「書籍化したら俺だけの絵師になってくれ」と息巻いたはいいが、全く打診がこねぇ

結月アオバ

第1話

「書籍化したら、俺だけの絵師になってくれ!」


 高校入学試験合否の発表が終わり、無事に合格した俺達に「合格祝いだ」ということで、スマホを買ってもらった。


 ついに手に入ったスマホを嬉しそうにポチポチしている幼馴染兼恋人である天川胡春あまかわこはるは、俺の言葉に、綺麗な亜麻色の瞳をパチクリとさせると、スマホを口元に持っていきニヤリと笑った。


「なにそれ、新手のプロポーズ?」


「!い、いや、ちが────」


「違うの?」


 そう言い、小悪魔的に俺を見る胡春。暗に、俺に書籍化出来ないのかと挑発しているように見えてしまい────


「────で、できらぁ!」


 ────そう、息巻いてしまったのだ。


 俺────関谷幸人せきやゆきとの両親と、胡春の両親は高校時代からの友人らしく、家族ぐるみで仲がいい。


 小さな頃から互いの家を行き来し、泊まりこむなんて当たり前。


 そして、俺たちの親はオタクだったので、俺と胡春がサブカルの沼に落ちるのも時間の問題であった。


 長い時間を共に過ごし、成長した俺たちが付き合い始めるのも時間の問題だった訳だか。


「それじゃ、同時にフォローしようね」


「おう」


 個人のスマホが手に入り、俺たちはこれから互いの夢に向かって活動を始める。


 俺は作家として。


 胡春はイラストレーターとして。


「「せーの」」


 いつか二人で、ライトノベルを出すことを夢見て。






 ────三年後。


「ゆきちゃーん。朝ご飯の用意ができてる………て」


 慣れた様子で俺の部屋に入ってくる胡春だが、俺の惨状を見たせいか、言葉が途切れた。


「……一応聞いておくね。どしたの?」


「………胡春」


 ウェブ小説サイト『カケヨメ』のホームページが開いてある、パソコンのモニターの前に項垂れている俺の肩に手を置き、覗き込む胡春。


 ホームページには、今週の総合ランキングが載っており、そこには────


「あ、ゆきちゃんの名前あるね。三位おめでとう」


「うん、ありがとう……ありがとうなんだけど……」


 嬉しくも、先日出した新作が三位となっていた。


 だがしかし、ほかの作家達には申し訳なく思うが、こんな順位では足りないのだ。


 同時期に活動をスタートした俺と胡春。運がいいことに、順調な滑り出しが出来た俺達は着々と固定ファンを増やしていった。


 しかし、ある時を境に胡春の絵がSNSで多くの人の目に留まり、いまや彼女はフォロワー数が25万人を超える神絵師となっていた。


 対して俺は、SNSフォロワー数は1500人。カケヨメの作家フォロワー2000人。彼女と比べると、歴然の差ができていた。


 分かってはいる。サイト内ではこの数字は上位には入ると思うし、他の人よりも多く見られているとは思う。


 だがしかし、釣り合っていないのだ。ランキング最高順位三位、公募も三次選考落選と、何かと『3』の数字に好かれている(嬉しくない)ブロンズコレクターでは、釣り合っていない。


「はぁ、今回は一位取れると思ったんだけどな……」


「私も読んでるけど、あれ面白いよ?なんで一位じゃないの」


「俺が聞きてぇんだワ」


 ある一定数いる、『この人の作品面白いのになんで伸びないし、書籍化しないんだ?』作家。俺もその中に仲間入りしていると思うと胸が痛い。


 ほんと、ファン達からの「書籍化マダー?」というコメントを見る度に苦しいんだよ。


「編集者さん待ってます……!!!」


「早くしないと大学遅れるよー」


「ういー」


 ブラウザを閉じて、深呼吸して心を切り替える。大丈夫大丈夫。まだここから上がることだってあるから(震え声)。

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