1.2 Mについて
Mとは何か。
Sと二項対立を形成する、対極の要素である。なので、Sの定義を裏返せば乃ちMとなる。
Sとは、相手の領域を侵す性質や行動、である。
となるとMは、相手に領域を侵される性質や行動、と定義できるだろう。
M=相手に領域を侵される性質や行動=ペネトレーションされる側=挿入される側=受け。全て同じ意味である。
まずは、BL用語の原義に忠実なM(受け)について考えたい。Mとは性的交渉の場面で、挿入される側の役割を担う。端的に述べれば女役である。性行為で女役に回れば、それはMなのである。
なので、一般に女性はMの性質を持つことが多い。性行為での役割分担の関係なのか、それとも性器の形状に起因するのか、はたまた女性ホルモンに影響されるのか、M性の根源は定かでないが、とにかく、女性はMの性質を持つのが一般である(勿論、一般、なのであって、そうではない女性もいる。が、多くはMの性質を持つ、という意味)。
無生物でもMの性質を持つものは存在する。例として豆腐を挙げる。柔らかく、簡単に潰される、また、包丁を挿入される役割を持つ。であるから、豆腐はMである(無生物のSM分類は難しいため、筆者はこれ以上踏み込まない。異議は認めるが、一旦、この理屈で納得いただきたい)。
そしてここからがSM理論に於ける本題だが、Sの概念があったように、Mの概念もまた、存在する。それは、冒頭説明した通り、Sの概念の対極を成す概念のことである。例えば。
無力。何者も支配できず、反対に、何者かに支配されているケースが多い。相手に領域を侵される性質の、一形態である。故に無力はMである。
無名。権威として無名という意味である。誰からも相手にされず、相手に言うことを聞かせることもできない。逆に相手の言いなりであることのほうが多い。その場合はMだと言える。
醜。美は相手を威圧する、畏怖させる。だが醜は、醜いと相手に侮られる、低く見られる。低く見られた瞬間、相手が優位で自分が不利、従属する、という立場が成り立ってしまっている。故に醜は相手に領域を侵される性質、乃ちMと定義できよう。
混沌。特定のルールが支配する秩序と違い、混沌はルールがない、ルールを持たない。それが相手から侮られる要素となるのか不明だが、人の世含めこの世が混沌に始まりやがて高度な秩序へと移行していく現実を見ると、混沌とは原始的状態で、規律がなく、自由である。自由であることは良いことであるように言われるが、自由には役職がない、果たすべき役割がない、故に、人間社会でも自然法則でも侮られる立場にある。ここの説明はやや苦しいが、混沌も、秩序の逆側なのでMの概念であると考えたい。
M=相手に領域を侵される性質や行動、と言うと理解が難しいかもしれないので、M=被支配、と考えれば、すっきり理解できるだろう。支配される側が、Mなのである。支配されるとは同時に、虐待を受けること、つまり、被虐と同意である。そう定義すると、巷間に流布している俗語としての「M」の用法と合致して分かりよいのではないだろうか。
まとめると。
Mとは相手に領域を侵される性質や行動のことである。分かりやすく言うと被支配である。それは性的交渉の場面で、女役として明らかに表れるが、性的交渉を持たない無生物でもMの性質を持つものは存在し、また、M的性質を持つ概念も、いくつか存在する。Sの反対語はMである。こうしてこの世はSとMに分けられる(のかもしれない)。
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