10:異世界からの勇者……?

「今回の勇者騒動は、前回や過去のものと比べても異質です。

 恐らくジュモーグス王国の国内で何かあったのでしょう」


 エリナさんが言うには、今まで勇者パーティーだけでこの国へ攻めて来た事はなかったらしい。

 大軍でもって魔王国へ侵攻。その中の一部隊が勇者パーティーであり、勇者達を魔王へぶち当てる為に他の多くの部隊が援護していたらしい。


「そもそも、勇者が魔王城へ直接攻めて来るなんて今までありませんでした」


「と、言いますと?」


「この魔王都には多くの民が暮らしております。その事をジュモーグス王国軍も分かっております。

 ですので、両軍がぶつかる場所は広い平野と昔から決まっているのです」


 ……決まっているそうだ。

 え? 勇者ってパーティー単位で魔王城へ攻めて来るもんなんじゃないの?


「逆にお聞きしますが、魔王国にも軍隊が存在していて国境を警備しているのに、その隙間を縫って勇者パーティー単独で魔王城に潜入して魔王だけを倒す。

 そんな都合の良い話があると思われますか?」


 いやだって、今回そうだったじゃないですか。

 アルフェが飛び上がり、俺の肩に座った。


「だからエリナさんはおかしいと仰っているのですよ。

 魔王国は新体制を確立出来ておらず、マオリー陛下周辺や魔王城の警備が手薄になっていたのは確かです。

 ですが、だからといって勇者パーティーが単独で現れるでしょうか?」


 まさか、魔王城内に内通者が?


「その可能性もなくはないですが、今回は王国側、いえ、勇者の都合によっていくつかの段階をすっ飛ばして攻めて来たと考えられます」


 勇者の都合……?


『ですです~、これで勇者様こそが真の勇者であると認められるでしょう。

 姫様と勇者様が結ばれて、私達も側室として迎えてもられば人生安泰ですわ~』


「真の勇者……? もしかして王国にはあの勇者ちゃん以外にも勇者がいる、とか?」


「それに加えてマスターの存在です。

 マスターは王国が行ったと思われる異世界召喚の儀式でこの世界に生まれました。

 あくまで可能性ですが、マスター以外にも異世界から召喚された人間がいるのではないでしょうか?」


 俺以外にもこの世界に召喚された人間がいて、王国で勇者として戦闘訓練を受けていた、とか?


「その異世界からの勇者と比べられて、自分の立場を脅かされたから単独で行動してマオリーちゃんを襲ったという事でしょうか」


 それなら話の辻褄は合う。

 国境を警備している魔王国軍をどうやり過ごしたのかははっきりしないが、今となっては本人達に確認する事は出来ないしな。

 私が消しちゃったんだし。


「僅かな時間ない来る、見た軍隊いる勇者もうすぐ」


 レイラさんがまた何か呟いている。

 私の目をじっと見つめ、何度も同じ内容を……。


「軍隊!? そうだ、魔王国に向けて王国軍が進軍してるんだった!

 その中に本来の勇者パーティーがいるのかもしれない!!」


 という事は、まだマオリーの危機は去っていないんだ。

 父親となった以上、私が責任を持って守ってやらないと。

 幸い、守る力はもらった。私ならば出来る!


「エリナさん、やはり王国軍の様子を見て来ます。

 先ほど見た限り、国境にぶつかるのにあと3日程度でした。

 偵察をした上で今後の方針を四天王と話し合って決めるようにしたいと思います」


 先ほどエリナさんが私を止めたのは、問答無用で軍隊を殲滅させてはならないという意味だったのだろう。

 前の世界、いや私自身はあの世界に行った事はないが、地球には戦争をする上でルールが存在する。

 宣戦布告をした上で、民間人を巻き込まないよう戦争する。

 使用する兵器も国際法や条約などで決められており、非人道的な兵器の使用は禁止されている。

 それと同じように、いきなり行ってドーンで殺すのはダメという事なのだろう。


「分かりました。魔王国にとって勇者は脅威ですから、まだ勇者が存在するかどうかだけでも探っておきたいところですね。

 もう一度確認させてもらいますが、今の人族のお姿で軍隊へ潜入されるおつもりなのですよね?」


「ええ、魔族の姿になって空を飛び、近くに降りてからこの姿に戻って様子を見るつもりです」


「ならば大丈夫でしょう。万が一があればまた魔王の姿になって逃げられますでしょうし、敵方が交戦の構えを見せれば戦闘も致し方ないでしょう。

 ただ、一つだけ約束して下さい。絶対にマオリーちゃんの元へ帰って来ると」


「もちろんですとも。必ず無事に帰って来ますよ」


 エリナさんの言葉に頷いてみせると、レイラさんに両手を掴まれた。


「ありがとうおばあちゃん。大丈夫、無理はしませんよ」


 ぶんぶんと首を振るレイラさん。おばあちゃんと言ったのがいけなかったのかな?

 謝りながら、レイラさんの手をやんわりと解く。無理矢理すると折れかねないからね。

 私の部屋から出ると、すぐそこにマオリーが壁を背にして立っていた。


「やっと出て来た!」


 しっぽをフリフリして飛び付いて来た。

 待たせてしまって悪かったな。でも、また待ってもらわないといけないんだよ。


「マオリー、やっぱり私は王国軍の様子を見に行ってみようと思う」


「……そうなんだ」


 ダメ! とは言わず、ぐっとこらえてみせるマオリー。

 賢い子だ。私が行かなければならない事をよくよく理解しているのだろう。


「でも、ちゃんと帰って来るからね。

 大丈夫、マオリーの本当のお父さんが力を分けてくれたから、パパは強いんだ。

 お父さんとパパとが力を合わせて、マオリーの事を守ってみせるからね?」


「……うん。うん!」

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