第2話 バトル

 その若き女性教員が暴力をふるうのを、隆は一度だけ見たことがあった。

 宿題を忘れた者が立たされた。隆もその一人だった。

 教員は一人一人に理由を訊いた。

 隆の前の席にワルが立っていた。教員はネチネチと追及している。


「次は自分か」

 隆はすっかり覚悟はしていた。いよいよ隆の番になった。

 教師がワルの横を過ぎようとした時、ワルが振り向きざま、教師の横面を張った。腹に据えかねていたのだろう。


 教師もワルに掴みかかっていった。しばらく揉み合いが続いた。

「もう、教頭先生に怒ってもらう」

 ワルは職員室に連行された。隆はひとり難を逃れた。


 その事件も教室で起きた。

 女性教員は教卓の前で、顔色を変えた。

「ナニ、これ!」

 小さな紙片に「バカ」と書かれていた。それが教卓の上に置かれていたのだ。

「私に対する当てつけのつもり?」


 手が付けられなかった。

「誰がやったのか言いなさい」

 全員黙りこくっていた。

「先生から見ると、こんなことするのは誰か、分かってるのよ。どの学年にも一人や二人はいる。上の学年ほどひどくはないけどね」

 洋一のことを指しているのは、明らかだった。


 延々と続きそうだった。

隆は手を挙げて、起立した。

「何、小杉君」

「ボクがやりました」

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