第4話
なんとなく魔術師……、ナンマジと呼ばれるオレ達は、世代で括られて見られる事が多い。およそ35歳以下の人間がナンマジなんだと高齢者は思っている節がある。大雑把なカテゴライズだ。恵まれた人生を歩む者は今も昔も変わらない。恵まれた人生を歩んでいる人間の中からナンマジなんて生まれない。ちょっと前に流行った言葉、さとり世代ってヤツの中にもリア充やパリピはいた訳で。リア充やパリピはナンマジと対極の存在なんだがな。その辺を分かっていないヤツが多すぎる。
さとり世代……、さとり世代か……。言い得て妙だな。さとり世代のさとりとは、【人生を悟っている、もっと言えば人生を諦めている】というニュアンスで語られた訳だが、さとり世代の中から生まれた訳だ、最初のナンマジが。ヒトの心を読む妖怪、サトリに似た能力を持ったナンマジが。
人の心が完璧に読める訳じゃないし、人の心を読む事に全振りしている能力って訳じゃないが、ナンマジが気味悪がられるのはそこの部分が大きいんだろう。その気持ちは分からなくはない。でも、この能力を制御できるようになるまでの苦労はナンマジ以外には分かるまい。人間なんて一皮むけばみんな欲に塗れた醜い獣。その醜い部分をフィルター無しに見せつけられ続ける苦痛はナンマジ以外には分かるハズがない。
「新人くんは偉いよな」
バイトからの帰り道、オレは思いめぐらせていた思索の中で、ポツリ一言呟いた。
ナンマジの能力を制御しきれなかった二十代、オレは誰とも関わりたくなかった。だから、引き籠った。モニター越しのコミュニケーションであれば、ナンマジの能力は発揮されなかったから、他人とのコミュニケーションを完全に断つ必要はなかったが、リアルに対面してコミュニケーションをとるのは本当に吐きそうだった。あのしんどさを感じながら働いているんだ、新人くんは。ホント、偉いよ。
そんな事を考えながら自転車を走らせていると、曲と曲の間の一瞬の静寂のヘッドフォンの隙間から、女の悲鳴が耳に入ってきた。
バイト帰りの午前二時。公園からの女の悲鳴。面倒事である確率は百パーセントだ。
「ちぇ。気づいてしまったからには仕方ないか」
オレは公園の入り口に自転車を停めて人の気配がある方へ歩き始める。気づいた以上は何かをしないと、永遠に抜けない棘を心に刺したまま生きなきゃならなくなる。それも、ナンマジの宿命らしい。後悔のフラッシュバックの頻度が高すぎるのがナンマジなんだ。「あの時のオレには救えたハズなのに」なんてお節介な後悔の棘でずっと心が痛いのはイヤだからな。さっきまで聞いていた曲のアウトロと、続いて聞くハズだった次の曲のイントロの組み合わせが最悪だったな。仕方ないけど。ヘッドフォンは頭から外して首にかける。
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