第2話
「かなしーみのー……」
「あぁゆきちゃん……おいたわしや……」
大学に入学して半月がすぎた。
入学を着に、親元から離れて同棲をし始めた俺と胡春。元々一緒に住んでいるようなもんだったが、二人で全てをやるというこにようやく慣れ始めた頃。 俺は、幾度目かのかなしみ〇なみ〇おぼれるを歌っていた。
「また、三位だったよ……」
「あぁゆきちゃん……!」
今度こそ書籍化を!と狙って出した新作だったが、結局アレもランキング三位で止まった。
それでも、一日のPVは4万人を超えているし、星だって3000を超えているのだ。少しでも可能性はあるのではないか?と思っているのだが、文字数10万を超えていても、打診のだのじもない。
「やっぱり、一位じゃないと意味が無いのか……?ブルー〇ックのノア様も二位は記録にも記憶にも残らないとか言ってるし、三位じゃもっと残らないよな……ふっ……ふふ」
「ゆ、ゆきちゃん!」
不気味な笑い声が俺の口から漏れる。それを危ぶんだ胡春が慌てて俺の肩を引っ張る。
無抵抗にゴロンとなると、頭の着地点は胡春の太ももへ。
そのままぐるんと寝返りを打ち、うつ伏せになるとそのままスーハースーハーと深呼吸。
「よしよし、ゆきちゃんは頑張ってるよ」
「あぁ……癒される……」
昔から、疲れている時はいつもこうやって膝枕をしてくれた。頭を撫でられる感触と、顔に感じる体温で少しぽやぽやとしてきた。
「ゆきちゃんは偉いねぇ。流行りにのらないで、よくいつもランキングにのってるねぇ……流行りものとか書かないの?ほら、今だったらダンジョン配信物とか」
「確かに、流行りに乗るのも一つの手だ」
「あ、戻った」
ぐるん、とまたもや回転して仰向けになり、胡春の顔を見る。
「今はちょっと落ち着いてきているが、現在のカケヨメ週間一位はダンジョン配信物だし、ジャンル別で見たら、TOP10のうち七つは題名にダンジョンが入っている。一昔前は追放物や、悪役令嬢系が右を見ても左を見ても存在した」
そう、世はまさに追放系&悪役系時代……!
「流行りのジャンルは、読者を楽しませる要素はたくさんあるし、テンプレが存在するから初めて小説を書くという作家の取っ掛りにもなる。まぁしばらくすると読者が飽き始めて『あーはいはい、また量産型ね』となってしまう多少のデメリットはあるが、基本的にはいい事づくめだ」
「でも、ゆきちゃん一回だけ流行りに乗って追放系書いてたよね?消しちゃったけど」
「うむ」
確かに、一回だけ面白そうと思って便乗したことはある。初動も良く、固定ファンには最初不思議がられたが、それでも評判は良かった。
「ライトノベルを構成する要素は、読者を飽くなき面白の渦に引き込む文と、その世界観に没入させるイラストだ。その二つが完全にマッチしていないと、読者は着いてこないし、続かない」
「うん。そうだね」
「俺の原点は、胡春のイラストに合うような小説を書くことだ」
最初は確かに書くのも楽しかった。量産型と言われないように、色々と手法を変えて展開もした。
だがしかし、ふと思ったのだ、
これがもし書籍化したら、胡春のイラストと釣り合うのかと。
胡春の手を握る。柔らかく、スベスベとしているが、所々ペンだこのような固い部分がある。
「俺は、胡春のイラストに合う小説しか書かねぇ。そういうことだ」
「…………………うにゅ」
そう言いきった俺に対し、胡春は頬を赤らめ、可愛らしい変な発音で返事をした。
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