11:王国軍へ接近

“見えて来ましたね、そろそろ地上へ降りた方が良いかと”


 そうか、あと何キロくらいだ?


”20キロくらいでしょうか。

 こちらの姿を目視出来る距離ではありませんが、索敵魔法を使っていないとは限りませんので”


 索敵魔法か。地球の軍隊であればレーダーで常に周りを警戒しているだろうしな。

 砂漠へ降りて魔王の姿から元の人間の姿へと戻る。

 後は行軍中の王国軍へ向けてひたすら歩くだけだ。

 さらさらの砂の砂漠ではなく、ところどころに草が生えているしっかりとした地面だからありがたい。


“意識すれば魔力が漏れないようになります”


 うーん、自分の身体に膜を作るようなイメージを浮かべる。


”お上手です”


 アニメや漫画のお陰だな。

 ただ歩くだけではつまらない。走ろう。

 走るのも、地面を蹴る瞬間だけ下半身に魔力を流せば早く走れるんじゃないだろうか。

 思った通り、飛ぶように走る事が出来た。


”もう王国軍の目前です。まだこちらに気付いていないようですが”


 さて、ここからが問題だ。

 今の私はただのオッサン。そのただのオッサンが砂漠のど真ん中、一人で何やってんの? と不審がられるのは間違いない。

 その場で叩き切られる可能性もあるが、その場合は仕方ないとして、何とか平和に軍隊内部へ入り込みたいところ。


“血まみれで倒れているというのはどうです?

 盗賊に馬を盗られた、とか”


 それで行こう。

 指先だけ魔王化させ、額に傷を付けてっと。

 ローブの上から肩もギャッと切り裂いて、後は地面に倒れて転がり砂まみれになってっと。

 これで完璧だ。

 遠くから軍隊がそろぞろと歩いて来る。騎兵や馬車も見えるが、歩兵が圧倒的に多いので行軍速度はとてもゆっくりだ。


 よし、あと1キロほどか。真っ直ぐに進んでいるから必ず私の近くを通る。

 拾われて、治療を受けた後に何があったか事情聴取されるだろう。


 あと50メートル。止まる気配はない。よし、いいぞいいぞ!


 歩兵達がちらちら見ている気配がする。が、私の身体を避けて歩いているようだ。

 ぐえっ、馬車に踏まれた。反射的に車輪を掴んでしまい、砕けてしまった。


“作戦通りですね”


 どこがだよ。


「何事だ!?」


 車輪が割れた事で馬車がガクンと崩れ、中の兵士らしき男が叫んでいる。


「死体を踏んでしまい、足を取られたようであります!」


「死んでないですよ!!」


 あ、思わずツッコんでしまった。

 馬車から兵士が降りて来て、私を見下ろして来る。


「見たところ旅の者か。誰にやられた?

 もしかして、自分の事を勇者だとか何とか言ってなかったか?」


 ……これは乗っかるべきか。


「ゆ、勇者だという男と、お姫様と魔法使いが2人……」


「やはりか、それは迷惑を掛けたな……。

 おい衛生兵! この者の治療を!!」


 ビンゴ。勇者ちゃん達、王国でも行いが良くなかったようだね。


「して、その勇者と名乗る者達は魔王国へ向かったか?」


「さぁ、そこまでは……」


 衛生兵から何か液体を手渡された。何だろう、これは。


“回復薬でしょうね、飲めという事ですね”


 飲むのか、ゴクゴクゴク。まっず!!


“でしょうね。

 傷が回復しないと不自然なので傷を消しておきますね”


 アルフェよ、そういう気遣いが出来るなら不味いって事を先に言っといてくれよ。


「あのガキめ、姫様をかどわかし転移魔法の使い手2人を仲間に引き入れ、それだけでなく聖剣まで無断で持ち出しやがって……」


 兵士がぶつぶつ言ってる。私に聞かせるつもりは一切ないのだろうけど、魔王因子を取り込んだお陰でどんな小さな音だって聞こえてしまうのだ。

 転移魔法か。それならば国境を越え、人に見つからずに魔王城まで攻め入れた理由は説明出来るな。


「お父さん……?」


 ん? どこかから女の子の声がしたが……。

 こんなむさ苦しい兵士しかいない行軍のど真ん中で、あんなに可愛らしい女の子の声が聞こえるなんておかしいぞ?


「兵士さん、この馬車に女の子が乗っているのかい?」


「貴様、それ以上こちらの事情を探るような事を言えばただではおかんぞ?」


 愚痴っていた兵士が腰の剣を引き抜き、私に向けて構えて見せた。

 威嚇にしてはやり過ぎではないかな?

 アルフェ、馬車の中を見る事は出来るか?


“透視魔法を使いましょう。見えるようになりました”


 アルフェに権限を与えたから呪文や詠唱をする事なく発動出来る。便利だ。

 ……、何であの子がここにいる?


「兵士さん、悪いけど寝ててもらうよ」


 首に手刀を打ち込み、兵士と衛生兵を気絶させる。


「ゆいこ……? 結子ゆいこなのか!?」


 馬車の中に声を掛けると、中から小さな影が飛び出て来て、私の胸に飛び込んで来た。


「お父さん! お父さん!! 怖かったぁ~~~!!!」

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