墟染みたラップ音がする程度。
自身の機体の駆動音が反響して聞こえる中、恐る恐る移動してみる。
地面には移動の邪魔になる様なオブジェクトは配置されておらず、ゲーム内でも最大級の脚部ユニットを装備するGOLIATHでも、どこかにハマって動けなくなる心配はなさそう。
と、ここで画面端に【ガレージメニュー】と表示されているのが目に入った。
「インタラクト、で……いいんだよな」
ライズはゲートなどのオブジェクトにアクセスするのと同じキーを押すと、突如視点が動いた。機体を前から映すポジションに移動して、普段と変わらぬガレージメニューがそこに表示された。
ふむ、専用メニュー……という程ではないが、いくつか項目に違いがあるらしい。
まず、アセンブルや機体の変更は、問題なく出来るらしい。
周りに人もいなければ機械も動いていないのに、どうして出来るのかという疑問点こそあるが、不便ではないので良しとする。
機体テストは、出来ない。
【地上】の拠点でも【地下】のガレージでも、すぐに専用エリアで機体のテストを行えたのだが、施設が稼働していないという事なのか利用出来ないらしい。
まあ、こんないかにも機能を停止している所で、急に射撃用のターゲットやらBOTが生き生きと稼働していても不自然極まりないのだが。
そして、補給という項目が追加されている。
今はリスポーン直後という事で弾薬も耐久値も減っていないのだが、これでそのあたりの回復が出来るのだろう。
「えっ……そっか、ワールド上の専用アクセスポイントっていう判定、という事なのかな」
いつものクセでメニューを戻るつもりでガレージメニューを閉じたら、そのまま機体の操作に移った。いつもなら拠点やフレンド、オプション設定やログアウトといった項目のメニューが表示されるのが常だっただけに、すさまじく違和感を抱いてしまった。
セーフゾーン、なのだろう。確信はないが、直感でそう感じた。
オープンワールドMMORPGの、街中とか特定のNPC周りとか、そういう印象。この場所に入りさえすれば、どれだけモンスターに追われていようとも、強制的にターゲットが外れて安全に過ごせる。そんな雰囲気の場所である。
ライズはこの【ガレージエリア】を一通り動き回って観察し、メニュー項目を念入りに調べた。全てを完全に記憶している訳ではないが、それでも明らかに違う点に、つい眉間にしわが寄ってしまう。
「このガレージには
これまで【拠点に戻る】という項目があった場所には現在、【ガレージに戻る】という項目が表示されている。
企業に所属していないプレイヤーなら【地下】に、企業所属ならその本拠地か支部を選んでその場に移動できるファストトラベルシステム。現在地によって支払うコストこそ違いはあったが、どこにいても実行出来たはずの選択肢が、無くなっているのだ。
世界観に沿って考えるなら、航空機やトラックなどのビークルで機体を運ぶという工程だろうが、この地下ではそれらビークルが入ってこれない理由がある。地上へと戻るにはどこかにアクセスする必要がある。と、いう事だろうか。
そうなれば、これからの予定は決まった。
「大型エレベーターを探すか。そんで、二人と合流だな」
この状況で、カグラとネギマルの二人とは別々に行動し続けるのは危険な気がする。
万が一変なギミックを作動させて、更に別の場所に飛んだり閉じ込められたりしたら、自分一人では何も出来なくなる可能性だってある。
ここは【地下世界】をベースに作られた場所であるというのは、何となく分かる。だからといって、全てを知っている訳でもなければ、このガレージの様に全てを自由に見て回る事も出来なかった。
幸いにも、レーダーはある。現状では特に反応を示してはいないが、二人とも同じ企業に所属しているから、探すのはきっと難しくない。
そして、この場所から抜け出す場所、方法を探す。
落ちて来た場所からは、きっと戻れない。
マップに関しては使えるかどうか分からなかったが、いざ開いてみると固有のマップが表示された。
今までは上空から見下ろす平面的な映像、というものだったのに対して、現在表示されているのは、立体的なワイヤーフレーム。空間の輪郭を線で縁取ったものである。
なんとなく、懐かしさを覚えて口角の上がるライズはしかし、記憶にあるものより圧倒的に操作しやすくなっているのに高揚を抑えられない。
最初はジョイスティックを使用していたものの、マウスを使った方が見やすい事に気付いた。キーバインドのヘルプも表示されていて、多少3Dに慣れているなら、難なく操作できるだろう。
視点を遠く縮小すれば、かなりシンプルな線だけの図形、といった感じではあるのだが、奥行きや重なりによって色が変わり、地形や繋がりがかなり分かりやすく表示されている。
どこかをピンポイントで拡大するかダブルクリックする事で、その空間をピックアップ。多少簡略化されているが、どのような設備のエリアなのかというのがハッキリ分かる程の表示がされている。
縮小していても自分の位置には緑の光点が表示されていて、自分のいるエリアがどこか分かりやすいのだが、そのすぐ近く。非常に細長く上に向かっている空間がある。
これほど分かりやすい設備も他になかろう。二人と合流する前に確認しておこうと、すぐに移動を始める。
空間を仕切るゲートは閉まっているが、アクセスすると難なく開いた。エネルギーが通っている様には見えないこの施設だが、そこはゲームという事か。早速謎解きをする必要が無い事に安堵しつつ、目標のエリアへと直行。
その場所は、やはりエレベーターで間違いなかった。
台座にレール、様々な装置と思わしきテクスチャで作り込まれた設備。ここが【地上】と繋がる場所だというのは目に見えて明らか。
ただし、使えない。
細かく探索するまでもなく、ハッキリと宣言されているみたいで、落胆すら感じない程である。
分かり切った事ではあるが、エネルギーが通っていない。
こういった設備は、使える状態なら絶対にそこかしこが光っているはず。それが何一つ無いのだ。
色々な場所に近付いたり、角度を変えて装置にアクセスしようと試みても、何の反応もない。エレベーターの本体であろう台座には、角にランプであろうオレンジと赤色の点があるものの、乗っても降りても一切明るくなる気配がない。
何かアイテムを入手するか発電設備を起動しなければいけないならば、きっとそう促すメッセージが表示されるであろうに、それすら無いのだ。
ただの飾りにしては随分と作り込まれたこのエリアに、何となく嫌な予感がした。
そんなライズに無慈悲にも、その予感が正しいのだと、告げられてしまった。
今まで見た事の無い画面ポップアップ。不安を煽る通知音は、運営から個人的にメッセージが送られてきた事を報せるものだった。
内容を確認したライズは、正式にリリースされているゲームとしてはどうかと思う。だがそれ以上に、ゲーマーとして、プレイヤーとして、とめどなくワクワクする気持ちが溢れてくる。
とはいえ今は、何よりも優先しなければならない事がある。
「さっさと、二人と合流しないとな」
二人の位置をマップで確認。
エレベーターエリアを出たライズはオーバードライブを起動。長い通路を一気に駆け抜けるのだった。
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