ある農夫の告白 【カクヨムWeb短編小説賞2024応募作品】

愛田 猛

ある農夫の告白


カクヨムWeb小説短編賞2024 応募作品



農夫のトムは、死の床についていたあ。

そばには、長い間連れ添ってくれた、幼馴染で最愛の妻、ヘレナがいる。


トムは、最期にあたり、話しておきたいことがあった。

「ヘレナ。お前と過ごせて、いい人生だった。こん田舎でずっと二人きり、苦労もかけたが、文句も言わずに付いてきてくれてありがとう。」


「そんな…私こそ、とても幸せだったわ。早く元気になってね。」ヘレナが答える。


「もういいんだ、ヘレナ。自分のことは自分がよくわかっている。だからこそ、お前に言っておきたい。」


トムは続ける。

「実はな。わしのクラスは、農民ではなかったんだ。」


この世界では、人には「クラス」というものがあり、それによってある程度職業が決まる。


農民なら農家になり、剣士なら兵になる。魔法使いとか僧侶などのクラスもある。

10歳のときに教会でクラスを調べられる。十歳の時、トムとヘレナは一緒に教会に行き、トムは勇者でなく農民、ヘレナは裁縫士のクラスと伝えられた。 その後トムは実家の農家を継ぎ、ヘレナはお針子として働いた。


二人は結婚し、真面目に働き続けた。トムは作物の栽培方法を変えたり、肥料を作ったりして村の農業を発展させた。 ヘレナはトムを支え続けた。


子供はできなかったが、畑は弟の息子が継いでくれている。ヘレナのことは心配だが、親戚が支えてくれるだろう。


ヘレナが真顔で問う。

「農民でないなら、何?あなたは農業を発展させたでしょ。農民のクラスでしょう?}


「じつはな。わしのクラスは『勇者』だったんだ。」」


ヘレナが驚く。

「勇者って…それなら、こんな田舎でくすぶってないで、王都に行って英雄になれたんじゃないの?」


「いや、勇者になると、魔族や魔王と戦わなければならない。長いこと魔王も魔族も落ち着いているが、いつ戦うかわからない。 わしは臆病で、命を賭けて戦うのは嫌だった。それにな…。」


それに?ヘレナが聞く。


「ヘレナ、お前と一緒に過ごしたかったんだ。」

トムが答える。


「勇者のクラスに目覚めたのは九歳の時だった。その時、目の前になんだか不思議な文字が現れたんだ。勇者クラスを受け入れますか? はい/いいえ ってな。」


わしは何日か悩んだ。だが、結局は『いいえ』を選んだ。すると、『勇者クラスを封印し、農民を与えます。いいですか? はい/いいえ』と出てきてな。それで『はい』を選び、そしてわしは農民としてお前と過ごすことにした。勇者のクラスは封印されたが、魔王と戦わなければならないときは封印が解除されるらしかった。だが、幸いなことに、そんな必要もなく、人生をまっとうできる。今まで、わしを支えてくれて本当にありがとう。」



ヘレナはトムの手を取り、涙を流しながらいう。

「私との人生を選んでくれて、本当にありがとう。私はあなたと添い遂げられて、本当に幸せよ。」


「ありがとう。」トムはそう言うと、目を閉じた。そして程なく、トムは天寿を全うした。

その死に顔はとても安らかだった。


ヘレナは、トムの亡骸に向かって語りかける。


「トム。あなたと同じころ、私は『魔王』のクラスに目覚めたの。でも、勇者に殺されるのは嫌だし、あなたと暮らせなくなる。だから封印したの。勇者と魔王は相性が悪いから、子供ができなかったのかもね。」


ヘレナは続ける。



「でも、もういいわね。あなたがいない世界だったら、人類の敵になるのもいいかもね。」


その日、魔王が復活し、百年におよぶ人魔大戦が勃発した。


(完)




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別の短編もカクヨムWeb小説短編賞2024 に応募しているので、よろしければご覧ください。


地球防衛隊の秘密

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