第3話
「今日は暇かなー」
「どうかな。忙しけりゃ忙しいなりに、暇なら暇なりに、いつもどおりオフにするだけさ。どうでもいいんじゃね?暇だろうが忙しかろうが」
「そうだな。違いない」
歳の近いバイト仲間となんでもない会話をする。歳の近いバイト仲間は全員ナンマジだ。『オフにする』という一言で事足りるのは、面倒臭くなくていい。
客層が高齢世代に偏っているこの店は、それなりに流行っているようで経営状態に問題はない。気楽に稼げるという面では良い働き口だ。でも、アルコールの類の注文が常に入る飲食店というのは、『オフにする』技術が拙いナンマジには過酷な現場だろう。
「おい!おいコラ、聞いてるのか」
客席から大きな声が聞こえてきた。ま、これが日常だよな。酒を提供する飲食店の午後十時の日常だよな。老害世代の酔っぱらいは色んなタガをすぐに外すんだ。ハイハイハイハイ、その大声の主の相手をしてるのは誰だ? オレは普通に歩いてその騒音の音源に近寄っていく。あぁ、新人バイト君か。彼もナンマジみたいだけど、こういう時の対処に慣れていないナンマジは無駄に傷つき疲弊するからな。ここはバトンタッチだな。
「どうなさいました?お客様」
オレはそう言いながら、新人くんとその客の間に割って入る。
「どうもこうもねえよ!その若いのもアレだろ、ナンマジなんだろ!ナンマジだったら、もっとお客様の気持ちを察しろよ!読めるんだろうよ!人の心がよ!」
「申し訳ございません。若い世代の全てがナンマジという訳ではございませんし、ナンマジであるかどうかで差別してはならないと法律でも決まっております。ですから、この店で働いている者の中にナンマジがいるのかいないのか、それは当人以外知り得ない事なんでございます。どうかご理解ください」
オレは能力をオフにして、感情をオフにして、マニュアルどおりのセリフを並べる。
「ちっ。ホンット、めんどくさい新人類がよ! 分かった分かった。もういい。ビール持ってこい。生中三つだ」
そう言われたタイミングで少しだけ能力をオンにする。
『仕事は上手くいかないわ、クソガキには舐めた態度とられるわ、ロクなもんじゃないな、クソが』
向こうを向いた老害客の思考が頭に流れてくる。そしてすぐにオフにする。もうちょっとマシなストレス発散の仕方を学んでくれないものか。
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
そう言いながら、オレは新人君に軽くウィンクする。客の『生中欲しい』が発声したそれなのか、思考、思念のそれなのか、判断できない事ってあるよね。ドンマイ。
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