第2話

 年代物のヘッドフォンを頭にセットしてオレは自転車にまたがる。中古品ショップで買った割には高い買い物だったが、通勤時間の雑音を大きく軽減してくれるこのヘッドフォンは良い買い物だったと思っている。


 いつもの通勤ルートをゆっくりと走る。お気に入りのミュージックをスマホでかけながら走る。途中、通りがかった公園にはギャン泣きの子供とその母親らしき女がいた。はぁ。やっぱりこのヘッドフォンとミュージックはオレのメンタルをしっかりと守ってくれる。似非魔術師?ふざけんな。感性が砂漠の老害どもめ。ナンマジの面倒くささの一端すらもまるで知らないくせにオレ達を一方的に悪と断ずるんじゃねーよ。大体、魔術師と呼ばれる程の大げさな能力なんてねーよ、バーカ。


 ♪可愛い君が好きなもの ちょっと老いぼれてるピアノ

 さびしい僕は地下室の すみっこでうずくまるスパイダー

 洗いたてのブラウスが今 筋書き通りに汚されて行く

 だからもっと遠くまで君を奪って逃げる

 ラララ 千の夜を飛び越えて走り続ける♪


 バイト先の駐輪場に着く頃に流れ始めたスピッツの歌詞がキンキンと脳に刺さる。スピッツのボーカルはオレからすれば、しっかりとオジサンだし、老害世代に違いない。でも、この曲を作った頃の彼は今のオレと近い感性を持っていたに違いない。


 オレは自転車にチェーンロックをかけて、店の裏口ドアに向かう。

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