ナンマジ
ハヤシダノリカズ
第1話
「1960年代にネズミを使って行われた実験にユニバース25というものがありましてね。外敵が存在せず、潤沢な飲み水とエサに満たされていて、住む場所にも困らない十分に広い空間にネズミを放ったところ、ネズミたちはある程度の繁栄の後、絶滅に向かう結果になった……、しかも、何度やり直しても同じ展開になり、絶滅は不可避であった……んだそうなんです」
学者然としたその男はテレビ画面の中で学者らしい話し方でそう言った。午後のワイドショーの司会者はその学者に、番組が求めている論説のその先を急かすように促す。
「それが、人類にも当てはまるとおっしゃりたいんですね? でも、それは現在の
司会者の意図を理解したのだろう学者は自説を続ける。ほんの少しの不満をメガネに触れるその仕草で表現しているのか、中指でメガネのブリッジをクイと上げる。
「えぇ……。巷では30歳まで性交渉の経験がない男性は魔法使いになるだなんて冗談がありますが、私にはそれがただの冗談だとは捉えきれなくてですね。ユニバース25の実験の終盤にネズミは生殖を行わなくなります。ネズミたちは自己愛に溺れ、他者にはまるで興味を持たないといった風に生きるようになります。ただ、他者への興味は失っているものの、一人でいる事を恐れ、集団で固まって生きるようになります。それが、生存の危機を覚える事無く生きている、それなのに無気力に惰性で生きている現代の若者と重なって見える訳です。そして、現在の……似非魔術師と呼ばれましたが……、若い世代は彼らを【なんとなく魔術師】、略して【ナンマジ】と呼んでいます。私は以降それに倣って彼らの事をナンマジと呼ぶようにしますが……」
「了解しました。それでは以降、番組でもナンマジという呼称で統一いたしましょう」
司会者は憮然と言い放つ。
「それでは次に、ナンマジの方々の能力について語っていきましょう。彼らの能力は自己愛、無気力、惰性という彼らの生き様に大きく影響されてい……」
オレはテレビの電源を落とした。見るともなしに付けていたテレビだ。大して興味もない。ただ部屋の中に誰かの声が欲しかっただけだ。
さて、バイトに向かおう。退屈な人生だが、時間的ゆとりをもって動くに限る。『テレビなんてくだらない贅沢品持ってるのかよ」と口を揃えて言うバイト仲間の顔を思い浮かべて、「イヤ、ホント、マジでそれ」と独り言をこぼしながらオレは玄関のドアを開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます